14話 最弱冒険者、魔王と決闘しました
「は? 弁償?」
「はい。どうやら、先日この街で暴れたボスモンスターは王様のペットだったらしいんです」
酒場の店員兼看板娘のルビーさんは、エールと食事をしていた俺に弁償しなければならないものがあると言ってきた。
先日この街で暴れたボスモンスターとは、もしかしなくてもあの太刀を振り回していたボスモンスターのことだ。
「あんなのが王様のペット? あのおじいさんは頭のねじが飛んだのか・・・・・・」
「ペットと言っても飼う予定だっただけで、実際に一緒に暮らしてはいなかったようです。なんでも、城へ搬送中に馬車が横転し、太刀を持って逃げられたとか」
ルビーさんは困ったように頬を掻く。
「でも、それなら王国の責任じゃないの? 自分で勝手に捕まえて、警備の甘さが原因で逃げられたんでしょ? なら、街を守った私たちに報酬をくれてもいいと思うけどね」
今までジュースを飲みながら、黙って話を聞いていたエールがもっともなことを言う。
確かにそうだ。
ヘマやらかした王国のために、こっちは命がけで戦った。
それなのに、変わりのモンスターを用意しろなんておかしな話だ。
「それもそうなんですが・・・・・・。実は、馬車が横転したところは蛍の森なんです。横転した原因を調べてみると、草が結ばれていたそうで・・・・・・。この街で『草結び』を使えるのは貴方だけということ分かった瞬間、何人かの騎士は貴方を拘束するために動いたらしいのですが、聖騎士長が『街を守ってくれたのだから弁償だけでいい』と」
なるほど。
全ての原因は俺にあるんですね。
あそこでカフェの外へ出ておいてよかった。
あのまま出ていなかったら、俺は今頃牢獄の中だ。
「それは仕方ないね。じゃあ、『草結び』をしたのはマコトだし、私はカンケーないから。頑張ってn―――――――――なにするの?」
ジュースを飲み終わり、グラスを素早く置いて立ち去ろうとするエール。
俺はエールの手を掴み、その場に留まらせた。
「俺一人でモンスターを捕まえられるわけがないだろ? エールも手伝ってくれよ。俺達、大切な仲間じゃないか」
俺の必死の説得にエールは顔を引きつらせ、俺の手を振りほどこうと腕に力をこめる。
「離してよ! 私は家でゴロゴロしたいから! 死なないように頑張ってね!」
「大丈夫だよエール! 家でゴロゴロしても血濡れの剣の下でゴロゴロしても同じだから! 一緒にゴロゴロしに逝こう!」
「私まで殺すの!? 私は人生これからなんだよ!」
「俺だってこれからだわ!」
「長ネギ王にできることなんてたかが知れてるでしょ?」
「あ! もう絶対連れて行くからな! 覚悟しろ!」
俺は抵抗するエールを引きずって、酒場の出口に向かっていった。
◆◆◆
「いやよ! 私はここを動かないから。動くつもりはないから」
「スカーレッドさん・・・・・・もう諦めましょう?」
家のソファーにしがみつき、必死の抵抗を見せるスカーレッド。
これが魔王か。へっ。
「あ! 今鼻で笑ったでしょ!」
「なんのことやら」
猛るスカーレッドを宥めようと必死のクリーミネは、すでにモンスターを捕まえに行く支度を整えている。
俺がモンスターを捕獲しなければいけない経緯を説明すると、二つ返事で一緒に行くと言ってくれたのだ。
他の二名とは違って仲間思いな性格だな。
「大体! こうなったのはマコトの所為でしょ!? なんで私まで! マコトなんて吹き飛ばしてやるわ!!」
「へっ! やれるもんならやってみな! 俺の命と引き換えに、お前の寝床ももれなく一緒に吹き飛ぶけどな! 魔力の制御もロクにできない魔王さんよ」
俺の言葉に、いよいよスカーレッドが額に青筋を浮かべる。
「最早悪役のセリフですね・・・・・・」
俺の物言いに軽く引くクリーミネは、スカーレッドを挑発にのらないように宥めようとした。
しかし。
「ふーん。レベル11の冒険者がこの私を怒らせて勝てると思ってるのかしら? 決闘よ! 決闘しましょ!」
「上等だ!!」
俺たちの喧嘩を止められる奴なんて、この国に存在しないのだ。
◆◆◆
「勝敗の判定は、相手の腹・頭・背中に魔法もしくは物理的ダメージを与えれば勝ちとします。後は、特にルールはありません。・・・・・・怪我はしないでくださいよ?」
クリーミネの説明を聞いて、俺とスカ―レッドは頷いた。
俺たちが決闘場所に選んだのは、みんな大好き蛍の森だ。
無駄に広いここなら、スカーレッドの魔力が暴走しても王国に被害はない。
・・・・・・はずだ。
「マコト。謝るなら今の内よ? 地面に頭を擦り付けて泣いて許しを請えば、私の寛大な心でマコトの罪を免除するわ」
「その言葉、そのまま返すぜ? 後で泣いて謝っても俺は許さないからな! 女に暴力を振るう趣味はない。だが、お前は例外としてボロボロにした後に凄いことしてやる!」
俺の言葉に、スカーレッドもさすがにすくんだ。
だが、あいつも頑固だ。
俺の脅しにビビりながらも、剣を引き抜き構える。
腐っても魔王だ。俺も油断はしない。
俺は余裕そうに見えるよう演技をしながら、剣を片手に持って構えた。
「あらあらあら。マコトみたいなもやしが片手で剣を持っていいのかしら!」
もやしと言って馬鹿にしてくるスカーレッドに、俺は少し青筋を浮かべる。
このままでは俺の名誉が失われる。
しょうがない。ちょいと見せてやるか。
「スカーレッド。俺が魔法を使って無いことを確認しながらよく見てろ!」
俺は言いながら後ろを振り返り、森にある大木の一つへ剣を全力で振り抜いた。
俺の剣は鮮やかな軌道で大木に一本のラインを引き、鈍い音が宙を駆ける。
うん、今日は調子がいい。
俺が大木に背を向け、スカーレッドの方へ向き直ると。
―――――――――ズシン!!
後ろで砂ぼこりが盛大に舞い上がり、大木がただの切り株と化していた。
「俺はな。こう見えても剣道部の主将を務めていた男だ。主将であるからには部内で一番強くないといけない。だから、毎日筋トレをしてたのさ」
俺の言葉を聞くスカーレッドの目は、ただの点だ。
おそらく周りの音も入ってない。
俺の意外な筋力に驚いているんだろう。
大チャンス到来だ。
「クリーミネ! 決闘開始の合図を!」
「え!? は、始めっ!!」
クリーミネは突然の俺からの指示に、慌てたように試合開始の合図をした。
そう、クリーミネはきづいていない。
スカーレッドの準備がまだできていないことに。
「あ! 卑怯だよマコト!」
俺の作戦に気付いたのか、エールが木の枝に腰を掛けて言う。
「卑怯? 何を言ってるのあなたは。これは勝負だ! 正々堂々戦う? そんなものは弱者のかっこつけに過ぎないのさ! フハハハハハハ-ッ!」
「マコトさんはどこかの悪役ですか!?」
俺は地面を踏み切り、大きく剣を振りかぶる。
大丈夫。剣の腹で軽く頭を叩くだけだ。怪我はしない。
思考を放棄し、ただ立ってるだけの魔王なんて敵じゃないんだ。
焦らず、ビビらず、慎重に。
「俺に喧嘩を売ったことを後悔しろ!!」
スカーレッドの頭に振り下ろされる、俺の愛剣。
額のすぐ手前まで剣が迫っているのに微動だにしないスカーレッドに、俺は勝利を確信した。
しかし。
「ほぇ?」
気がつけば、俺の剣が空を切っていた。
見れば、スカーレッドは体を捻り、俺の剣を避けているではないか。
まさか。
あれは演技!? わざとスカーレッドは目を点にさせていたのか!?
「後悔するのはマコトの方よ! この神をも殺す必殺の一撃をくらいなさい!」
剣を振り切り、体制が大きく崩れた俺を睨めつけるスカーレッド。
手を見ると、拳が強く握られ、空に振り上げられている。
俺には分かる。スカーレッドはあの拳を振り切る気だ。
やめて死んじゃう!
「秘技『エターナル・ジャスティス・カルネージ』!!」
エターナル・ジャスティス・カルネージ。
単語を一つ一つ和訳すれば、『永遠の』、『正義』、『大虐殺』・・・・・・
これはやばいやつじゃん。
「おいやめろ! そんな技受けたら死ぬから!」
「マコトは言ったわ! 『やれるもんならやってみな!』とね!」
過去の俺マジで殴りたい。
高々と掲げられたスカーレッドの拳には、それはもうとんでもない量の魔力が込められていた。
あのグングニルでさえ、ここまでの魔力は持っていまい。
「魔力を放出しきれれば、暴走することも無いはずよ! 魔王の全力! その身に受けなさい!」
一段と強く引き絞られた拳は、金色の弾丸と化し、一瞬で俺の前へ迫った。
――――――このままじゃ死ぬ!!
俺は思考を放棄し、自己防衛本能に身を任せてスカーレッドの足を引っかけた。
踏み込んだ足が取られれば、当然のことながらパンチもそれる。
直撃さえ防いでしまえば、なんとか一命を取り留めるはずだ。
「なっ!?」
俺に足をかけられたスカーレッドは、目を見開き、大きく体制が崩れた。
それに合わせて金色の弾丸は俺の鼻先をかすめ、地面に盛大に突き刺さる。
「おおおおおおおお!」
今度こそ勝った!
魔力のない魔王などありも同然だ!
俺は全力で手を驚愕するスカーレッドに向けて伸ばし、額にデコピンをくらわせた。
これも立派な一撃だろ。
「いたっ!」
「よっしゃ! 俺の勝・・・・・・ち?」
死闘を制し、両腕を上げて喜ぶ俺の耳が鈍い音を捕らえる。
心なしか、地面も小刻みに震えている気がする。
頭でも打ったか?
「ま、マコトさん! 地面にひびが入ってるんですが!!」
地面を凝視して慌てるクリーミネに言われ、俺も地面を見た。
確かに綺麗に蜘蛛の巣状のひびが入っている。
だが、下が空洞でもない限り落ちることはないし、安全――――――――――
・・・・・・やっちまった。
「みんな、すまん。本当にすまん」
「「「え?」」」
「フラグにしかならないこと思っちゃった」
俺が満面の笑みで言うと、地面が崩れ、俺たちは奈落の底へ落ちて行った。




