女主人
「ソレーヌ派なら、真っ先にあいつの命を奪おうとするはずなんだがな。罪人として処刑するのは容易い」
「コーテルは、本当にソレーヌ派なの?」
「最上級官吏のコーテルとグルトはソレーヌ派の筆頭だ。誰に訊いてもそう答えるだろう」
「それじゃあ、コーテルが個人で動いている可能性は?」
「なくはないな。だがその場合、ソレーヌ派の他の者たちが放ってはおかないだろう」
「そうだよね。……もう、誰がなにをどうしようとしているのか全くわからない。そもそも、アーシアさんがどうしていなくなっちゃったのかもわからないんだよね」
「ああ。だが、アーシアが捕らわれたという情報は入ってきていない。やはりなにか事情があって、どこかに潜んでいるんだろう。そう考えるしかない」
ラティがきっぱりと言い切った。
ここまできてなんだかんだと言っていても始まらないのだ、とサーラは気持ちを切り替える。
ツァルを助けるため、サーラにもやらなければならない役割があるのだ。
「そうね。今はツァルを助けることに集中しないと」
「そろそろ馬車が着く頃合いだ。急ぐぞ」
ラティが大きな荷物を抱えて先に部屋を出る。
「あら、出かけるの? いってらっしゃい」
裏口へ続く階段で、女主人と遭遇した。
「あ、はい。いってきます」
笑顔で送られ、サーラも自然と笑みを浮かべて挨拶をする。
階段を下りていると、「あ、待って」という女主人の声が降ってきた。
「え?」
「ちょっと待っててね。すぐに戻ってくるから」
「あ、あのっ……」
急いでいるんです、と説明する時間を与えず、女主人はばたばたと階段を上ってゆく。
反対側で階段を駆け下りる音が聞こえる。
サーラはラティと顔を見合わせた。
このまま出かけるわけにもいかず、女主人の戻りを待つ。
ラティがどさりと荷物を階段の上に下ろした。
転がり落ちるといけないので、手は離せない。
「お……お待たせ。これ、どうぞ」
戻ってきた女主人は息を切らしながら、サーラに籐籠を差し出した。
美味しそうな匂いが漂ってくる。
「あ、ありがとうございます」
「今朝焼いたウブリンなの。ヘルー通りの売り子さんのウブリンには負けるけれど、お客さんにはけっこう好評なのよ。途中でお腹が空いたときにでもどうぞ」
女主人の優しさに、サーラは胸がほっこりと温かくなる。
女主人はいつもなにも訊かずに、サーラたちに親切にしてくれる。
「すごく嬉しいです」
「よかったわ。気をつけて行ってきてね」
女主人に見送られて、今度こそサーラたちはツァルの救出へと向かった。




