金髪碧眼
錆び落ちた柵から通りに出る。
どっちに行けばいい?
サーラは思わず足を止めた。
来た道を戻れば人の多い通りに出る。
人混みに上手く紛れ込めたらよいけれど、下手をしたら警邏兵に追われる姿を大勢に目撃されるはめになりかねない。
屯所も確かその通りにあったはずだ。
しかし反対方向は、この先の道がどうなっているのかわからない。
もし行き止まりだったら、あとがない。
今度こそ、警邏兵は剣を抜くだろう。
ツァルが思いの外強かったのには驚いたけれど、さすがに素手で剣を抜いた兵三人を相手にするのは厳しいだろう。
「こっちだ」
ふいに、低い声が聞こえた。
通りを挟んだ反対側の塀の上に、青年の姿があった。
二十歳くらいだろうか。
突然のことに、サーラはどうすべきか迷う。
だがそうこうしている間にも、警邏兵がふたりを捜す声が近づいてくる。
錆び落ちている柵にはすぐにも気づくだろう。
ぐずぐずしている時間はなかった。
ツァルがうなずくのを確認してから、サーラはその壁に駆け寄った。
塀は頭ほどの高さがあり、塀の向こう側の様子は見えない。
青年がサーラへ左手を伸ばす。
ほんの少しためらってから、サーラはその手を取った。
ぐい、と青年が片手でサーラを兵の上まで引き上げる。
ツァルは少し下がって助走をつけ、地を蹴った。
塀の上に手をついたかと思うと、ひょいとその細い体が塀の上に飛び乗る。
塀の中の様子をうかがうが、他に人の姿はないようだ。
警邏兵の声がすぐそこに迫っている。
サーラが振り返ると、蔓を掻き分ける音が聞こえた。
ツァルがサーラを素早く抱え上げた。
サーラに声を上げる隙も与えず、そのまま地面へと飛び降りる。
続いて、青年が音もなく着地した。
通りでは、警邏兵たちの「捜せ」「見つけ出せ」という声が飛び交っている。
助かった、とサーラは深く息を吐いた。
ツァルがそっとサーラを下ろす。
サーラは、改めて助けてくれた青年を見た。
金の髪に、鮮やかな青い瞳。
会ったことのない人物のはずだ。
けれど、どこかで見たことがあるような気がして、サーラはまじまじと青年の顔に見入る。
ついてこい、と手だけで合図をして足音もなく歩き始めた青年のあとに続きながら、サーラはいったいどこで、と首を捻った。
風に吹かれて、青年の黄金色の髪がさらりと揺れる。
そのとき、ふいに金髪碧眼の兄妹の姿が脳裏に甦った。
思わず声を出しそうになり、慌てて口を押さえる。
それは、ヘルホーク家に飾ってあった肖像画だった。
そこに描かれていた少年はまだ十代半ばほどに見えたが、彼が成長していたらまさにこの青年のようになっていただろうというくらい似ているのだ。
しかし、ヘルホーク伯爵の家族は全員亡くなったと聞いたばかりだ。
サーラは混乱する頭で必死に考えながら、前を歩く青年から目を逸らせずにいた。




