表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/188

第六十六話 友達

「勇者戦紀の序章の話ですわね」

「殿下もお読みになられたんですね」

 ミリアルドが声を輝かせる。

 本当にあの本が好きなんだな、ミリアルドは。

「ええ、何度か。ただ……女性のあなたが、泉に近付くのは相当危険ですわね」

「危険? なんだそりゃ」

 サトリナ殿下はユニコーンのことを言っているのだろう

 だが、ローガはそれを知らないらしく、きょとんとした顔で尋ねてきた。

 答えてもいいが……ミリアルドの前では、話しにくいな。


「ユニコーンは女性を襲うんです。なので、泉や泉のある森に近付くには、国王陛下の許可がいるんですよ」

 が、そのミリアルドが間もなく答えを口にしていた。

 ……それもそうか。聖獣に関することを、ミリアルドが知らないわけはない。

 子供が知るには少々エグい内容だが……まあ、ミリアルドなら大丈夫か。

「じゃあ、クロは入れないんじゃないのか」

「ああ。だが、どうしても入らなくてはならない。女神ティムレリアに、会うためにはな」

 会って、俺が生まれ変わった意味を知る。

 それが今の当面の目標だ。


「女神ティムレリア様は、勇者クロードが魔王を倒すために何度もご協力したそうです。魔王の復活を阻止するため、僕らにもお力をお貸しいただけたらうれしいのですが……」

「あなたがたは、魔王の復活を阻止しようと?」

「はい。魔物の被害がこれ以上増加する前に、その根源を絶つべく行動しています」

 サトリナ殿下の問いに、ミリアルドが続けて答える。

 女神に会うのは俺自身の為だけではない。

 この世界のためにも、だ。


「お兄様も、よもやこんなことになろうとはと嘆いておられました。勇者クロードが命がけで倒した相手が、こんな簡単に復活するなど、と」

「そう、ですか……」

 クリス……あいつは、そんな風に思ってくれていたのか。

 俺の全力を注いで、相討ちが限度だった魔王ディオソール。

 もし今蘇生でもされたら、今の俺では手も足も出ない。

 奴の言葉ではあと五年……だが、それよりも早い復活だってあり得ない話ではない。

 急がねば……。


「お父様には、女神様に会いに行くという話はなされたのですか?」

「はい。しかし、やはり難しいそうです」

 いくら国王とはいえ、好き勝手出来るわけではない。

 国を動かすにはさまざまな人間の認可がいる。

 クリスは俺の正体を知っているが、ほかの人間にとっては、俺はただの旅人の女だ。

 森への進入の許可を出すのは困難だろう。

「何か手があればいいのですが……」

 何か合法的に、クリスにも、この国にも迷惑をかけずに泉に行く手段……。

 そんな都合のいい手段が、本当にあるのだろうか。


「……質問ばっかで悪いんだけどよ」

 風情もなく、カップに無造作に紅茶のおかわりを注ぎつつ、ローガは言う。

「そもそもさ、森に入ったとして本当に女神様には会えるのか?」

「それは……」

「勇者戦紀では確かに、勇者は女神に会った。それは俺も本を読んだから知ってる。でもさ、それは、勇者だったからだろ?」

 勇者クロードは勇者だからこそ、特別に女神に会えた。

 だから、俺たちが行っても会えないのではないか。

 ローガはそう言っているのだ。


「実際、勇者以外に泉で女神様に会った人間っているのか?」

 ……それは、考えてなかったな。

 いや、楽観的だったのではない。俺は、女神ティムレリアに会う方法を知っている。

 だから、泉に行けさえすれば会えると確信している。

 しかし、その方法は世間一般には広まっていない。

 疑問を持つのは当然だ。

「私も聞いたことありませんわ。お兄様は、勇者クロードと共にいたときにお会いしたと言っていましたが」

「僕も、詳しい方法は知りませんね。勇者戦紀にも書いていませんでしたし」

 博識なミリアルドも知らない。

 当然だ。あれのことを知っているのは、俺と、仲間たちぐらいだからな。


「……泉に行きさえすれば、会えると思っていたんだが……」

 本当は知っている。しかし、下手に伝えるわけにもいかず、俺は無知の振りをした。

「おいおい、そんな考えなしだったのかよ」

 それをローガに突っ込まれる。

 仕方ないとはいえ、少々イラッとくるな。

「どうすんだよ、せっかく泉に行ったのに会えませんでした、ってなったら」

「……いえ、わかりませんよ」

 俺を責めるローガに、ミリアルドが言う。

 何か思いついたような表情だ。 


「勇者クロードは確かに、女神ティムレリア様と何度もお会いしています。しかし、一番最初に会ったときだけは、彼はまだ勇者ではなかった」

「はぁ?」

 ローガがぽかんとした顔になった。

 向かいのサトリナ殿下は、なるほどと何か納得したようだ。

 ……ミリアルドの言うとおりだ。

 俺が一番最初にティムレリアと会ったとき、俺はまだ、勇者ではなかった。

「勇者クロードは、その勇者の力を女神ティムレリア様から授かりました。つまり、一番最初に会ったときはまだ、勇者ではなかったはずなんです」

 半ば迷い込むように俺は、あの泉にたどり着いた。

 そしてそこで俺は、ティムレリアに力をもらった。

 勇者として、この世界を救うための力と、魔王を倒すという使命を。


「きっとティムレリア様は、勇者クロードの素質を見抜いていたんです。だから、彼の勇者の力を授けた。だとすれば……」

 ミリアルドは、その澄んだ視線を俺に向け、微笑んだ。

「クロームさんも、ティムレリア様に選ばれるかもしれませんよ。そうしたら、勇者クロームの誕生です」

「ミリアルド……」

「ここまで一緒に旅をして、クロームさんが勇敢で、誠実な方だと僕は知っています。例え勇者に選ばれてもおかしくない……僕はそう思います」

「……買い被りすぎだ」

 なんだか恥ずかしくなって、俺はごまかすように紅茶を飲んだ。

 しかしミリアルドは、自信たっぷりに首を横に振った。


「そんなことありませんよ。魔物に対してあんなに果敢に向かうことのできる人は、滅多にいるものではありませんから」

「勇者だから女神に会えたのではなく、女神に会える人こそが勇者である、と……そういうことですわね」

 サトリナ殿下の言葉に、ミリアルドは満面の笑顔でうなずいた。

「それを確認するためにも、一度は泉に行かないといけませんね」

「……ああ、そうだな」

 実際、方法さえ知っていれば恐らく、誰だろうとティムレリアには会えるだろう。

 だが……なんとなく、俺のことをそんな風に言ってくれることが嬉しくて、俺は頬のゆるみを抑えられなかった。


「わかりました。私からも、お兄さまには申しつけてみますわ」

「いいのですか、殿下」

「ええ。お詫びも兼ねて、あなたたちとの親交の証とさせてください」

「親交の証……?」

 聞き返すと、サトリナははにかむように笑って、こう答えた。

「その……私、年の近いお友達が少なくて。あなたがたさえよろしければ……是非、私とお友達になってくださいませんかか、と……」

 義理とは言え、サトリナ殿下は王の妹。

 畏れ多い身分だ。友達を作るには、少々難しい立場にある。

 だから、ひょんなことで知り合えた俺たちと、友達になりたがっているのだ。

 ……そう、俺は知っている。

 例え王族でも、人間は人間。

 その心は、俺たちと何も変わらないのだと。


「もちろんですよ、殿下」

「ええ。こちらこそ、ぜひお友達になってください、殿下!」

 俺もミリアルドも、笑顔を浮かべてそう答えた。

 サトリナ殿下の表情がパッと明るくなる。

「ありがとうございます!」

 サトリナ……美しい蝶、か。

 なるほど、その名に違わず、可憐で美しい笑顔だ。

「へへ、それじゃあよろしくな、サトリナ」

 ローガも今までの諍いをなかったこととし、仲を深めようと手を差し出した。

 ……が。


「イヤですわ」

「んなっ!?」

「私の勘違いはあったにせよ、あなたが私に破廉恥な行為をしたことは紛れもない事実。あなたとはお友達にはなりません」

「んだとぉ!」

 ……こっちの方はまだまだ、時間がかかりそうだ。

 俺はミリアルドと視線を合わせ、呆れたように笑い会った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ