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第百四十六話 飛空艇、とぶ

「では、改めて」

 ミリアルドは前を向き、飛空艇に神霊力を注ぎ始める。正面の機械のいずこかを操作すると、格納庫、飛空艇の鼻先が向く方向から急に光が差し始めた。

 それが日の光だとわかるのにそう時間はかからなかった。外と繋がったのだ。

「行きますよ、みなさん」

「ああ」

 返事をするとほぼ同時、体が若干、上から椅子に押しつけられるような感覚があった。

 飛空艇が浮いたのだ。それから今度はゆっくりと前から押されて――これは、列車に乗ったときにも味わったものだ。

 暗い格納庫の中を徐々に徐々にと進んでいき――ついに、明るい世界へ飛び出した。

「おお……!」

「わあ……!」

 感嘆の声が上がる。ローガとマーティだ。

 前面から見える景色は、イルガの乗っているときとはまた違う見え方をしていた。

 何せ、イルガが滞空する高さよりも高く、そして速いのだ。あっという間に大陸を抜け、眼下には真っ青な海が広がった。


「……よし。これで安定しました」

 言うと、ミリアルドは機械から手を離して振り返った。

「後三時間ほどで到着します。それまで休憩しましょう」

「休憩っても、別に疲れてるわけじゃないしなあ」

 朝起きて、朝食を摂り、魔法石の取り付けが終わるまで待機していただけだ。

 一応俺は今後に備えて多少体を動かしてきたが、それで特に疲労がたまっているわけではない。

 休憩するほどのものではなかった。

「では、英気を養うということで」

「ですわね。武器の手入れなどもしておいた方がよさそうですわ。何せ、魔王と対峙することになるのですから」

 サトリナの言葉に、うんうんとローガが頷いた。――が、俺はサトリナの言葉の理解が遅れた。

 ……そうか、そういう心づもりだったのか、と。

 いや、これに関しては仕方のないことだろう。今までずっと、魔王を倒しに行くと豪語してきたのだから。


「えっとですね……。意気込んでいるところ恐縮なんですが、魔王城には魔王は……いません」

 何を馬鹿な、とでも言いたそうに、俺以外の全員がミリアルドを見た。

 俺が事情を言おうとして――クロームがそれを知っていることはおかしいなと気づき、すんでの所で口をつぐんだ。

 悪いがミリアルド、説明は任せる。

「魔王は確かに蘇りつつあります。それは僕も感じ取ったことなので確かです」 

 だからミリアルドは飛空艇で魔王城を目指そうとした――それが始まりだ。

「ですが、復活したわけではありません。あくまでも復活しそう――というだけなんですよ」

「……じゃあ、こうしていろいろ準備して、ようやっと辿り着くってのに……最終決戦って感じじゃあねえ訳だな?」

「そうですね。まあ、魔物は多少いるとは思いますが」

 魔王の力が集まる根本だ。強力な魔物は少なくないだろうが、今の俺たちならば大した相手にはならないだろう。

「そうだったんですのね……。てっきりわたくしは、蘇りかけの魔王と一戦交えるものかと」

 サトリナもなんだかんだで好戦的だ。戦う相手がいないと知って、ローガとともに心なしかしょんぼりしている。

「あたしもそう思ってた。こう……全身が半分溶けたみたいな魔王が出てきたりとかさ」

「万が一そんな姿で蘇っていたとしたら、即座に撤退しますよ。完全ではなくとも相手は魔王。勝てる見込みはありません」

 未だに、かつてのクロードと並ぶ実力は得られていない。魔力を全開にすれば瞬間的には追いつけるかもしれないが、そんなことをすればすぐに魔素マナ切れだ。


「そもそもミリアルドは、少ない部下たちとだけ行こうとしていたからな。覚えてないか、マーティ?」

「ああ……。なんだっけ、あの赤い髪の人ね」

 リハルト・レキシオン――以前、死闘を繰り広げた奴とは、最初はミリアルドの部下として出会った。だが、その時にはすでに奴はバランの腹心だったようだ。

 まったく……あの時のことさえなければ、もっと楽に終わる話だったんだ。

「つまりあれだな。魔王城に行くってことが難しかっただけなんだな?」

「はい。紆余曲折ありましたね」

 そしてその終着点はもうすぐだ。

 魔王の復活さえ阻止してしまえば、世界は再び魔物の恐怖から逃れられる。

 誰も傷つかない、誰も悲しまない平和な世の中が戻ってくるということだ。

 バランのことは不安材料ではあるが、もはや問題ない。……問題ない、はずだ。

 だが、なんなのだろう、このどうしようもない悪い予感は。

 何か重要なことを見落としている気がする。

 何かが……何かが起きる気がしてならないのだ。


「クロームさん?」

 考え込む俺が気になったのか、ミリアルドが声をかけてきた。

「どうしました?」

「いや。……いろいろあったなってさ。長かったよ、本当に」

 だが、俺はそうとしか答えなかった。不安の正体がわからないうちから話してしまえば、余計な心配をかけることになる。

 何でもない、事は順調に進んでいる――そう思い、俺は嫌な不安を忘れてしまうことにした。

 飛空艇は問題なく飛ぶ。初めて乗ったときのような、魔物の妨害も何もなく。

 ――ただ一つ、イルガが先ほどから真っ青な顔でいること以外は。

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