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結界修復の目算


「グラウ、コーピス!!!」


 輝きの巨剣が人食いの巨人を吹き飛ばす。その身を塵と化し、巨体を構成している“プシュケー”を消滅させる。

 後に残されるのは不死の象徴ともいうべき巨人の心臓。


「ヘイゼル!」

「わかってマス、『オリーブの封印』!!」


 剥き出しの心臓は女神の加護を受けたオリーブの蔓に包まれ、大地に封印されていった。


「封印完了デス」


 ボクの日常に食い込んだ非日常。

 いにしえの巨人ギガーテが異界の封印から漏れ出し、ボクの住む街で人を襲うようになってから数週間。

 3学期が終わり春休みに突入した頃、ボクにとってギガーテとの戦いは両手に余る回数をこなし、幸いにして危なげなく街の平和を守れていた。


 ただし、あの日(・・・)に突き刺さったトゲがひとつ。


「……他からの干渉も無い?」

「大丈夫デス」

「よかった。お疲れ様、ヘイゼル」

「ハイ」


 ヘイゼルの保証でボクは緊張を解いたのだった。


******


 あの日。

 部活動の途中、ヘイゼルに呼び出された僕はギガーテの1体、軍勢ギガンテスと呼ばれるタイプの巨人を倒し、心臓を封印したのだけど。

 その心臓を媒介に、神サマの封印結界『タルタロス』からこちらの世界に念話を送ってきた敵がいたのだ。


 敵、そう、敵だ。

 結界越し、テレパシー越しの僅かな接触だったけど、そう確信できる。

 直感が、本能が、神サマの力を借りたこの身体が全身で訴えていたのだ。

 あれは危険だと。

 決して分かり合う事のできない敵なのだと。


 神サマの封印を越えてこちら側への侵攻を図る巨人の首魁。

 アルキュオネウス。


 そう名乗る巨神の存在により、今までのギガーテが封印の綻びから自然に彷徨い出たものではなく、巨神が復活を目論んで能動的に活動している事が判明した。


******


「やる事は変わりマセン。『タルタロス』の綻びを探して結界の補強をするのが最上デス。その合間に湧き出るギガーテをアナタに討伐してもらう、それは変わらないデスが……」


 あの日の夜、夢の中のミーティングで語ったヘイゼルの口調は重い。


「『タルタロス』の綻びからギガーテが自然現象的に漏れ出していた、そんな単純な事情じゃない可能性が高まってしまったデス」

「アルキュオネウス、だっけ。名乗った巨神」

「……ハイ。偶然の産物ではなく、ギガーテが進んで『タルタロス』からこちらへの干渉を図っているとなると話が違ってくるデス」


 即ち、偶然ではなく計画的。


「『タルタロス』の綻びが未だ見つからないのも、穴が自然に開いてしまったものじゃなく、結界の弱くなった部分を一時的にこじ開けている──そういう事かもしれマセン」

「綻びを探そうにも常に穴が開いてるわけじゃない、開いてるのは一瞬だけ、それも同じ場所とは限らないって事か」


 であればギガーテが同じ街中とはいえ別の場所に現れている理由も納得がいく。出口はひとつではなく、出口をあちこちに作れる環境であるのなら。


「あくまで概念的な表現デスが、『タルタロス』の弱まっている壁面がこの街のある空間に広く接しているような状態だと考えられるデス」

「それって穴を塞ぐのに比べて、修復できるの?」

「時間と力はかかるデスが」


 壁全体の塗り直し、厚みの補強するイメージに近いらしい。しかし一点を修理する穴埋めに比較すると、空間の計測に要する時間や補強に消費するエネルギーは多くなるとのこと。

 その上でヘイゼルは自身の“プシュケー”を蓄積しつつ、補強する結界壁面の特定を並行して行う必要があるのだとか。


「僕はそっちの事は手伝えないから、頑張ってとしか」

「うう、分かってるデス」


 そういって神サマの遣いはフクロウらしからぬ勤勉さで昼夜を問わず街の空を飛び回っているらしい。

 ご苦労様、そして一日も早くこの街が安全になりますように。


******


「じゃあ頑張ってくるデス」


 これで話は終わりとヘイゼルが夜の翼を広げ、僕の夢の中から飛び立とうとした時、ふと思い出す。


「あ、ヘイゼル、ひとつ聞き忘れてたんだけど」

「……なんデス?」

「あれだよ、あれ、そう、『アルキュオネウス』とかって名前。あれについての説明は何も無しなの?」


 その名を出した途端、神サマの遣いから緊張の雰囲気が漏れ出した。

 そう、あの日あの時、巨人の首魁がこの名を名乗ったのと同じように。


「…………まあ、気になるデスよね」

「そりゃあ、悪巧みをしている敵のボスの事だし」


 戦っている身としては気にならないはずはない、わざわざ向こうから堂々と名乗り上げた敵なのだから。

 むしろ協力している僕に対しては、水を向けなくとも説明があってしかるべき問題だったのでは──この時の僕はそう思っていた。


「……ハイ。聞かれてしまったので答えるデス。でも」


 ──そんな疑問に囚われていたからこそ、その先までは考えが至らなかったのだ。


「ワタシは戦後生まれなので、知識でしか語れないデスが」


 説明してしかるべき問題を、どうしてこの誠実なフクロウが避けたのか。


「その前にひとつ確認デス。アナタは『ヘラクレス』って英雄を知ってるデスか?」



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