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10話 家の家計、少々ピンチになりました

前に一度言ったことがあると思うが、このイルソーレ王国は旅の中継地として発展した国で、世界中の物が集まっている。

 その王国で行われる数少ないイベントの一つに、『大収穫祭』というものがあるらしい。

 しかし、この祭りは収穫といっておきながら、この祭りは単に野菜を収穫して売るだけじゃない。世界中の魔法具、武器、雑貨等を一般市民が売る祭りなのだ。


「てことで、今回、俺たちのパーティはギルドの一員としてではなく、個人的に金儲け目的で『大収穫祭』に参加することになりました」


「せんせー、質問でーす」


わざとらしく子供っぽく聞くエール。

これで回復中毒じゃなければ完璧なのに。


「はい、エールさん」


「なんでお金が必要なだけなのに店を出すんですかー? 普通にクエスト受ければいいと思いまーす!」


 元気いっぱいに手を上げるエールに、俺は優しく微笑み返す。


「昨日のクエストでどっかの回復中が討伐したモンスターを全部回復させて失敗させたので、クエスト受諾金もありません」


「私も質問です。この家に売れそうなものあります?何を売るつもりなんですか?」


 今度はクリーミネが手を挙げ、質問をした。


「売るものは今のところありません。そこで!今から蛍の森にキノコを取りに行って、それを売ろうと思います!」


 こう堂々と宣言した俺だが、正直キノコについて何も知識がない。

 毒キノコと食べれるキノコの違いもわからないし、そもそもキノコを見つけられるかすらわからないくらいだ。


「え~。あの森は凶暴化したレッドウルフがいっぱいいるじゃない!」


「スカーレッド・・・・・・お前という囮がいるから大丈夫。安心安全だ」


「私は全然安心安全じゃないんですけど!?」


「よし! じゃあ、行くぞ!」


「「おー!!」」








◆◆◆


「そこをどけ! 『フレイム』!!」


「ぎゃいん!!」


 俺は唯一実用性の高いスキルでレッドウルフを吹っ飛ばし、経験値を集めながらキノコ採集に励んでいた。


「なかなかマコトも冒険者っぽくなってきたね」


「私の方がすごいけど」


 すぐ泣くくせにプライドだけは一丁前なスカーレッドの口に、俺はキノコを放り込んだ。


「っ!! 何これ!? すごい辛いんですけど!?」


「なるほど。香辛料になるな」


 安全検査クリア。このキノコは売っても大丈夫そうだ。


「マコトさーん!! 見てくださいこのキノコ! マツタケタケですよ!」


「うん。名前が雑すぎてわかりやすいね。高いやつだね」


 満面の笑みでキノコを掲げるクリーミネの横で、突然閃光が走った。

 俺は閃光の正体を確かめるべく、クリーミネの近くまで駆け寄る。


「? どうしたんですk―――――――――――-」


 俺の行動に疑問符を浮かべたクリーミネがいきなり持ち上げられた。

 もちろん、持ち上げたのは俺じゃあない。

 俺の眼前に堂々と現れる、三メートルはあろうかという巨大ガイコツだ。


「ま、まじすか・・・・・・」


「なんでアンデットがこんなところにいるのよ!?」


 なんという不運。

 この蛍の森に出現するモンスターは全て把握しているが、こんなモンスターがいるなんて聞いていない。


 つまり――――――――


「生態未確定の新種か!?」


「ううん。これは『ナイトスカル』っていうモンスターだよ。あの赤い眼光が特徴だよ。確かダンジョンにしか出現しないって確認されてるはずなんだけど・・・・・・ま、いっか。考えてもしょうがない!ちゃっちゃと回復させちゃうね!」


 エールは『サルでもわかるモンスター図鑑』をパタンと閉じ、杖を構えた。

 サルでもわかるねぇ・・・・・・


「まってマコト・・・・・・こいつ一匹じゃない・・・・・・後ろに二匹いるわ」


 怯えるような声で言うスカーレッドの視線を追うと、確かに奥の方の林に四個の赤い眼光が見える。

 こんなでかい図体の奴3匹を、果たして俺たちが倒せるのだろうか。


「逃げる?」


「置いてかないでくださいよぉ!!」


 必死そうなクリーミネを見てるのはおもしろいが、このままだとクリーミネが本当に危ない。

 しょうがない・・・・・・


「スカーレッド。お前は魔法で攻撃するな。アンデットにとってお前の魔法は治療薬だからな。俺たちがナイトスカルを倒したら、クリーミネを救出してくれ」


「わかったわ!」


「エール。確か、アンデットに回復魔法を撃つとダメージを与えられるはずだ。だから、撃って撃って撃ちまくれ!!」


「その言葉を待ってたよ!」


「よし。じゃあいってみよう!」


 恒例となった指示出しを無事に終え、俺は愛剣に『フレイム』をかけた。

 敵の数は合計で3匹。戦える仲間の数は2人だ。戦力では負けている。


「回復魔法は万能。ありとあらゆる所へ自在に飛ばすことが可能で、飛ばし方に規則性はない。ドラゴンでも不死鳥でも勇者でも。ありとあらゆる形に造形できるし、速度も自由自在。ほんっとうに自由な魔法なんだ」


 エールはそんなことを呟きながら、剣を振り上げて威嚇するナイトスカルの元へ歩いて行った。


「エール!?」


 エールの危険を察し、前方へ飛び出したスカーレッド。

 しかし、ナイトスカルの剣は無慈悲にも、それを遥かに上回る速度でエールの頭へ振り下ろされた。


――――――――――ギィン!!


 何故か金属同士がぶつかったような甲高い金属音が響き、ナイトスカルがふらつく。


 何が起こったかわからない様子のナイトスカルは、次の瞬間、地面から飛び出した回復魔法の槍に貫かれ、金切り声をあげて爆発四散した。


「私はこの自在さに取りつかれてこの職に就いたんだよ。この程度のアンデットじゃ負けない」


 エールの右手には、回復魔法でできた短剣が握られていた。

 あれでナイトスカルの攻撃を防いだのか。


「ナイスだエール!後もう一体頼む!」


「りょーかい!!」


 俺は面の笑みで返事をしたエールから目線を外し、クリーミネを捕らえているナイトスカルとの間合いをつめた。


「クリーミネ!ちょっと揺れるぞ・・・・・・!」


 至近距離で、俺とナイトスカルの眼光が交錯する。

 俺は高揚感に身を任せ、剣を振りかぶるナイトスカルに突っ込んだ。


「酔います~酔いますよ~」


 振り回されて目が回っているクリーミネを気にかけた瞬間、ナイトスカルの剣がぶれ、俺へと一直線に落ちてくる。

 俺はサイドステップで剣を避け、地面に激突して砂ぼこりを巻き上げる剣を思いっきり踏んづけた。

 剣道をやっててよかった。前にゲーム部に入部しようとしたが、あのままだったら今頃死んでたな。


 ナイトスカルは剣を動かそうとするが、所詮は魔力だけで動いている骨の塊だ。剣はピクリとも動かない。


「クリーミネは返してもらうぜ?」


 俺はニヤリと笑い、剣をくるりと回してからナイトスカルの腕を斬り落とした。


「スカーレッド!!」


「まかせなさい!!」


 斬り落とされた腕ごと地面に落下するクリーミネを、スカーレッドはしっかりと受け止めた。


 とりあえず人質救出完了だ。

 いつもだったら目的は果たしたからさっさと帰るところだが、せっかくだからこいつらを倒して経験値を貰ってしまおう。


「マコト!こっちは終わったよ~!!」


「俺もすぐ終わらせる!」


 俺は腕を斬られたショックでふらついているナイトスカルに蹴りを入れ、頭蓋骨に剣を突き刺した。

 俺の渾身の突きを受けた頭蓋骨は、バラバラに砕け散り、花火のように体ごと四散する。


「クリーミネ、大丈夫か?」


「あ、ありがとうございます・・・・・・」


 クリーミネの安全を確認し、俺は剣を収めた。


 俺はこの世界に馴染み過ぎたらしく、これくらいの戦闘なら大して緊張もしなくなっている。

 いよいよ本格的にやばいな。

 やっぱり、この世界に来て二日目にグングニルを受け止めたのがまずかったか。

 変に度胸がついてしまった。


「この骨売れるかな・・・・・・」


 四散した骨を見て、スカーレッドが呟いた。

 モンスターの死体をギルドではなく一般市民に売るとは。営業停止になる予感しかしない。


「苦情が来そうだからやめろよ?」


 俺はスカーレッドにくぎを刺し、暗くならないうちに家につけるよう帰り道を歩き出した。


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