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第百十四話 亀裂

「僕は……クロームさんが見たマーティさんは、本物のマーティさんだと考えます。いくら絶望的とは言え、生き残る可能性があったんですから」

 そしてバランがそれを拾い上げた……そう考えるほうが自然だろう。

「では、なぜマーティさんはバランに着いたのでしょう」

「洗脳か、記憶喪失にかこつけて、ってところじゃねえか」

 サトリナの疑問にローガが答える。

 偽物を作り出せるというだけで、バランが搦め手を得意とするのは明白だ。

 洗脳の類はお手の物と考えていいだろう。

 だとすれば。

「バランを追う理由が増えた……ということか」

 本来ならば、もはやあの醜悪な元神官とは関わり合いになる必要はないはずだった。

 教団さえ取り返せば、俺やミリアルドは自由の身。バラン本人は出来れば捕らえたかったが、出来ずとも神聖騎士や王都の軍人に任せればよかった。

 だが、マーティが……生きていてくれたマーティが、本人の意志を無視して奴の手先として利用されているのなら俺は……彼女を救い出さなければならない。

「しかし、そのバランがどこに行ったのかわからないのではな」

 イルガが言うが、俺には考えがある。

 上司の行動は、それをよく知る部下に聞くに限る。


「ミリアルド、リハルトはどこに?」

 俺との激闘に敗れ、力尽きたリハルトも恐らく、教団のどこかで治療を受けているはずだ。

「奴に話を聞けば、万が一の場合の潜伏先を知っているかもしれない」

 こういった事態を想定していたわけではないが、殺さずに済んでよかった。

 さっさとバランを追って、マーティを救出しなければならない。

「……ミリアルド?」

 だが、ミリアルドは俺の質問にすぐには答えなかった。

 苦い顔をして、やや言いにくそうにしてから告げる。

「実は……リハルトは、行方不明なんです」

「え……」

「人々を避難させ、講堂に戻ってきた時にはすでに……彼の姿はありませんでした」

 馬鹿な。

 死ななかったとは言え、決して軽い怪我ではない。

 治療も受けず、数分、数十分で動けるようになるとは到底思えない。

 脱出など……。

「俺たちもちょうどその時に合流してさ。壁にデカイ穴が空いて、外まで突き抜けてたから何かと思ってたんだが……」

「きっと、バランが乗った魔物を使って回収したのでしょう」

 ……そういうことか。

 聴衆を避難させ、戻ってきたところにローガとサトリナもやってきた。

 その時にはすでに、リハルトはバランに回収されていた。

 俺が気を失って、どれくらいの時間が空いていたか正確にはわからないが、そう長い時間ではないはずだ。

 ……結局、すべてバランにしてやられたということか。

 最大の目的こそ果たすことは出来たが……腑に落ちない結果だ。


「ということは、バランに関する手がかりはないってことだな」

 こうなれば独自に捜査するしかない。

 魔物で移動したのなら、目撃情報は少なくないだろう。

 それこそ、脱出した入信者たちが見ている可能性がある。

 足の痛みはまだ引いていないが、話を聞きに回るべきだろう。

「……あの、クロームさん」

「なんだ、ミリアルド?」

 マーティを救うべく頭の中で模索する俺に、ミリアルドが声をかける。

 やはりその表情は辛そうで、何か申し訳なさそうにうつむきかけている。

 少しして、ようやくと言った風に、絞り出す。

「……気分を害してしまったら、すいません。僕は……バランを探すのは、反対です」

「……なんだと?」

 バランを、探さない……つまりそれは、マーティを放置するということだ。

 ……怒りが沸かなかったと言えば、嘘になる。

 だが……ミリアルドとしても苦渋の決断というのは見て取れた。

 落ち着いて、理由を尋ねる。

「何故だ?」

「行き先がわからないというのが、まず第一です。闇雲に探し回っても無駄に時間を消費するばかりですから」

 もっともだろう。

 だから俺は、まず情報を集めようとしている。

 ミリアルドは続ける。

「第二に……優先すべきは、魔王の排除だと思います。あくまでも僕達の最終目標は魔物の根絶です。……バランの動きは気になりますが、世界を脅かすほどではありませんから」

 ……筋は通っている。

 ミリアルドの考えは正しい。世界の現状を鑑みるならば、それこそが正解だ。

 わかっている。……わかっているんだ、俺だって。

 でも。

「私は……マーティを探したい」

 理屈じゃない。

 マーティは大事な幼なじみで、ずっといっしょに育ってきた。

 旅の途中で永久に別れたと思って……とても悲しかった。

 それが、生きていたというのだ。

 しかし彼女はバランに洗脳され、敵に回ってしまっている。

 それを放置し、今までと同じく旅を続けることは……俺には、できない。


「わかっています。クロームさんの気持ちは……痛いほど、わかります。でも……!」

「私は……っ!」

 ともすれば叫び出しそうな感情を、必死に抑えた。

 魔王を滅ぼし、魔物を駆逐し、世界に平和を取り戻す。

 それがすべてにおいて最優先だ。

 そのために、俺たちは長い旅をしてきたのだ。

 このソルガリア大陸からセントジオ大陸南部へ行き、セントジオガルズまで北上し、次元の門を通ってグレンカムへ、そして……ようやく、ソルガリアへ戻ってきた。

 すべては、魔王を倒すために。

 十五年前に聞いた、俺だけが知っている魔王復活を阻止するために。

 わかってる。わかってはいるんだ。

 でも、でも……俺は……。

 マーティを放ってはおけない……!

 割り切れない自分が嫌になる。

 どうするべきかなんて全部、わかっているのに。

 心が二つに割れたかのようだ。

 もう……自分自身が制御できなかった。

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