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11話 大収穫祭、とうとう始まりました

「取り立てキノコはいかがですかー? 近くの蛍の森で取れたキノコでーす! もしキノコを食べて凶暴化しても、私たちのことは言わないでね!」

「おいエール。お前もう呼び込みしなくていいからそこに立ってろ」


大収穫祭当日。


俺は集客どころか家の家計に終止符を打とうとしているエールを集客から外し、クリーミネに変わってもらった。

「にしても凄い人ね。これならキノコ全部売れそうよ?」

「今の集客のせいでみんな近寄らないけどな」


俺たち一般人が商売をすることが許されているのは、王国の中心部にある城に続くこの大通りのみだ。

そのため、一般人の商品目当ての買い物客は全員この通りに集まる。

始めのうちは俺も買い物客でごったがえす大通りを見て、これくらい人がいるなら売れると踏んでいた。

というか、俺一人なら絶対に完売できたはずだ。


そう、俺一人なら。


「お前らが居なければ・・・・・・」

「今なんかすごい失礼なこと言ったでしょ! 土下座しなさい!」

「あ、お客さん! このキノコ見てください! マツタケタケですよ!」


俺たちの呼びかけを知らない優しそうなおじさんが、クリーミネに呼び止められた。

どうしてだろう。おじさんがすごい可哀想に見えるのは。


「それは本当かい? 君可愛いし、買っちゃおうかな」


おじさんは懐から財布を取りだし、値段をクリーミネに尋ねる。

やめるんだおじさん。今日の接客はおじさんのトラウマになるぞ。


「5000ランドになります!」

「おお安いね! こんなに新鮮なのに」

「そうでしょうそうでしょう。もとは犬の餌ですからね」

「え・・・・・・」


 笑顔で言うクリーミネの言葉に、おじさんの表情が固まった。

 マツタケタケはレッドウルフの好物だと図鑑で見たクリーミネは、さっきからキノコを買う人に『このキノコは犬の餌』と伝えているのだ。


 間違ってはいない。クリーミネにも悪気がないんだろう。

 ただ馬鹿なだけだ。


「クリーミネ。エール。君達は静かに立ってるだけでいい。それだけで集客になるから」


俺は走って逃げていくおじさんを横目で見ながら、エールとクリーミネに最適の職を渡し、早速集客に取りかかった。








◆◆◆





「そこの男。見たところ冒険者だろう?この街の冒険者にしては随分レベルが低いようだが」


キノコをなんとか完売し、良いものはないかと祭りをうろついていると、路地裏から声が聞こえた。

冒険者とか言っていたから、おそらく俺のことだ。


「何か用でも?」

「お前にぴったりのものがある」


路地裏を見ると、フードケープを着込んだ人が立っていた。

声からして男だな。


「ぴったりのもの?」

「ついてこい」


男はそれだけ言うと、フードケーブをなびかせて路地の奥まで入っていく。

俺は一瞬、ついて行くべきか迷った。

身なりも場所も胡散臭すぎる。

どう見間違えても気前のいい商売人には見えない風体だ。


しかし、なんかこの危ない感じが異世界っぽくていい。非常に好奇心をくすぐる。

俺は好奇心に身を任せ、男の後を追った。


「お前にその気があるならば、剣を無料でやろう。見たところまだ初期武器だろう?」


 路地の一番奥までたどり着くと、そこには剣や魔法具が山積みになっていた。

 剣一つとってもそこいらで売ってる剣が見当たらない。

 全部それなりの品だろう。

 そんな物を無料?

 

 怪しい。怪しすぎるぞこの商人。

 

「あんた武器商人だろ。それなのに武器をただで売るなんて、怪しすぎるんだが」

「気前のいい武器商人もいるのさ。それに、金は取らんが頼みがある」


 男は何らかの魔法を使い、山積みになっている道具の中から一枚の紙を取り出した。

 なにかの地図みたいだ。


「これは隣の国の城の地図だ。これを使って、隣の国の王女―――――ジュリエット様を誘拐してほしい」

「は?」


 とんでもないことを口走った前方の男に、俺は思わず聞き返した。


「大丈夫。隣国の兵力はこの国の兵力の十分の一だ。それに、聖騎士も僅か一人しかいないと聞いている」


 この男は何を言っているんだろう。


 まだこの世界に来て一か月もたっていないレベル10の冒険者に、隣国の王女をさらって来いだと?

 この男は頭が沸いているんじゃないだろうか。

 それに、俺はちょっと前に城で事情聴取を受けたばかりだ。

 もう二度とあんな目にあいたくない。


「悪いけど断るよ。なんで、誘拐なんてしなくちゃならないんだ?」

「ジュリエット様には婚約者がいる。最悪最低のな。軍事力がこの国の3倍。人口は三倍の王国の王子との婚約をきっかけに、あの国の大臣は自分の国の勢力を拡大するつもりだ。このままではジュリエット様は道具として利用されてしまう・・・・・・」


 男は手を強く握りしめて俯いた。

 王女救出に並々ならぬ思いがあるのだろう。


「道具として利用されるのは可哀想だけど、俺の力量だと聖騎士をどうにかできるかどうか・・・・・・」


 前にクリーミネに聞いたことがある。








『なぁ、クリーミネ。聖騎士ってどれくらい強いんだ?』


『軍隊1個分くらいですかね。肉弾戦ではそうでもないんですが、魔力量が異常です。おそらくあの次元が人間の限界。いいえ、もしかしたら、その壁すら越えてしまっているかもしれません。それは、いつか罪に成りうると気付かずに』












軍隊1個分。


ロクにスキルも使えない俺が、そんな奴を相手にできるはずがない。

悪いがこの依頼は断ろう。


「やっぱり、俺にはこの仕事は荷が重すぎる。他をあたってくれ」

「そうか・・・・・・」


俺はそう告げると、俯いたままの男の前から立ち去ろうとした。

しかし。


「なら・・・・・・ならせめて! この剣を持って行ってくれ! いつか、いつか! 王女の話を憶えていて、お前が強くなったら! 王女を頼む!」


 山積みになった武器の中から、一本の漆黒の剣が俺の前に突き刺さった。


「その剣は、魔力を蓄積する特殊な鉱石でできていて、その剣で斬ったあらゆるものの魔力の一部を奪うことが出来る剣だ。奪った魔力は自由に放出できる。放出の仕方も自在だ」


 地面に刺さる剣を引き抜くと、ずっしりと重みが伝わってくる。

 機能も文句のつけようがないくらいに良い。


 だが、何も出来ずに依頼を断っておいて、さすがにこんな高級な剣をもらうのは気が引けるというものだ。

 この剣は受け取れない。

 俺は目の前の男の顔を見て、剣を返そうとした。が、


「ありがとう。王女のことは強くなったら必ず助けるよ」


 俺とこの剣に、本当に望みをかけているような男の目に、思わず剣を受け取ってしまった。


 こうなれば仕方がない。

 王女の件は後々なんとかしよう。


「頼んだ」


 男はそれだけ言い、どこか悲しそうな目で民家の間から覗く空を見た。










◆◆◆


「おい、これはどういうことだ。説明してもらおうか」


 新しい剣を携えて家に戻った俺は、テーブルいっぱいに広がる食料品を見て、思わずクリーミネを睨んだ。

 まさかこの女。

 祭りで儲けた金を、全て食料に変えたなんて馬鹿は言わないだろうな。


「マコトさん。貴方には前から言ったはずです。腹が減っては戦は出来ぬと・・・・・・」


 クリーミネは饅頭を二つ口に放り込み、悪びれることなく本を読みだした。


 なんというナメた態度。

 集客もロクにできないくせに、腹が減っては戦は出来ぬだと?

 上等だ。俺を怒らせるとどうなるか見せてやろうじゃないか。

 

「クリーミネ・・・・・・お前、これ何かわかる?」


 俺はクリーミネの読んでいる本を取り上げ、目の前にプリンを出した。


「あ! それは私が大切にとっておいたプリンじゃないですか! 何するつもりですか!?」


 プリンを俺の手から奪おうと手を伸ばすクリーミネの前から、俺はプリンをさっと取り上げる。


「クリーミネ。人の食糧を無断で食べておいて、まさか自分の食糧は食べられたくない、とか言わないよな?」

「う・・・・・・、で、でも! 私は魔力ではなく体力で日頃戦ってるんです! その分体力も必要なんですよ!」


 半泣きでプリンの奪取を試みるクリーミネ。

 俺はプリンに向けて高速で伸ばされる手を華麗に躱し、クリーミネに微笑んだ。

 クリーミネは知っている。こういう場面においての俺の笑顔の意味を。


「フハハハハハハハ!! 喜べ! このプリンだけで許してもらえるんだからなぁ!!」


 俺は悪役じみた笑い声を響かせ、勢いよくプリンを口の中に納めた。


「そ、そんなぁ!! 酷い過ぎますよ!!」

「酷いのはどっちだ! 俺の金を返せ!!」


涙目で抗議するクリーミネをてきとうに無視しながら、俺は考える。





まじで明日からどうやって生活しよう。



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