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新たな訪問者

 サーラは目を伏せた。


「ごめんなさい」

「……いや、おれこそ悪かった」

「でも、わたしはどうしても謎の答えを知りたいの。帰りたいんだったら、ツァルはひとりで帰って」

「サーラ!」


 目を上げると、ツァルの鋭い瞳が真っ直ぐにサーラを見つめていた。

 サーラはその瞳を真正面から受け止める。


 これまでにも、同じようなことが何度もあった。

 ツァルもわかっているはずだ。

 サーラは、決して自ら目を逸らさない。


 目を逸らすのは、いつもツァルのほうなのだ。


「……犯人を捜すと言っても、手がかりはなにもないんだ。おれたちにできることはない」


 ツァルがサーラを諭すように声の調子を柔らかくして言う。


「殺されていたのが誰かは、調べればすぐにわかるはずよ。何故あそこにいたのかもわかるかもしれない」

「調べると簡単に言うが、その過程でおれたちが捕まったら本末転倒だ」

「わたしもツァルも、顔は見られていないんだから……」

「でも、名は知られた」


 ツァルの言葉に、サーラははっとする。

 警邏兵に捕まりそうになったとき、思わずツァルの名を呼んでしまったことを思い出した。


「いいか、サーラ。ここはラルベルじゃないんだぞ」


 そんなことはわかっている。

 ラルベルであれば、もしなにかあってもサーラを守る力が及ぶが、ここ王都ではそういうわけにはいかないとツァルは言っているのだ。


「わたしは、そんなことを考えて行動したことはないわ」


 両親は確かにサーラを愛してくれているが、放任してもいる。

 それはサーラのことを信じてくれているからでもあり、自分の行動には自分で責任をもてということでもあるのだ。


 もしラルベルであっても、悪事をはたらけばもちろん法にのっとり裁かれる。

 それは当然のことだし、そうでなければならないのだ。


 サーラが睨みつけると、ツァルがたまらず視線を逸らし、深く長い息を吐く。


「悪い。冷静になれない」

「そうみたいね。でも、お互いさまよ。わたしもだもの」


 そう言うと、サーラは深呼吸をした。

 気持ちを落ち着けようと、薄暗い店内に視線をめぐらす。


 天井は地下の店にしては随分と高いが黒ずんでおり、壁板も変色し傷が多くついている。

 椅子の脚は高さが不ぞろいなのか体重を移す度にがたがたと傾き、足下を見ると、床にはなんだかわからないしみがたくさん残っている。


 店主はなにも言わない。

 無関心なのか、それともそう装いながら情報をひとつ残らず記憶しどこかで金に替えていたりするのだろうか。


 マティは、なぜ自分たちをこの店に連れてきたのだろう。


 ここで言われたとおりにマティを待っていてもよいのだろうか。

 もしかして、これがなにかの罠――たとえば伯爵家の娘を誘拐するとか――だとしたら?


 そこまで考えたとき、店の出入り口で大きな音が響いた。


 乱暴に開けられた扉から、濃紺の制服――警邏兵が、店内に流れ込んできた。

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