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第二十五話 裏切り

「……っ、……っ!」

 残る気力と魔力を振り絞り、俺は転がるように飛空艇の中へと戻った。

 だがここも、決して安全とは言えない。

 飛空艇は今でも、落下を続けているのだから。


「残念ですが……引き返します!」

 ミリアルドが言う。

「ベルガーナ山までは戻れませんが……どこか、広い平野へ不時着するしかありません!」

 まっすぐではない、違った形の圧力がかかる。その重圧に、しかし俺はもはや抵抗する力も残っておらず、無様に床にへばりついた。


「ティムレリア教団総本部付近に、騎馬訓練用の平野があります! そこへ行きましょう」

「……それしかありませんね……!」

 リハルトも壁に体を預けて焦り顔だったが、さすがに騎士団長か、的確に指示を出す。

 他の騎士たちもそれぞれ、吹き飛ばされないように各所にしがみついている。

 

「地面が見えました! 僕の残りの神霊力すべてを使って、飛空艇を防護します。衝撃に備えてください!」

 言うが早いか、さらなる爆発音と共に、船体の揺れが激しくなった。

「く……うぅ……!」

 正面から覗く景色が、どんどんど地面に近づいていく。

 そして――。

 

「っが、っはッ!」

 全身を巨大な金槌で叩き潰されたかのような、強すぎる衝撃。

 床にへばりついていた体が浮き上がり、天井に叩きつけられ、さらに床に落ちる。

 飛空艇が地面を削り、穿つ揺れが内部に伝わり、俺たちを襲った。

 それが、しばらく続き……そして、収まった。


「……ぅう……」

 痛い。全身が、軋むようだ。

 だが、生きている。俺は、生きている。

 マーティに救われた、この命は。

 生きているのだ。


「……み、みなさん……ぶ、無事ですか……!」

 衝撃でひしゃげ、火花を散らす操縦席から、ミリアルドが這い出てくる。

 一番危険な場所にいたはずだが、大した怪我もしていないようだ。

「私は……無事だ……」

「我らも……平気です」

 俺だけじゃない。リハルトも、護衛の騎士たちも無事だった。


「よかった……とは、言えないですね……」

 壁に手をついて立ち、ミリアルドはゆっくりと首を横に振った。

 そう、何もよくはない。

 俺たちは生き残った。だが……マーティは……。

 マーティは……!


「クソッ……!」

 俺は悪態をつき、床を激しく殴った。痛い。腕が痺れ、動かせなくなる。

 それでも俺は、自分が許せなかった。

「何が……何が、"私が守る"だ……!」

 誓ったはずだ。昨日の夜、マーティの目の前で。

 何か危険があっても、必ず守ってみせると。

 だというのに、俺は……!


「守れてないじゃないか……! 救えなかったじゃないか……っ!」

 二度、三度と。痛む腕のことなど考えず、ひたすら床を殴り続ける。

「二人で生き残るって……言ったじゃないかよ……!」

 ふがいない。みっともない。

 悲しみだけじゃない。悔しさと、怒りと、やるせない感情で、涙が溢れた。

 俺は……守れなかった。たった一人の親友を。

 何が……何が勇者だ。何が世界を救うだ。

 たった一人の友達さえも救えない屑が、何をほざく……!

「クソ……ッ! ちくしょう……!」


「ミリアルド様……。今は、外に出ましょう」

「はい。……クロームさん」

 リハルトの声にミリアルドが返事をする。

 顔を上げると、よたよたと、ミリアルドが俺の方に歩み寄ってきていた。

「教団へ……お連れします」

「……はい」

 そうだ。いつまでもここにいたって、意味はない。

 だが……今の俺に、何ができる……。


 飛空艇から外に出ると、天に昇る太陽が俺を照らしつけた。

 まぶしい。まぶしすぎるほどの光だ。

 まるで、マーティの命を糧に生き残った俺を、晒し上げるような。


「……あれは……」

 ミリアルドがつぶやいた。振り向くと、その視線の先から、何かが歩いてきていた。

 白い鎧を着込んだ集団。教団の神聖騎士の一団だ。

 俺たちを……正確には、ミリアルドたちを助けにきたのだろうか。

 だが俺は、強烈な違和感に襲われた。

 騒ぎを聞きつけたにしては、早すぎる。

 まるで、ここに俺たちがいるのがわかっていたかのような……。


「お忍びの計画だったのですが……これで、すべてバレてしまいますね」

 リハルトに対してか、ミリアルドが言う。

 しかし、リハルトは返事をしなかった。

 それにはミリアルドもおかしいと思ったか、リハルトの方へ顔を向けた。

 だが。


「動かないでください」

「……っ!」

 ――リハルトは突如、ミリアルドの首筋に剣を突きつけていた。

「何を――ッ!?」

 何をする、と立ち上がった瞬間、俺の方も、護衛だったはずの神聖騎士に剣を突きつけられた。

「大人しくしていろ。命までは奪わないさ。……今は、な」

「リハルト、あなたは……!」

「ああ、ミリアルド様。報告が遅れました。実は俺、第一師団団長に配属が変わっていましてね。……つまり、そういうことです」

 昨日は確か、第三師団と言っていたはずだ。

 第三師団がミリアルドの部下と言うのなら、第一師団は。そしてそれを、わざわざこのタイミングで言った意味は。


「……バランの、スパイだったということですか……!」

 ミリアルドが悔しげに言う。

 バラン……バラン・シュナイゼルとか言ったか。魔物を放置しようと目論む、三神官の一人だ。

「ええ。あなたの計画はすべて、バラン様の手のひらの上だったわけです。……まあ、あなたのわがままのおかげで、いろいろと事情は変わりましたが……」

 すべてを嫌い、蔑むような目つきを俺へと向ける。

 首筋を蛇になめられたような怖気が走った。


「本来なら、飛空艇に乗った段階であなたを拘束し、本部に連れてくる予定だったんですがね。部外者が混じったせいで難しくなって冷や冷やしてたんですが……テンペストとかいう魔物に助けられましたよ」

「テンペストに……?」

「あいつが飛空艇をぶっ壊してくれたおかげで、自然とここに着陸させることができましたからね。まあ、下手すればそのまま殺されたかもしれなかったですが……それは、命がけで俺たちを守ってくれた、勇敢な少女のおかげで、どうにかなりました」

 ――マーティのことだ。

 マーティは、飛空艇を守ろうとして戦った。当然、このリハルトや騎士たちも含めてだ。

 だと言うのにこいつは、こいつらはとんだゲス野郎だった。

 マーティは、マーティの命は、こんな奴らのためにっ……!


「リハルト、貴様っ!」

「黙れ!」

 怒りに叫ぶ俺に、騎士が突きつきた剣を押しつける。首の皮一枚が切れ、血が流れ出す。

「つっ……!」

 なんだ、なんだんだ、これは!

 俺たちが……何をしたって言うんだ……!

 こちらに迫ってきていた騎士たちが、俺とミリアルドを囲む。


「この剣は没収させてもらう」

「ぐっ……! その剣に触れるな!」

 騎士が腰の剣を奪い去る。

 それは先生が俺に与えてくれた剣だ。

 お前らのような薄汚い連中がふ触れていいものではないというのに……! 


「痛ッ!」

 ねじられ、後ろ手に取られた腕に、何かがはめられる。手錠か。

 さらにミリアルドには、手錠だけではなく首輪のようなものまで装着された。


「歩け」

 重罪人のように、騎士たちに連行され俺たちは、混乱の最中、ティムレリア教団の本部へと、入っていくのだった。


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