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聖女召喚  作者: ほむら
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ハーフムーン

 マリーラとともにポイズンフロッグ狩りで当面の生活費を稼いだアルフォンスは、冒険者ギルドの窓口で稼ぎの良い仕事を紹介してもらえるように頼んだ。

 ギルドの窓口の職員は親切なオバサ……コホン、年上の女性で、アルフォンスが魔法使いギルドにも所属している正規の魔法使いであることを明かすと、上位ランクのパーティーとの合同受注による仕事を勧めてくれた。

 冒険者にも魔法使いはいるが、大半は魔法使いギルドに入っていない魔法使い、つまり魔法学院で魔法使いとしての正規の訓練を受けていない野良の魔法使いである。

 野良の魔法使いの多くは、魔法使いとしてのレベルの平均が低く、使える魔法の数も少なく、優秀な魔法使いが少ない。

 魔法使いギルドに所属している魔法使いは大半が魔法学院出身者及び在学者であり、正式な訓練を受けているので魔法使いののレベルが平均して高く、基礎の魔法はひと通り習熟している。

 魔法使いギルドにも、わずかながら魔法学院出身者でないものもいるが、そのような者が魔法使いギルドに入会するには相当な実力があると認めてもらう必要があり、実力のない野良の魔法使いは魔法使いギルドに入会できないのである。

 なので、実力が保証された魔法使いギルドの魔法使いは、冒険者ギルドでもパーティーメンバーとして需要が高いが、魔法使いギルドに所属していれば国から高収入の仕事をもらえるため、魔法使いギルド所属の魔法使いが冒険者ギルドにも所属する例は少ない。

 アルフォンスは王立魔法学院を中途退学しているが、在学中に魔法使いギルドに入会しており、世間的には野良でない正規の魔法使いと認められている。

 その肩書があったので、アルフォンスは冒険者ギルドにおける現在のランクであるEランク以上の実力があると見てもらえ、上位ランクのパーティーとの合同受注を奨めてもらえたのである。

 また、アルフォンスとマリーラが行ったポイズンフロッグ狩りの仕事の内容も評価されていた。

 ポイズンフロッグはDランクの魔物とはいえ、短期間に大量の魔物を狩猟したことから、アルフォンスたちの実力がまがい物でないことは十分認めてもらえるのであった。

 一方、アルフォンスたちにしても、合同受注はメリットが大きかった。

 高ランクの魔物の討伐ともなると、魔法使い二人では無理であることは十分承知していた。

 魔法使いは後衛職であり、Dランク程度の魔物はともかく、高ランクの魔物、少なくともCランク以上の魔物との近接戦闘にはどうしても前衛職が必要であり、他の冒険者とパーティーを組む必要があったのだ。

 しかし、冒険者ギルドでは新入りのアルフォンスたちに合同パーティーを組める他パーティーのあてはない。

 そこで、ギルドの窓口職員の勧めに従い、他パーティとの合同受注を斡旋してもらうことにしたのだった。


 ◇◆◇


 アルフォンスとマリーラが組むことになったのは「ブエナの風」と名乗るBランクのパーティーだった。

 ブエナの風のメンバーは、Bランクの剣士でパーティーリーダーのボルグ、Cランクの剣士のリチャード、Dランクの拳闘士のバルツァ、Dランクの弓術師のラルク、Bランクのシーフのソニンの合計5人であった。

 ボルグらは以前から一緒にパーティーを組んでおり、最近まで回復系と攻撃系の魔法使い男女2名がいたのだが、その2人が結婚して故郷の街に帰ったので、代わりの魔法使いのを探していたのだそうだ。

 ギルドの窓口職員から紹介された際、アルフォンスとマリーラのEランクということで、最初はボルグらからいい顔をされなったが、アルフォンスが魔法使いギルド所属の魔法使いであることを明かすと、正統派の魔法使いと認めてあっさりと参加を承諾してくれた。

 魔法使いギルド出身の魔法使いなら、最低限、初歩の回復魔法や攻撃魔法を会得しているはずであり、パーティーに一人参加するだけでそのパーティーの安定感がぐっと上がる。

 そのため、どのパーティーも魔法使いを欲しがるのだ。 

 ただ、魔法使いギルドの魔法使いが冒険者ギルドの入会することはまれであり、たいていは何か問題を起こして魔法使いギルドで仕事ができなくなりやむをえず冒険者ギルドに加入することが多い。

 つまり、厄介ごとをかかえているか、そいつ自身が厄介者である可能性が高いのだ。

 そのため、冒険者たちが魔法使いとパーティーを組む際は、慎重にならざるを得ない。

 しかし、ボルグたちは、アルフォンスとマリーラの様子を見ただけで、あれこれ詮索せずにあっさりと参加を認めてくれた。

 いかにも貴族の子弟らしい格好をしているアルフォンスと若くて美人の修道女の二人組が金に困っていると聞いて、ボルグたちは二人が駆け落ちでもしたのだろうと思い込み、生暖かい目で見て事情を深く追求してこなかったのだ。


 ギルドの窓口で合同受注の正式契約を交わす際、アルフォンスとマリーラも二人のパーティー名と登録する必要があったので、アルフォンス達は自分たちのパーティー名を急いで考えた。

 アルフォンスは、パーティー名など何でもよかったので、マリーラに


「河原のカエル団は」


「嫌です」


「…さすらいの聖女とか」


「さすらってません。さらわれた様なものですけど」


「ゴホン…じゃあ…?ん―マジカルツインズなんて…」


「はあ、名前は大事ですよ?もっとまじめに考えましょうよ」


「じゃあ、マリーラはなにがいいんだよ」


「そうですねえ……ハーフムーン、はどうですか?」

「白黒半分ずつってこと?」


「そうですね、それと、私が召喚された夜の月がたしか半月でした。」


「ふーん、まあ、なんでもいいや、それでいこう」


「もう、いいかげんですね」


 こうして、アルフォンスとマリーラのパーティー名は半月を意味するハーフムーンに決まった。

 アルフォンスはギルドの窓口で自分たちのパーティー名を登録した。

 そして、ギルドの仲介で正式にアルフォンス達のパーティー・ハーフムーンとボルグたちのパーティー・ブエナの風の合同受注契約が交わされた。

 全体のリーダーは、パーティーの人数も多く、経験も豊富で、冒険者ランクも一番高いボルグが引き受けた。

 もちろん、新米で格下のアルフォンスたちに異論はなかった。

 報酬は通常頭割りのところを、アルフォンスたちが貴重な魔法使いの二人組であるということで、ブエナの風が三分の二、ハーフムーンが三分の一に分配してもらえることになった。

 まあ、どのパーティーも魔法使いを何らかの形で優遇しているので、ボルグたちも気を使ってくれたのだろう。


 アルフォンスたちが引き受けた仕事は、デニハ鉱山に大量発生した魔物の調査及び討伐で、Cランクの依頼であった。

 デニハ鉱山は、かつては銅や鉄の鉱石が取れてにぎわっていたが、今では採掘量が減って重要視されておらず、魔物が発生しているにもかかわらず半ば放置されていた。

 そのため、調査報酬も安めであり、都から遠いこともあって不人気の討伐依頼であった。

 ただ、討伐依頼の方は、坑道に発生したCランク中心の魔物の討伐であり、1匹につき銀貨1枚と単価は安いものの、長らく放置されていたため大量発生している可能性があり、そうなれば坑道という限られた空間で魔物を探し回る手間がかからず、馬力のあるパーティーなら効率的な狩りができ、確実な稼ぎが見込めた。

 また、万が一Bランクの魔物に出くわして討伐すればボーナスが出るとギルドから約束されていたし、坑道内の魔物を一掃することに成功すればさらに高額のボーナス報酬が出ることになっていた。

 デニハ鉱山は長らく放置されていたため半ばダンジョン化されており、単独のパーティーでの魔物一掃は現実的ではなかったが、少なくとも相当な数のCランクの魔物を討伐できるはずであり、Bランクパーティーが受注するには比較的安全な討伐依頼と言えた。

 ブエナの風とハーフムーンで携行品の確認、食糧や薬品類等物資の準備と移動手段の確保、経費分担の確認などを決め、食糧等の買い出しは一緒にやり、場所をやっとって荷物を積み込み、旅の準備をした。

 そして翌日、アルフォンスたちは二台の馬車で鉱山へ向け都を出発した。



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