甦った亡霊
ラティとツァルが並び、警邏兵がそれと対峙している。最後尾には、警邏兵に守られるようにして立っているグルトの姿がある。
両者が睨み合い、戦闘は一時中断されている。
「何故、この人を殺そうとするの!?」
サーラは並び立つふたりのところまで行くと、遠くにいるハルグに向かって問いを投げかけた。
「そいつは王太子誕生を祝う民の心を惑わし、祝祭の妨害をした。これは王家に対する反逆である」
グルトが男性にしては高い声で、警邏兵の背に隠れながら告げた。
「祭りの余興だ。王太子の誕生はおれも祝福している。ただの余興に、警邏兵一個小隊引き連れて現れる必要はないんじゃないか?」
ラティの態度にはまだ余裕があるが、グルトの表情は険しくなる。
「めでたい日に王家を貶めるような騒ぎを起こした罪は重いと言っているのだ」
「王家を貶めるつもりなんかない。おれは真実を明らかにしようって言ってるんだぜ」
「なんだと!?」
「あんたもわかってて来たんだろうに」
ラティがグルトの神経をさかなでるようにけらけらと笑う。
「……なにが言いたい? 見たところ、おまえは亡霊でもなんでもない、ただの人間だろう。亡霊が甦るというのは虚言ではないか」
「いいや。おれは確かに亡霊だ。既に死んだ人間だ。思い出せよ、あんたが部下に命令を下したんだ」
「わたしが?」
「おれの名は、ラティ・ヘルホーク。あんたに殺されたヘルホーク伯爵家の生き残りだ!」
それまで訝しそうな表情を浮かべていたグルトだったが、ラティが告げた瞬間、松明に照らされたその顔が硬直した。
「更にもうひとり。あんたの計画通りなら生きてはいない……いや、存在すらしていなかったはずの人間がいる」
ラティが隣に立つツァルの腕を掴むと、ぐいと一歩前に引き出した。
「王太子暗殺の濡れ衣を着せられ処刑された、かつての第二王子――生き延び、のちに黒将軍として国のために闘ったハルグ・レイトニールの息子だ」
ことの成り行きを見守っていた群衆が一気にざわめいた。
黒将軍は国民の誰もが知っている英雄だ。
その英雄の正体を知った人々の驚きは大きかった。
「そっ……そんな馬鹿な」
「事実だ。ハルグ殿は王太子暗殺など企ててはいなかった。しかし、それを証明する手立てがなく、止むを得ずその罰を受け入れた。だが彼は後に妻を娶り、夫婦のあいだに男児が生まれた。彼は家族を養うため、傭兵団の一員になった」
「無実であれば、それを主張するはずだ。裁判で争えばいい」
「ハルグ殿が無実を主張したら、今度はどんな手段をとるつもりだったんだ? おれの家族のときのように、余計なことを言わさないようにと口を封じたんだろう。そうやって、あんたは真相に近づく者、気づいた者を殺し、その事実を隠し通してきたんだ」
マティが鋭く指摘する。
トルダがぐぅ、と喉を鳴らすのが聞えた。




