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第百十五話 病床にて

「……何にせよ、クロームさんの足が治らないことには始まりませんわね」

 呆れたようにため息をついて、サトリナがそう言う。

 治癒術も万能ではない。あまり大きな傷になると、それだけでは治し切ることは出来ない。

 俺のこの足も、治癒術を駆使したとしても恐らく、完治まで一週間はかかるだろう。

 ……それまでに、考えをまとめなくてはならないか。

 一週間……あまり長い期間ではない。

 出来るだろうか。俺に……心の整理が。

「みんな……ごめん」

「己れは構わないさ。……ゆっくり考えろ。己れは、お前が決めたことに従う」

 イルガはそう言って、部屋を出ていった。

 イルガはあくまでも、この俺に着いてきてくれるのだろう。

 もしも……考えたこともなかったが、もしも……俺とミリアルドがここで別れることになったのだとしても。

 

「焦ることはありません。ここまでの疲れも取るつもりで、ゆっくりお休みになるといいですわ」

「んだな。ま、見舞いに来たときにゃ相談ぐらい乗ってやるさ」

 二人ともそう言って、同じく部屋を出て行ってしまう。

 最後に残された、ミリアルドは。

「…………」

 とても、悲しげな顔で。

 何も言うことなく。

 ……ほとんど減ることのなかった食事の盆を持って……去っていく。

「……ミリアルド……」

 こんなこと……こんなことになるなんて、思わなかった。

 俺は、どうしたらいい。

 別れるべきなのか。

 そもそもミリアルドは、一人で魔王を退治しに行くつもりだったのだ。

 それはバランに阻止されたが、今こうして再びティムレリア教団に帰ってきた。

 考えてみれば……俺とミリアルドの関係は、成り行きでしかなかったのだ。

 そしてその成り行きも……今、ここで終わったのだ。

 ミリアルドは魔王を。俺はバランを……こうして、目的が変わってしまったのならば。

 いつまでも一緒にいるべきでは……ない。

 でも、俺は……。

「マーティ……」

 俺は、どうしたらいい?

 教えてくれ……。

 

 

 ……三日が過ぎた。

 クリミアたちもこのティムレリア教団に辿り着き、実権を取り戻したミリアルドによってセントジオガルズ国防軍と正式な協力関係になった。

 彼女たちは今、ゲザーさんが主導となってバランが隠している月岩塩を捜索している。

 被害者も続々と発見され、例の手紙に書いてあったクリミアの文通相手の友人も、今は中毒症状を緩和するための治療を受けている。

 バランを教団から追い出して、事は着実に良い方向に進んでいた。

 だが、俺は。

 俺はまだ……何も、決められずにいた。

「足の具合はどうですか?」

 見舞いの品を持って、クリミアが訪ねてきてくれる。

「だいぶよくなってきました」

 神霊術のお膝元というだけあって、治癒術の効果も存分だ。

 思っていたよりも傷の治りは早く、多少歩くぐらいならば出来るようになっていた。

「調査の方はどうですか?」

 持ってきてくれた果実の皮を剥くクリミアさんに、捜索の進捗を聞く。

 すると、状況は余りよろしくないのか、眉をひそめてため息をついてしまった。

「正直、手詰まりというところです。症状の大小問わず、月岩塩の被害者は見つかるのですが……やはり、その保管場所までは知らされていないようです」

「そうですか……」

「採掘していた人たちもいつの間にか始末されていたみたいです。今は、ミリアルド様が改めて監視を送ったようなので、新たに流通することはないと思いますが」

 月岩塩の使用者たちは、あくまでもそれそのものを手渡されていただけであり、恐らくはバランが岩塩を人々に与えていた理由も知りはしないのだろう。

 せめて目的だけでも知ることができれば、進展も見込めるのだろうが……。

 やはり、バランの跡を追うのは難しいようだ。


「すいませんクロームさん、お力になれず……」

 落ち込むクリミアに、俺はゆっくりと首を振った。

 そんなことはない。セントジオの人たちはとてもよくやってくれている。

 ここはソルガリア大陸……言ってしまえば、クリミアたちとは無関係の土地だ。

 だというのに、まるで自国のことのように尽力してくれている。……とてもありがたい話だ。

「あなたたちは私たちには出来ないことをやってくれています。バランのやろうとしたことは、この世界そのものを脅かしかねません。本当に、ありがとうございます」

「そう言ってもらえたら幸いです。はい、どうぞ」

 皮を剥き、切りそろえられた果実を受け取った。一つを口にすると、甘酸っぱくてとても美味しい。しゃくっとした食感も小気味よく、荒んだ心が洗われるようだ。

「ところで……クリミアさん」

「はい、なんでしょう」

「……ミリアルドは今、何を?」

 この三日間、俺はミリアルドと顔を合わせていなかった。

 漠然と何をしているかというのは、度々見舞いに来てくれるローガたちから教えてもらえたが……それだけだ。

 ミリアルド自身がどんな考えで、どのように動いているのか俺は知らない。

 以前までなら真っ先に話してくれただろう。だが……今、俺と彼の間には亀裂が走っている。

 どんなに強い治癒術でも癒やしきれない、心の亀裂だ。

 ……わかってる。悪いのは俺だ。俺がマーティのことを諦めれば、すべては丸く収まるのだ。

 諦めるとは言わなくても、後回しにすればいい。

 もはやバランに力はない。魔王の復活を阻止した後にしたって構わない。

 しかし……そうだとわかっていても俺は……どうしようもなく、マーティのことを考えてしまう。

 ミリアルド……俺は、君と……。

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