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聖女召喚  作者: ほむら
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冒険者ギルド

 翌日のこと。

 アルフォンスはマリーラを連れて冒険者ギルドへ向かった。

 すでにブリタード家の資産は底をつきかけており、領地を取り上げられて税収もなく、働いて金を稼がなければアルフォンスとマリーラの食費にも事欠きかねない。

 しかし、アルフォンスは貴族のボンボンなので子供の頃から金に困る生活をしたことはなく、貴族としてプライド高く育てられた。

 冒険者ギルドのことは知っていたが、野蛮な平民の集まりとしか思っていなかった。 

 少なくとも、ブリタード家のような貴族の間では、それが常識であった。

 貴族の魔法使いが所属するのは、魔法使いギルドであり、野蛮な冒険者ギルドに所属するような貴族はいなかった。

 貴族の収入は領地からの税収入や国からの俸給が基本であり、平民や冒険者のように額に汗水たらして日銭を稼ぐなどという考えはなかった。

 魔法使いギルド所属の魔法使いは、魔石や魔法具の入手、新しい魔法についての魔法研究の成果の知識を得るためなど、自らの魔法研鑽のために所属するものや、軍、行政、王立魔法院など国の仕事の依頼を受けるため、下級貴族なら金持ちの商人から魔法使いとしての腕を買われて高級で雇われてやるために魔法使いギルドに所属している。

 全ての魔法使いが貴族出身というわけではないのだが、平民の魔法使いも魔法学院に通ったり魔法使いギルドに所属しているうちに貴族並みのプライドを持ってしまい、選民意識に染まってしまいがちであった。

 しかし、収入が途絶え、資産も底をつきかけたアルフォンスは、そうも言ってられない。

 すでに名ばかりの貴族であり、貴族としての付き合いも絶っている。

 落ちぶれた今、魔法使いギルドに頭を下げて仕事をもらいに行けば、蔑まれ、笑いものにされるであろう。

 プライドだけは今も高級貴族だったころのままのアルフォンスにとって、かつての貴族仲間からの嘲笑は耐え難い。

 それくらいなら、いっそ顔を知られていない冒険者ギルドで魔法使いとしての力を見せ付け、平民の称賛を浴びた方がましだ! というのがアルフォンスの正直な気持ちであった。

 十代のプライドは傷つきやすいのである。


 という訳で、一世一代の召喚魔法で聖女を召喚した後、最初にやるのは冒険者ギルドの登録と日銭仕事探しであった。

 冒険者は粗野で柄が悪く付き合いたくない人種だが、当面は金を稼ぐ必要があるので我慢するほかない。

 自分なら、冒険者ギルドのルーキーとして加入しても、直ぐに上級者に昇格して十分な収入を得られるはずだ。

 それに、異世界から召喚した聖女の能力を試すためにも、冒険者ギルドのクエストはちょうどいいだろう。

 ということで、アルフォンスはマリーラを連れて冒険者ギルドの門をくぐった。

 汗と血の匂いのする冒険者ギルドの受付で初心者として登録し、アルフォンスとマリーラは晴れてGランクの冒険者となった。


「はあ、なんで聖女候補の私が最低ランクのG級冒険者なんでしょう。アルだって王立魔法学院で主席を取ったエリート魔法使いですのに」


「仕方ないだろ、冒険者としては初心者なんだから。ここでは身分や職業なんて関係ないんだし。実力主義は冒険者ギルドのいいところなんだ。命を張って仕事をするんだから、身分や肩書なんて関係ないしね。経歴不詳でも登録を受け付けているから、冒険者の中には後ろ暗い奴も混ざっているけど、おかげで、身分証明書も持っていないマリーラも冒険者として登録できて、仕事にありつけるんだしね」


「はあ、こんなことでは教会に顔向けできません。修道女がガラの悪い冒険者をやるだなんて、教会に知られたら大変です。先輩のシスターにばれたらどんなにひどい嫌みを言われることやら。ああ情けない。」


「まあ、俺とお前ならすぐに上級冒険者になって高収入を得られるはずだ。そうなったら、金を貯めて装備を揃え、お前を聖女として売り出す準備ができる。今は先立つものがないから我慢してくれ。」


「はあ、女の子を異世界から呼び出しといて、金がないから一緒に働けとか……はあ~~」


 マリーラはさんざん文句を言っていた。

 まあ、冒険者は魔物の討伐や盗賊など犯罪者の捕縛など荒事の専門家であり、聖職者とは正反対の立場とも言えるから、仕方がないかもしれない。

 それでも、文句を言いながらもマリーラはアルフォンスについてきてくれていた。 

 よく分からない女だとアルフォンスは思った。

 召喚したときは、アルフォンスを変態扱いしてぎゃあぎゃあと騒ぎ立てたのに、その割にはアルフォンスが謝るとあっさり協力してくれた。

 そして、街で子供がいじめられているのを見つけると、我慢できずに飛び出していじめていた柄の悪い男に突っかかり、冒険者なれと言うと柄が悪いと言って文句を言いながら、結局は一緒に冒険者になってくれる。

 アルフォンスにとっては都合がいいので文句を言うことではないのだが、チョロすぎるのではないか?

 マリーラは頭が悪いわけではないと思うし、もちろん、自分が」イケメンでない自覚だけは人一倍あるので、マリーラが自分になびいて媚びている訳でないことはよく分かっている。

 修道女をやってるくらいだから、根はいいやつなのだろうか?

 しかし、宗教関係者なんて見かけほど人がいいわけではないことは、貴族として宗教関係者とも付き合いのあったアルフォンスにはよく分かっていた。

 結局、アルフォンスにはマリーラのことがよく分からない。

 そもそも、マリーラに限らず、若い女のことはよく分からなかった。

 魔法学院でも勉学一筋だったアルフォンスは、同世代の女の子とデートしたこともなく、女心について学ぶ機会はなかった。

 女性経験の乏しいアルフォンスに突然現れた若い美人のに対処するスキルはなかった。

 おかげで、マリーラに振り回されてばかりであった。


 文句たらたらのマリーラを連れて、アルフォンスは冒険者ギルドの掲示板に張られた仕事の依頼表を見た。

 アルフォンスは、ある程度高収入の仕事を探した。

 低ランクの雑用の依頼や薬草の採取などはたくさんあったが、収入の良い高ランクの仕事は少なかった。

 旅をする商人の護衛などの個人依頼は高収入だが、冒険者ギルドが指定したランクの冒険者でなければ受けられないので、Gランクのアルフォンスとマリーラには受けられなかった。

 個人依頼の仕事は失敗すると冒険者ギルドの信用にかかわるので、何度もギルドの仕事をこなして実績のある高ランク冒険者にしか仕事が回されない。

 必然、冒険者ランクに関係なく受けられる魔物討伐や素材採取の仕事を探すことになった。

 これらの仕事もランク分けされているが、出来高払いなので自己責任で上のランクの仕事を引き受けてもよい。

 これらの仕事のランクは、冒険者の安全を慮っての推奨ランクであり、腕に自信があれば下位のランクの冒険者が高ランクの魔物討伐の仕事を受けてもよいのだ。

 まあ、高ランクの魔物に低ランクの冒険者が挑めば死ぬ危険があるのだから、普通は自分の実力に見合った仕事を選ぶのだが。

 もちろん、アルフォンスは自分とマリーラの実力を上位ランク相当、多分Aランク以上と勝手に思っていたので、稼ぎの少ない低ランクの仕事は無視し、高ランクの討伐系の仕事を探した。

 しかし、高ランク魔物討伐の仕事は、都から離れた僻地が多く、往復に日数がかかるものばかりだった。

 王都の周辺の高ランクの魔物はすでに討伐されつくしているので、遠くまで行かなければ高ランクの魔物は見つからない。

 また、数の少ない高ランクの魔物を見つけるまでに数の多い低ランクの魔物と連戦することになることが予想されるが、2人とも魔法使いであるアルフォンスとマリーラだけではパーティーとしてバランスが悪く、2人で受けるのは無理があった。

 仕方なく、アルフォンスは日帰りできる仕事が多い中程度の討伐依頼の仕事を選んだ。

 王都から南へ歩いて3時間くらいのところにある川沿いの湿地帯でDランクの魔物であるポイズンフロッグを討伐し、素材として持ち帰る仕事である。

 10匹討伐すればアルフォンスとマリーラ二人の1週間分くらいの生活費になる。

 ポイズンフロッグは、攻撃力は高くないが、毒を持っているので嫌われている。

 足場が悪く、草が生い茂って視界の悪い湿地帯で狩りをしなければならず、うっかり近寄って毒を浴びると厄介なことになる。

 そのせいで、魔物単体としては弱いのにDランクの仕事に指定されていた。

 実際、油断して毒を浴び、逃げ遅れて死んでしまった冒険者もいるそうだ。

 しかし、アルフォンスとマリーラは魔法使いなので、離れたところから魔法で攻撃すれば問題ないだろうとアルフォンスは考えた。


「マリーラ、このポイズンフロッグの討伐依頼の仕事を受けようと思うが、大丈夫だな?」


「ポイズンフロッグ? 聞いたことないけど、どんな魔物ですか?」


「1匹ずつならスライムより少し強い程度だが、毒の霧を吐くから近寄ると危ないし、湿地帯で狩りをすることになるから、かこまれないように注意しなければならないんだ。水系の魔物だから、火系の魔法はあまり効果がないが、他の魔法は効くはずだし、特に雷系の魔法はよく効くはずだ」


「そう、その程度の魔物なら何も問題ないですね」


 マリーラは、いかにも自信ありげに答えた。

 アルフォンスは、教会で修業していたマリーラの戦闘能力には若干不安があったが、魔法は十分使えそうだったし、この程度なら自分だけでも十分だと思ったので引き受けることにした。

 ギルドの受付で受注を申し込み、その日は狩りの準備の買い物に費やした。

 湿地帯での狩になるため、長靴、虫よけ、毒のある魔物に触るための手袋、狩ったポイズンフロッグを入れる袋、マリーラ用のナイフ、小型の荷車、水筒、簡易食料、そして、毒消しや傷薬などの救急薬を相当量などを購入した。

 魔法使いの標準的な武器である杖は屋敷にあるのを使うつもりだったし、アルフォンスはほかに屋敷にあるショートソードも持ってい行く予定だ。

 前衛を任せられる戦闘職がいないので、万が一に備えてアルフォンスとマリーラも接近戦用に刃物を携帯しておかなければならない。

 また、ポーターを雇うと赤字になる恐れがあるため、ギルドが貸し出してくれる小型荷車を借りて(有料)、アルフォンスが引っぱって行くことにした。

 いくら自分の方が召喚者とはいえ、同年代の女の子であるマリーラに荷車を曳かせるのは、年頃の男の子のプライドが許さなかった。


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