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12話 このカフェの店員、常識知らずでした

とある日の昼下がり。


「おい、マコト。お前知ってるか?例の店」


特にやることも無い俺は、武具店でも見に行こうと街を歩いていると、冒険者仲間のレオンに声をかけられた。

例の店?なんのことだろうか。


「例の店ってなんだよ?」


俺が問いかけると、レオンは目を大きく見開いた。

いやいやいや。そんな重大な問題か?


「例の店は例の店だよ。今、冒険者の間で話題のカフェだ。その店の魔剣持ちの店主が、それはまぁ美人らしいぞ」


さっきからニヤニヤしているレオンは、美人店主に会うのさぞかし楽しみにしているのだろう。

俺も会いたい。

最近、あいつらとの生活で俺の中の女性へのイメージが奇跡的な大暴落を見せているため、俺もここいらで正しいイメージに直したいところだ。


「場所を教えてくれ」

「・・・・・・会いたいのか?美人さんに」


俺の言葉に、レオンは尚もニヤニヤしながら聞いてくる。

俺は別に、美人さんに会いたいのを隠すようなシャイな男じゃあない。

欲望に素直な男代表だ。


だから俺は即答した。


「もちろんだ」








◆◆◆






「こんにちはー!」


俺は噂の店のドアをテンションマックスで開けた。


カフェと言っているから大通りに面していると思っていたが、暗い路地を進んだ先の目だたないようなところにこの店は位置している。

余計なお世話だと思うが、この立地じゃあ儲からないんではなかろうか。


 「いらっしゃいませ。御一人様かしら?」


 店の中から、大人っぽい女性の声が響いた。

 声的には百点です。


 「一人です」


 レオンは仕事があるとかで外に出たため、俺は一人でここに来た。

 

 初めての店。

 それに、とびきりの美人さんがいる店と言うのだから緊張するが、それよりもワクワク感が勝ったのだ。


 俺は期待に胸を膨らませ、店の中へ一歩踏み出した。


「この店にお客さんなんて、めずらし――――――――――


 俺はカウンターに立っている女を見て絶句した。

 赤い髪を耳に掛けたその女は、確かに美人だ。

 美人だけれども・・・・・・


「ぐ、グレモリー!? お前なんでこんなところで店出してるんだよ!? お前魔王の部下だろ!?」


 カウンターに立っていたのはいつかの草原で出会った、冒険者の敵である悪魔だ。

 それもスカーレッドの部下。

 冒険者の間で評判のいい店の店主が魔王の部下とは。

 この世界はなんて狭いんだ。


「声がでかいわ。とりあえず座りなさいな」


 グレモリーは迷惑そうに手前のカウンター席を指でつついた。

 そこに座れという意味か。


「で、お前は何でこ――――――――

「注文は?」

「そんなことよ――――――――

「ここはカフェよ。注文しなさい」


 席に着いた俺は、グレモリーにろくに質問も出来ずにメニューを渡された。

 うむ。庶民に優しいお値段だ。


「コーヒーとアップルパイ」


 どうせ全部安いんだ。

 

 俺はメニューからてきとうに料理と飲み物を選び、不愛想に注文した。

 すると、グレモリーが不満そうな表情になり、


「私には無いの?」

「ここはキャバクラかっ!!」


 昼間のカフェを一瞬にしてキャバクラ使用に作り替える。

 カフェの定員に客が奢るとかどこの世界の新常識だ。

 さすがスカーレッドの部下だ。常識知らずは共通らしい。


「・・・・・・で、なんで店なんか出してるんだ? 駆け出しが多く集まる街ならまだしも、ここは冒険者の平均レベルが50もある国だぞ? 聖騎士でも来たらどうするんだよ」

18782(いやなやつ)18782(いやなやつ)37564(みなごろし)。楽勝ねっ」

「どこら辺が!?」


 自信満々に答えるグレモリー。

 ちょっと本気で疲れてきたんだが。

 

「大丈夫よ。なにかあったら全員倒すし。それに、この店には聖騎士対策の結界を張っておいたもの」

「用意周到なこって」


 俺は喉の渇きを感じ、カウンターに置かれたコーヒーを一口飲んだ。

 すると、全身に電撃が走ったような衝撃が口いっぱいに広がる。

 何これ辛っ!!


「ゲホッゲホッ!! お前何入れたんだ!?」

「砂糖の代わりに世界一の辛さを誇る唐辛子、レッドデビルを少々」


 涙ぐむ俺に、グレモリーは悪びれる様子も無く自白した。

 金払わずに帰ろう。心に決めた。


「さぁ、茶番はお終いよ。ここに店を構える目的―――――――だったかしら。そんなの決まっているでしょう? あんな馬鹿連中が暮らす城には居たくないからよ」

「まぁ、そうだろうな。俺はバアル・ゼブルしか見たことないけど、あの一回で二度と会いたくないと思ったよ」


 俺は口直しの水を飲みほし、アップルパイを一口食べる。


「・・・・・・美味いな」

「料理をさらっと褒められる男はポイント高いわよ?」

「なのに彼女がいない俺はなんなんだ・・・・・・って、別に俺は彼女の話がしたいんじゃない。あいつらと居たくないなら、別の場所に暮らしてもよかったろ? なんでここなんだ?」

「なかなか鋭いところをついてくるじゃない」


 グレモリーは目を細め、俺を品定めするように見つめる。

 やめてくれ照れるだろ。


「この国はありとあらゆる物や情報が集まる国。ここにいれば、楽しいことが起こるかもしれないじゃない。私は大好きなのよ。厄介事や事件がね」

「さすが悪魔だな。じゃあ、これが最後の質問だ」

「本当に最後にして頂戴ね? ここはカフェよ。取調室じゃないもの」


 グレモリーは言いながら、棚から酒瓶を一本取りだした。

 昼間から酒とは。

 来年あたりダメ人間になってるかもしれないな。


「この店の店主のことを聞いた時、冒険者仲間がこう言ったんだ。『魔剣持ちの店主が』ってな。魔剣を持ってるなら見せてくれ」

「嫌よ。昼間のカフェに魔剣なんて出せないし、あれは切り札。いずれ敵対するかもしれない貴方には見せないわ」

「ティルフィングだったら俺が貰うぞ」

「ティルフィング? あの剣が欲しいのならやめておきなさい。貴方も欲に取りつかれ、身を滅ぼすことになるわ」


 なんだ。その意味深な発言は。


「3回目の願いを叶えなければ大丈――――――――――――――-

『ボスモンスターが逃げたぞォ!! みんな逃げろー!!』


「「・・・・・・は?」」


 俺の言葉を遮った絶叫に、俺たちは沈黙する。

 ボスモンスターが逃げた?

 ここは町だ。ボスモンスターはおろか、雑魚モンスターも沸かないはずだ。


「ただのイタズラか」


―――――ズドォン!

 

 俺の言葉が終わると、外から爆音が響いた。

 俺は冷や汗をダラダラと流しながら、店の裏口を探す。


 冗談じゃない。俺のレベルでボス戦とか笑えない。

 俺がボスと戦うなんて、トイレットペーパーで作った船で太陽系を一周するようなものだ。

 今外に出たら、確実に戦うはめになる。

 一般人が、冒険者なんだから戦えと言いたげな目線で見てくるに違いない。


「言っておくけど、裏口はないわよ? そんな良い剣持ってるんだから諦めて戦いなさい」


 おそらく『逃がしてください』と顔に書いてあったのだろう。

 グレモリーは俺の剣を引き抜いて、俺の前に差し出した。

 漆黒のその剣は窓から入った光を反射し、頼もしく光っている。


『もう安心よ! 私たち、長ネギ王のパーティが参上したわ!』

『みなさん下がってください!』

『回復は任せて!』


「「・・・・・・」」


 外から聞こえてきた聞き覚えのある声に、俺は思わずため息をついた。

 最悪だ。俺のパーティ連中は頭がパーなんだ。

 このままでは事態が悪化する。


「こんなイベント頼んだ憶えないぞ!」


 俺は文句を空に向かって叫びながら剣を掴み、観念してカフェを飛び出した。

 路地を駆け抜け、大急ぎで大通りに出ると、俺の鼻先をかすめて炎が走る。


「っぶな!!」


 炎が飛んできた方向を見ると、そこには鎧兜を纏ったトカゲと人間が合わさったようなモンスターが立っていた。

 うん、勝てる気がしない。

次回、戦闘回。


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