第六十二話 話を聞かない少女
「……それで? 何と言い訳するおつもりで?」
ここは城の牢屋……ではなかった。
一度は牢に連れ込まれかけたものの、偶然通りがかったゲザーさんに助けてもらい、なんとか談判の場を設けてもらったのだ。
というわけで、城の一室にて俺たちは、机一つを挟んで、先ほどの少女と向かい合っていた。
脇には立ち会いにゲザーさんがいるが、その表情は苦虫を噛み潰したような、なんとも言えない表情になっていた。
「俺は無実だ!」
「背後から襲ってきておいてそればかり。早く罪を認めなさいな」
相変わらずこの二人は言い合いに花を咲かす。
それはそれは毒々しい色の花だろうが……。
「……喧嘩中申し訳ないんですが……」
おずおずと、ミリアルドが挙手をする。
「なんでしょう?」
「お二人は、お知り合いなのですか?」
まあ、まずはそれだな。
ローガとこの少女の関係を知りたい。
犬と猿のように仲違いをしているのかも併せて。
正体の方は……殿下と呼ばれていたが……。
「知り合いっつーか、ラクロールの闘技場で会ったんだよ」
「闘技場?……武闘大会の参加者なのか」
「ええ。しかし、魔物騒ぎのせいでお流れになってしまいまして」
それは知っている。
今ローガといっしょにいるのもそのせいだ。
「んで、仕方ねえから街に戻ろうとしたんだがよ。……まあ、武闘大会だってんだから多少は気性の荒い奴がいてさ、そういう奴ら三人が暴動を起こしてたんだよ」
突然の中止だ。
高い旅費を使ってやってきた人間もいるだろう。
暴れたい気持ちもわからんではないが、実際にやるのは御法度だ。
「残念な気持ちは誰だって同じです。だというのに、自分本位な考えで暴れる連中を放ってはおけません。ですので私は、その男たちを我が槍で叩きのめしてやったのです」
さっきの暴漢二人も一人で倒したのだろう。
武闘大会に出ようというのも、格好つけやちょっとした気まぐれだけではない、確とした実力に基づいた考えのようだ。
「ローガさんは止めに入らなかったのですか?」
「行ったさ。女の子一人が戦ってるのを見て、ほっとけないと思ったんだ」
ミリアルドの質問にローガが答える。
「だが……運が悪かったんだ、とにかく。この女が一人で暴れる男どもを倒せるほど強かったなんて知らなかったから、急いで俺も男たちを止めようとした。焦ってたんだ。だから……」
だから?
ローガは言いにくそうに視線を脇に逸らした。
なんだ、何が起きた。
「……ずっこけたんだよ、倒れた一人の男に足引っかけて」
それはダサいな。
……だが、それだけではこんなに関係が悪くなることはないだろう。
その疑問に答えるように、少女は、ローガに蔑むような視線を注いだ。
「だから、私を押し倒してしまったと。……そう主張していましたね、あなたは」
「……なるほど」
運が悪かった、というのはそういうことか。
「私の胸をしっかり鷲掴みにしておいて、そのような言い種。許してはおけませんわ」
ラッキースケベも完備と来たか。それは関係が悪くなっても仕方がない。
「位置的にはそうだが、がっちり鎧着込んでんだから問題ねえだろ!」
「気分の問題です! だいたい、元々私を襲おうとしたのではなくって? 偶然にしては話が出来過ぎなのです!」
ローガからすれば不幸中の不幸の出来事を、少女は故意によるものだと思っている。
まあ、気分はよくないだろうな。女の身からすれば、いくら鎧の上からだろうが男に触られるのは大勘弁だ。
しかし、ローガが嘘をついているわけではないことは、ここまでの付き合いでわかっている。
偶然に次ぐ偶然が産んだ悲劇ということだろう。
「あの時は逃がしましたが、このセントジオガルズにやってきたのが運の尽きですわね。あなたのような不埒な男、一生牢獄から出られないようにしてさしあげますわ」
「ふざけんな! あの時だって謝ったし、今回のだってあの場所にお前がいるなんて知らなかった!」
「口ではどうとでも言えますわ」
「そりゃあお前もだ! 勝手に被害者面しやがって」
またまた二人だけの世界に飛び込んでしまう。
とばっちりで捕まりかけた俺とミリアルドは、同じ席にいながら疎外感だ。
……いや、別に入りたくはないが。
「どうしましょう」
ミリアルドの声に、俺は黙って首を横に振った。
どうしようもない。
「……そろそろですな」
今まで黙って話を聞いていたゲザーさんだったが、彼は視線を壁の時計の方に移してそう言った。
「何がですか」
彼に問う。
すると、その口が開かれる前に部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
ゲザーさんが言う。
開け放たれた扉から入ってきたのは。
「なっ……」
「えっ……」
俺とミリアルドが同時に驚いた、その人物。
「サトリナ。また厄介なことを起こしたのか」
「お兄さま! 聞いてください、この悪漢が……!」
少女……サトリナと言うのか、彼女が兄と呼ぶ、それは。
「……国王、陛下……!」
ついさっき、話したばかりのクリスダリオ・ギナ・カールル・セントジオ王、その人だった。




