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日常あればこそ


「そんなバケモノがこっちに来ないうちに封印を修復する。それがワタシの果たすべき役目と心得る、デス」


 ヘイゼルの語ってくれた英雄ヘラクレス誕生の逸話と、ギリシャ神話最大の英雄に匹敵する巨神の話。

 ギガーテのボスをこちらに来させてはいけない、そんな大前提の他に、何故ヘイゼルが僕のような人間の力を借りなければならなかったのか、そんな根本的な部分も理解する事が出来た。


 曰く、ギガーテは神サマの力で滅ぼす事は出来ないために人間の力が必要。

 かつては半神半人の英雄が担った巨人殺し、それを今は「神サマの力を借りた人間」に代行させる形で成そうとしたのだろう。


 巨神を討つためだけに子供を作る。

 うん、現代だとちょっと倫理的にドン引きする状況である。

 なので神サマの力と親和性の高い──導調率というらしい──人に力を委託する事でギガーテを討つ、討ってもらう、そのつもりだったらしいのだけど。


「アナタは、その、神サマの力(プシュケー)で身体を書き換えている都合上、『天換』中は人間の因子が予定値よりも減ってるデス。だから」

「僕ではギガーテの不死の象徴、心臓を壊してトドメを刺すには至れないって事なんだね」

「ハイ。贅沢な話デスが」


 巨人の肉体修復を遅らせる程度の影響しか及ぼせず、封印に甘んじているのはそんな理由だった。


「アナタが女神サマの“プシュケー”との導調率が上がればクリアされる問題デス。それまでは心臓の封印、ワタシが頑張るデス」

「うん、頼りにしてるよ」


******


 神サマと巨人の争いが世界の片隅でひっそりと進行していようとも、世間は日々の暮らしをマイペースに歩み続ける。

 僕もおかしな運命に翻弄されている部分はあるが、それも僕の人生からすればほんの一部に過ぎないのだ。


 春休み。

 休みの長さと宿題の軽さが調和した、一番安らげる長期休暇にわざわざ登校しているのも僕の平和な日々の1コマ。


『恐れぬか、我が剣の閃きを、神罰を轟かせる刃を!』

『ほざけオルディーネ、我が魔道の前に平伏すがいい!!』


 ここは学校の体育館。

 明るい照明に照らされた舞台の上とは対照的な、影ある舞台袖に控えて先輩たちの演技を見ているのは、このところ僕の日常風景だったりする。

 演劇部の練習着、体操服のジャージ姿な僕達と違い、舞台上の先輩たちは本番用の衣装を身に着けての稽古中。


『はっ!』

『馬鹿な、我が暗黒の力で鍛えし闇の剣が!?』


 春休み明け、我が校では新1年生を迎える入学式の後に文化系の部活が歓迎セレモニーを執り行う伝統がある。

 僕の所属する演劇部も出し物を行うのだが、それが今先輩たちの稽古している短劇。各部に割り当てられた時間が短いのもあるけれど、今後の新入部員勧誘を見据えたアピールも考慮すべきであり、いかに短時間で目を引く劇を上演できるかも重要とされる。

 よって演劇部では見た目が派手で格好いい立ち回りのアクション劇を演じるのが伝統となっていたらしい──かくいう僕も昨年そのアピールに引かれたクチなのだけど。


『クハハハッ、だが忘れるな、我は再び蘇るぞ、再び!』

『消えろ、怨念よ!!』


 今年もその伝統に則り、流浪の女剣士が悪の魔術師を退治するファンタジーものの短劇を行う事になっていた。ストーリー性は排除しつつ、煌びやかな衣装と格好いい剣や鎧、それらをまとった演者の派手な立ち回りに重きを置いた、とても目を引く演目。

 それだけに活劇を演じる先輩方に対し、脇役は本当に脇に徹しているのが残念ともいえるのだけど。


「正直、俺たちはいてもいなくても同じだからなぁ」

「そこはそれ、舞台慣れする機会って事で」


 村人Aを演じる同輩と頷きあう。

 学内のイベントで僕達が劇を披露できるのは2回、この歓迎イベントと秋の文化祭くらいのもので、県内外の学生演劇コンクールなどに参加するかどうかはその年の部長次第である。

 となると、おのずと舞台に上がる回数も限られるというもので、衆目を集めて演技を披露する機会は貴重なものとなる。そのため演者希望の新2年生は端役でも、台詞が一言二言でも舞台に上がれるよう脚本が工夫されていたりする。


「本当に一言二言だけどね」

「そう言うない、村人B」


 自分達の出番も台詞も少ないため、何度も見学している先輩たちの台詞をほとんど覚えてしまった程である。


 僕達の見守る中、舞台の幕が下りる。

 途端、その場にへたり込む先輩たち。


「お、お疲れ様でーす」


 全体で10分足らずの短い劇だが、アクション性を重視した内容。主演の副部長をはじめとしてメインキャストの先輩方はとにかく立ち回りが派手である分、体力の消耗も激しい。衣装が大仰なのも相まって、まだ春先の寒さが残る時期なのに一幕演じた後は汗だくの息も絶え絶え。なかなかに過酷である。


 かくして主演たちは休憩の後、個別に殺陣の打ち合わせに入る。こうなると脇に控える僕達は見取り稽古の余地もなく暇に


「そこの男子、暇ならこっちを手伝って!」

「はいはい、分かっておりますよお嬢様方」


 肩をすくめておどける村人A。最初からそのつもりだった僕も呼ばれた方へと歩み寄った。



ようやく「青春」や「高校生」タグらしい描写が増えてきました。

「ラブコメ」タグもらしい話もそのうちきっと。

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