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少女天換プシュケー! ~巨神と戦うため、僕がボクになる話~  作者: 羽毛布団F
第1章  巨神を斃せ! プシュケー顕現
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第1話  謎の襲撃


「ワタシはアナタに、再び奴らに抗うための力を与える事はできマス」


 目の前の白いフクロウはそう言った。


「けれど」


 俺の覚悟を確認するように、告げた。


「アナタは、今までの人生を無にする、覚悟はありマスか?」


******


 この僕、戸田真幸とだ・まさきはそれなりに幸せな人生を送っていたと思う。

 現在高校1年生、来月には2年生になる。

 彼女のひとりも居ないのが玉に瑕だが、優しい両親と可愛い妹に恵まれ、ごく普通に人生を謳歌していたはずだった。


 この平凡な幸せが急変したのは、妹に付き合っての買い物の途中だった。


******


 こうして市内の繁華街に出てくるのも久しぶりだった。

 だいたいの買い物は学校近くの商店街で事足りるからだけど、今日は僕の用事でここまで足を運んだわけじゃなかった。


「おにいちゃん、早く早く」


 小鹿のような元気よさで道路を先に歩いているのが千里ちさと

 来月に中学校へと進学する、少し年の離れた妹である。兄の贔屓目を差し引いてもなかなか愛らしい顔立ちをしていると思う。


 世間様では親離れ・兄姉離れをして愛する家族に哀しみを抱かせる年少の少年少女も多いと聞くが、千里には無縁な心配だったようでそこは安堵していた。


「今日は一日、おにいちゃんは私の荷物持ちなんだからね!」

「はいはい、分かってるよ」


 舌足らずの言葉だと、こんな台詞も微笑ましい。


「明日香ちゃんも誘ったんだけど、部活で忙しいって断られちゃった。高校生って忙しいんだね」

「……そうだな」


 久我山明日香くがやま・あすか


 向かいの家に住む、僕達の幼馴染。

 小さな頃はよく一緒に遊んだ仲だったが、高校をそれぞれ違う学校に進学して以降、挨拶程度を交わす機会はあるものの、すっかり疎遠になった幼馴染。


 そして、中学卒業の日に告白しようとして出来なかった幼馴染。

 あれから1年近くが経ったのだが、ずっと昔の思い出のように感じる。

 もしもあの日、告白できていれば何か違ったのだろうか? と今でも思わなくはない。


「でもいいもんね、その分おにいちゃんを独占しちゃうんだから♪」

「千里はいつも元気でいいな。癒される」

「えー、今あたしの事バカにしたー?」


 久々のショッピングに心弾んでいるのだろう、足取り軽く先を行く妹に追いつこうと歩みを速め


 視界が暗転した。


 いや、違う。

 世界が暗転した。


 急に日が落ちた、そんな表現では物足りない。

 黒いフィルム越しに世界を見ているような、それとも真っ暗な霧がかかったというのが正しいのか。

 建物も、街路樹も、ショーウィンドウに飾られたマネキンの1体1体さえも暗みがかった不思議な風景。

 そんな中、ただ人だけが暗闇の中に不自然なくらいに、まるで発光しているかのようにはっきりと見える。

 同じ道を歩く人、影絵の車の中に乗っている人、そして僕の前でキョロキョロしている千里も。

 人以外に動いている物の無い世界。


「お、おにいちゃん、これ、何?」


 僕の方に駆けて来た妹が不安そうに聞いてきた。僕にも答えようのない出来事だったが、少なくともこの状況は僕にだけそう見える・僕にだけ訪れた現象ではないようだ。


「分からない。皆既日食でもあったのかな」


 自分でも信じてない言葉。

 それでもどうにか妹を安心させようと捻り出した言い訳は


「グアアアアアアアアアア!!」


 猛獣のような雄叫びによって引き裂かれた。


******


 人のみを白く浮き上がらせた影の世界。

 そこの湧き立つように現れた、大きな影。


 2階建ての家くらいはありそうな、大きな影。

 それは人の形をしていて──


「グアアアアアアアアアア!!」


 強烈な雄叫びを上げた。


「う、うあああ……」


 僕は恐怖を覚えた。

 訳の分からない状況なのは否定しない、その事に不安を感じていたのも否定しない、けれどそういった事を差し置いて。


 今の叫び声に生理的な、感覚的な恐怖を覚えたのだ。

 そう、例えるならライオンが目の前にいるかのような。

 牙を剥いた猛獣に吼え立てられたような。


「ひっ……!」


 側にいた千里がへたり込む。

 妹もそうだったのか、それ以上だったのか、立っていられなくなったのだろう。そういう僕もかろうじて座り込まないだけで、足はガクガク震えていた。


 唖然としてただ大きな人影を見ていた僕達。

 そんな僕達の目の前で、大きな人影は手を伸ばし、近くにいたスーツ姿の女性を鷲掴みにした。


 微かに聞こえた女性の悲鳴。恐怖と困惑の混ざった奇妙な吐息。

 大きな手に捕まった女性はそのまま持ち上げられ、

 影の頭がある辺りまで持ち上げられ


「ひっ」


 短い悲鳴の後、女性の姿が消えた。

 突然、影につかまれていた女性の姿が消えたのだ。

 それはまるで、あの大きな影に食べられたかのうようで──


「ち、千里、よく分からないけど、ここから逃げるぞ!」


 手を引っ張り、妹を立たせようとする。


「お、おにいちゃん、ダメ、立てないよ……!」


 しかし腰が抜けてしまったのか、千里は脱力したまま動かない。


「じゃ、じゃあ背中に乗るんだ! おんぶするから!」

「う、うん…………あ」


 妹に背を向けた僕に聞こえたのは、了承の声と

 絶望の響き。


 その理由は、確かめるまでもなく分かった。

 手を伸ばしてきていたのだ。

 黒く大きな人影が、妹に向かって、手を


「や、やめろ……!」


 生理的な恐怖と嫌悪を覚える。

 食べられたかのような女性の消滅にも恐怖を覚えた。

 けれどそんなものを、そんなものの手を妹に向けられた怒りが、震える膝をなんとか立たせる事が出来た。


 未だへたり込んだままの妹と、手の間に立ち塞がる。

 しかし、


「ひっ」


 全身を襲った激しい衝撃と


「おにいちゃん!!」


 妹が僕を呼んだ悲鳴を最後に、僕の意識は途切れた。


******


「ガッデム、間に合わなかったようデス」



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