表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/188

第七十三話 上級魔剣術

「あれは……」

 天に浮かぶ緑色の閃光。

 それは、ユニコーンが逃げ出した時のサインだ。

「ちっ……!」

 急いだ方がよさそうだ。

 ミリアルドやローガはともかく、他の連中ではあに凶馬は止められないだろう。

 馬の脚は速い。多少は俺の方が出口に近いだろうが、瞬く間に追いつかれるだろう。

 俺は走り、森の木々の間を抜けた。

 そして進入した隠し通路から出たと同時、森から抜け出る一角獣の姿を知覚した。


「まずい……!」

 雪のような毛並みに、黄金の鬣と一本角。

 見目だけは綺麗な野獣が、義勇部隊の方へと駆けてゆく。

 強靱な肉体を持つ数人が前に出た。

 だが、ユニコーンは彼らをあるいははね飛ばし、あるいは踏みつぶし、そして最後の一人を着込んだ鎧ごと角で突き刺して、走り去っていく。

「ちぃっ!」

 ユニコーンをこのまま逃がせば、その行方がわからなくなる。

 いずれは森に帰ってくるだろうが、その前にどこで被害が出るかもわからない。

 ここで止めなければ。


「はあっ」

 剣を抜き、即座に魔力を注ぎ込んだ。

 一気に数人をなぎ倒したユニコーンに怖じ気つき、義勇兵たちは動けなくなる。

 出口の封鎖を一瞬で抜け、どんどんと距離が離れていく。

 だが、それは逆に好都合だった。

「ミリアルド!」

「クロームさん!?」

「あいつの動きを止めろ!」

「は、はい!」

 一瞬でいい、走る奴の脚を止めさえすれば――。


「『ライト・ジリオン』!」

 ミリアルドが放つ小さな光の弾が、高速でユニコーンの横腹を叩く。

 ほんのわずか、ユニコーンが足下をふらつかせた。

 ほとんどダメージはない。すぐにでもまた走り出すだろう。

 だが、その前に!

「絶氷の棺にて、眠れ!――『零度斬波アブソリュート・ブラスター』ッ!!」

 コントロールに詠唱が必要な上級魔術を使った、上級魔剣術。

 地面に残る雪よりもさらに冷たい、凍土の刃が動きを止めたユニコーンに迫った。


「……っ!」

 直撃する。

 閃光が炸裂する。

 衝撃波が俺たちの体を突き抜ける。

 ……やったか!?

 目映い光が去っていく。

 焼けた目が徐々に直り、視界が回復する。

 すると、そこには。

 ――氷で蹄を縫いつけられた、ユニコーンが立っていた。


「よし……っ!」

 思惑通り、だ。

 本来ならば相手を殺し兼ねないほどの威力の上級魔剣術。

 だが、高い神霊力を持つユニコーンはそれを防ぐために強力な障壁を張った。

 しかし、俺の魔剣術はそれをわずかに上回り、見事ユニコーンを殺すことなく、体を凍り付かせることに成功したのだ。

「指輪と、ティムレリアのおかげだな……」

 ティムレリアの力がなければ、上級魔剣術は使えなかった。

 そして指輪がなければ、ユニコーンの障壁を上回る力は出せなかった。

 その二つが、俺に力を貸してくれたのだ。


「クロームさーん!」

 ミリアルドが手を振って俺を呼ぶ。

 そのうしろでは、兵士たちが、動きを止めたユニコーンを捕らえるべく動き始めていた。

 これで、一件落着だ。

 ミリアルドの声に答えようと、俺も手を上げた、瞬間。

 糸が、切れた。

「ぁ……」

 意識が、混濁する。



「……さん!」

 声が、聞こえる。

「クロームさん!」

 ミリアルドの声だ。

 必死な声音で、俺の名前を読んでいる。

 一体なにが起きて……ああ、そうか。

 俺、倒れたんだったな。

「み……ミリアルド……」

 瞼が重たい。目が開けられない。

 それでもなんとかこじ開けると、安堵の表情でミリアルドは微笑んだ。

「よかった……。突然倒れて、なにが起きたのかと……」

 全身から酷い倦怠感を感じる。体がまったく持ち上がらない。

 ここは……セントジオガルズの城内の、客室だ。

 確か、俺は……。


「ゆ、ユニコーンは……?」

「無事捕らえられました。今は力を押さえる首輪をつけて、城の厩に繋がれているそうです」

 ある意味お揃いですね、とミリアルドは自分の首輪を指でつつきながら笑った。

 全身に力を入れて、なんとかかんとか体を起こす。

「無理しないでください。お医者さんは極度の疲労だと仰っていましたから、ゆっくり休まないと」

「疲労……?」

 いくらか弱い女の体でも、森を往復した程度では体力は尽きない。

 というより、しょっちゅう森に入って狩りをしていたんだから、むしろ得意分野だ。

 では、なぜ……。


「それにしても、すごい威力でしたね、あの魔剣術は」

「魔剣術……ああ、そうか……」

 俺はユニコーンに対して、自分の放つことのできる最大限の魔剣術を撃った。

 おそらくはそれが原因だ。

「魔力はあっても、体がついてこれなかったってことか……」

「え?」

「いや、こっちの話だ」

 宝剣ジオフェンサー、魔法石の指輪、そしてティムレリアの神力。それらによって、上級魔術を行使し、上級魔剣術を使うことは確かに可能になった。

 だが、その反動に体が耐えられなかったのだ。

 思えば、かなりの短期間で俺はこれらの力を手に入れた。

 使えるからといって無遠慮にぶっ放して、気づかぬ内に疲労が貯まっていたのだろう。

 そして、さっきの上級魔剣術がとどめになったということだ。


「修行が足りないな……」

「そんなことより休まないと。せっかく問題もひと段落したんですから」

 そう、今日になって、いろんなことが決着した。

 長いこと国を悩ませていたユニコーンもそうだが、俺たちの旅の目的もそうだ。

 話をしないといけない。

「……女神ティムレリアに会ったよ」

「ほ、本当ですか!」

 ミリアルドが目を見開いた。

 そして、喜ばしいような、と思えばちょっと悔しそうな複雑な顔になる。

「それはよかったですね。ああでも、本当に会えるのなら僕も行きたかったです……!」

 なるほど。本当に、ティムレリアが好きなんだろうな、ミリアルドは。


「またいつでも行けるさ。もう危険はないんだから」

「そうですね。……それで、どんなお話をしてきたのですか?」

 俺の体のことは言えないから……話ができるのは、虹の橋のことぐらいか。

「それが……」

 魔王城へ行くために手段、かつて勇者一行が使った虹の橋……それを使うことは不可能だ、ということをミリアルドに話す。

「そんな……」

「いくら女神様といっても、できないことはあるらしい。だが……」

 俺はまだ力のうまく入らない拳を握りしめた。


「その代わり、私の能力を高めてくれた。体の方がついていかなかったが……特訓して、使いこなせるようになりさえすれば……!」

「ティムレリア様のお力ではなく、人間である僕たちの力で、魔王を……」

 ミリアルドの言葉に、俺は頷いた。

 神様ばかりに頼ってはいられない。

 人間の暮らす世界なんだ、人間が守らないでどうする。

 かつては神の力を借りねば行けなかった魔王城へ、今度は人間の力のみで到達する。

 それこそが、俺たちを見守ってくれる女神ティムレリアへの、最大の感謝になるはずだ。


「そのためには……」

「飛空艇、ですね」

 そう、その手段を、俺たちはすでに知っているのだ。

 陸地とは隔絶された魔王城へ接近し、その周囲を覆う暗黒の毒霧さえも突破できる鉄の鳥、飛空艇の存在を。

「いい加減なんとかしないとな。バラン・シュナイゼルと、君の偽物を」

 俺たちを罪人と吹聴する教団の癌、悪の神官バラン・シュナイゼル。

 奴の悪事を暴き、俺たちの無実を証明しないと、飛空艇は手に入らないだろう。


「あの偽物……未だに、その正体は掴めません」

「ああ。一体どんな技を使ってるのか……」

 二人で悩んでいるところに、部屋のドアがノックされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ