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聖女召喚  作者: ほむら
5/8

アクア

 森でマリーラの魔法を試した後、アルフォンスはマリーラを連れて帰宅し、二人で簡単な夕食をこしらえて食べた後、それぞれ自分の部屋で休むことにした。

 もちろん、アルフォンスとマリーラの寝室は別々であり、貴族であるブリタード家の館には客間もたくさんあることから、マリーラにはその1室を使ってもらっていた。

 アルフォンスが自分の部屋に入ったとたん、アルフォンスの頭の上をコウモリ型の魔物がバタバタと飛び回った。


「キーキー! アル様! 何ですかあの女は! お父上や兄上がおられないからって、あんな得体のしれない女をお屋敷に連れ込むなんて! キー!」


 その魔物は、アルフォンスが7歳の時に召喚した低級魔物の使い魔であるアクアであった。

 アルフォンスは顔をしかめて、頭の上を飛び回るアクアをにらみつけた。


「勝手に出てくるなっていつも言ってるだろ。今日はもう寝るから静かにしてくれ。あの女の相手をしたせいで疲れてるんだ」


「ほらごらんなさい、あんな女にかかわるから疲れるんですよ。キー! アル様はただでえ若い女に免疫がないんですから、いきなり家に連れ込むなんて無茶しちゃだめです! キー!」


「別に好きで連れ込んだわけじゃない。魔物を召喚しようとしたら、何がどう間違ったのかあの女が召喚されてしまったんだ」


「キー! 怪しいです! そんな女はさっさと送り返しちゃいましょう!」


「そういうわけにはいかないよ。そもそも、本には召喚魔法陣しか書いていなかったから、元の世界に送り返す送還魔法陣の書き方が分からない。そもそも送還する魔法があるのかどうかも知らないしな」


「じゃあどうするんですか! あの女をずっとこのお屋敷に置いておくつもりですか! キー! 女は私一人いれば十分です! あんな女にアル様の初めては渡しません!」


「うるさい。余計なことは言わなくていい。だいたい、お前は女じゃなくて、メスだ、メス」


「キーーーーー! 人をメス呼ばわり! アル様鬼畜! 変態! 私をメス扱いするなんて! この色ボケ!」


「あ~もう、やめてくれよ、今は眠いんだから。お前は俺の使い魔なんだから、何と呼ぼうが主人である俺の勝手だろ。大体お前は空飛ぶネズミなんだからメスであってるだろうに」


「キー! ネズミじゃありません! 種族名はソーバットです! 由緒正しい吸血コウモリの一族です! アル様のバカ! オタンコナス! キー!」


「はいはい、わかったわかった、ネズミって言っちゃいけないんだったな。立派な立派なコウモリさんだもんな」


「コウモリ族の中でも、最も洗練されておしゃれな種族がソーバットです! そして、ソーバットの中でも一番賢くてかわいいのがこのアクアでございますよ」


「ほんとに、7歳の時に召喚した下級魔物のお前が何でこんなに小賢しくなってしまったのやら。召還したときはろくにしゃべれない普通の下級魔物だったのにな」


「そこらの下級魔物と一緒にしないでください! 元から頭の出来が違ったんです。それにもちろん、アル様に愛情を注がれて育ったおかげで、こんなに賢くかわいい理想的な使い魔になったんです。他の使い魔じゃあ、こうしたお休み前の疲れをいやすウィットの効いた会話などできませんよ?」


「やっぱり兄さんが実験だとか言って変な薬を飲ましたのがいけなかったのかなあ」


「キキ? 何のことですか! そんのこと聞いてないざますよ!」


「ほら、お前がしゃべれるようになる前に、イリアス兄さんが賢くなる薬だとか言ってお前の口に無理やりねじ込んでたろ?」


「キーーーーー―! 覚えてません! でも、あの鬼畜な変態学者のイリアス様なら何を飲ませたか分かったもんじゃありません! キー――! あの変態め!」


「お前、飲まされた後しばらくぐったりしてたからなあ。でも、それから少しずつ言葉をしゃべるようになったんだよなあ。ちゃんと効いてたのかもなあ」


「キー! 確かにイリアス様は変態で冷血漢ですけど、天才呼ばわりされて頭はよろしかったようですからね」


「ああ、兄さんの話じゃ、その薬で一時的に頭が良くなるけど、多分、しばらくしたらまた頭の悪いばかネズミに戻るから、その時は花束でも渡してやれって、よく分からないこと言ってたよなあ」


「キーーーーーー! やっぱりろくでなしです! キー―――!」


「まあ、結局そのまま話せるようになったんだからいいじゃないか」


「それはイリアス様のせいではなくて、愛情込めて育てて下さったあの頃のアルフォンス様のおかげです。ああ、子供の頃のおかわいらしくて優しかったアル様は今どこに!」


「ここにいるよ」


「キーキー! 近頃はアクアのこと用事のある時しか読んでくれませんし! 他の女を召喚して嫌らしいことしようとしてますし! これだから男は! どうせ古女房には飽きたんざましょ! キー!」


「誰が古女房だ。さあ、もう眠いからねるぞ。おやすみ」


「待って下さい! お休み前にいつもの一杯を!」


「俺は飲み屋じゃありません」


「そう言わずにお願いしますう。アル様がお休みの間、私がちゃんとあの女を見張っときますから」


「余計なことはしなくていい。あの女とは一応隷属契約を結んであるから、逃げ出したり俺に危害を加えたりはできないはずだから、ほうっておいても大丈夫だ」


「でも、アル様、あの女にやり込められてじゃないですか! 聞いてて、どっちがご主人様か分かりませんでしたよ。キー! あんな生意気な女は、今のうちにぎゃふんと言わせて、ブリタード家の家風を仕込まないといけません! 先輩使い魔たる私が先輩風を吹かせて仕込んでおきます。風魔法得意ですし! なんちゃって! キー!」


「ふああ、あの女は使い魔というわけじゃない。そもそも魔物じゃなくて修道女だからな。立場としては雇人みたいなもんだと思っておけばいいだろ」


「アル様、甘すぎです! これだからサクランボ君は舐められるんです! ちょっと顔のいい女だとすぐにデレデレして! キー!」


「デレデレなんてしてないだろ。若い女は苦手なんだよ」


「ふん、それみなさい、やっぱりサクランボ君じゃないですか!」


「あーもう、眠たいからさっさと吸血して部屋から出ていけ」


「キキ! 」


 アルフォンスはそういうと、パジャマに着替えるついでに、はだけた肩にアクアを止まらせ、首筋を軽く噛ませて吸血させてやった。

 これが、吸血コウモリの一種であるアクアの食事、魔力供給である。

 普通の使い魔は、主人が命じれば姿を消して陰に引っ込んでいることができる。

 そうした方が、使い魔も魔力消費を抑えられる。

 しかし、アルフォンスが子供の頃から育てたアクアは、なぜか変な育ち方をしてしまい、アルフォンスが命令しても簡単には引っ込まず、引っ込んでも勝手に出てきてしまう。

 子供の頃のアルフォンスがアクアを可愛がり過ぎ、甘やかしたせいだと兄のイリアスから言われていた。

 たぶんそうなんだろうと思う。

 アクアはとにかく普通の使い魔とは違う。

 頭もいいし、下級魔物にしては能力が高い。

 そして、まるで口うるさい妹か幼なじみの女の子のように、アルフォンスのすることにあれこれと口出しし、気に入らないとすねたり怒ったりするのだ。

 そのようなことは、普通の使い魔には考えられないことである。

 普通の使い魔は、頭が悪くて簡単な会話しかできないし、命令しなければ言うことを聞かず、アクアクアのように自発的に動くということはない。

 なので、アルフォンスにとってアクアは幼なじみの親友みたいなものであるとともに、自慢の使い魔でもあるのだ。

 ただ、口うるさいのには閉口していたが。


 ◇◆◆◇


 翌朝。

 アルフォンスが台所で朝食の用意をしていると、マリーラが起きてきた。


「おはようございます」


「おはよう。よく眠れたかい」


「はい、おかげさまで。私もお手伝いしますわ」


「じゃあ、配膳を手伝ってくれ」


 アルフォンスが用意した朝食を、マリーラがテーブルに並べていく。

 朝食は、火であぶって温めたパンとチーズ、野菜スープという質素な内容だ。


「まあ、素敵なお食事ね」


「質素ですまんね」


「あら、そんなことはないわ。修道院の朝食はもっと質素ですよ。量ももっと少ないですし」


「キーキー! だったらもっと減らしてやればいいんです、アル様!」


「あ、こらアクア、勝手に出てきちゃだめじゃないか」


「まあ、なにこれ? 空飛ぶネズミ?」


「キーキー! ネズミじゃないです! 由緒ある吸血コウモリ属のソーバットです! キー! アル様、この女、やっぱり追い出しちゃいましょう!」


「喧嘩するんじゃありません」


「で、この子はアルフォンスの何なの?」


「コホン、アル様の幼馴染にして、いいなづけの──」


「俺の使い魔でアクアってゆうんだ。仲良くしてやってくれ」


「キー! こんな女となんか仲良くなんかできません! キー!」


「ふ~ん、ねえ、あなた使い魔なのよねえ ?よくそんなに言葉が話せるわね」


「キー! アクアはアル様の大事な大事な超かわいい使い魔として愛情込めて育てられたおかげでこんなに賢くなれたんです! ぽっと出のあなたとは違うんですのよ、おーほほほほほ、キー!」


「ねえ、アルフォンス、この子本当に使い魔なの? 使い魔なら低級魔物ってことでしょ? 低級魔物でこんなにしゃべれる知能があるなんて聞いてことないわ」


「いろいろあってね。召還したときには普通の低級魔物だったんだけど、うちの兄がいろいろ妙な薬の実験したせいで、随分おしゃべりに育ってしまったんだ」


「キー! 違います! イリアス様の薬のせいじゃありません! アル様が毎日『アクアは可愛いね。アクアはいい子だね』って話しかけて下さったから、話せるようになったんです。キー」


「俺そんなこと言ってたかなあ。アクアがかわいいとか……」


「言ってました! 言ってましたとも! 7歳の頃のアクア様は今よりも素直でおかわいらしくて、とっても使い魔思いだったんです! それがなんでこんなことに! 思春期の育て方を誤りました! キー!」


「はいはい、いつものアクアの妄想ですか。ご飯にするから、テーブルの上を飛び回るのは禁止!おとなしくしてな」


「キー! しかたがないですねえ」


 そういうとアクアはアルフォンスの肩に止った。

 アクアは、マリーラのことを警戒しているようだが、多分、焼きもちを焼いているだけだろう。

 マリーラの方は、「本当に利発でかわいらしい使い魔さんですね」などと言って、アクアのことを悪くは思っていない様子だ。

 アクアは見慣れると可愛いのだが、何分、元がコウモリ型の魔物で顔はネズミに似ており、声もキーキーとうるさいから、初対面の人からは気味悪がられることが多いのだが。。

 でも、使い魔として、コウモリ型の低級魔物はわずかな血を吸わせてやるだけで世話いらずだし、小さいので邪魔にもならず、夜間の家周りの見張りも得意なので、それなり需要はある。

 まして、アクアのように普通に話ができる魔物と物なれば非常に珍しく、アルフォンスの自慢の使い魔であった。


「キー! アル様! また野菜が少ないですよ! ちゃんと野菜も取らなきゃだめじゃないですか! マリーラさんも何とか言ってやってください。ん? マリーラさんは野菜が好きなのですか? アル様、負けてますよ! 明日はちゃんと野菜も取るんですよ! キー!」


 ………やっぱり、なんか育て方を間違えたような気もするアルフォンスであった。


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