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聖女召喚  作者: ほむら
4/8

お買い物

 その日の午後、アルフォンスは、マリーラを連れて商店街へ買い物に出かけ、婦人服店などでマリーラに替えの下着や部屋着、ハンカチなど必要なものを買ってやった。

 マリーラは、買い物することに結構はしゃいでおり、楽しんでいる様子だった。


「私、修道院で聖女候補として必要な修行ばかりしていたから、街で買い物とかほとんどしたことがなかったんです! ほかのシスターから街での買い物の話を聞いたり、買ってきた私物を見せてもらったりして、いつもうらやましいと思ってました! 今日はこんなふうに自分で好きなものを選んで買ってもらえて、夢のようだですわ!」


「こっちがいきなり召喚したせいで身の回りのものが何もない状態なんだから、必要なものは何でも言ってくれ。でも、金はあんまりないから、高いのは買えないからね」


「大丈夫ですよ、修道院で質素倹約は叩き込まれてますからね。このハンカチの小さな可愛いお花の刺繍とか、そういうちょっとしたおしゃれだけで十分です。これでも年配のシスターに見つかったら怒られちゃいますけどね」


 昼食は町中のレストランでランチをごちそうし、デザートもおごってご機嫌を取った。

 食事をしながら、お互いに疑問に思ていたことを尋ねあう。


「君のいた世界は、こことは大分違うのかい?魔物や魔族や獣人はいなかったの?」


「はい、私のいた世界もここと同じで人間が支配しており、森やダンジョンに魔物がいるだけでした。言葉も通じてますし、人々の暮らしぶりもとてもよく似ています。魔族や獣人については、おとぎ話で聞くだけで、実際にはいませんでしたよ。」


「違う世界なのに言葉が通じるっていうのも不思議だね。じゃあ、1年は何日?」


「350日です」


「1日は?」


「24時間」


「1時間は何分?」


「60分、1分は60秒ですね?」


「うん。じゃあ一週間て言い方はした?」


「月火水木金土日ですね。こちらにもお正月やクリスマスはありますか?」


「うん、それもいっしょだね。ほんとによく似てるみたいだね。じゃあ、クリスマスは何をお祝いする日?」


「はい、オレク聖教の降誕祭です。聖母アーヤのお生まれになった日ですね」


「んー、微妙に発音が違うけど似てるな。こちらでは、ヲレク教と言うんだ。聖母はアヤーク。教祖は聖人ショーイだね」


「教祖ですか?教祖というのは私たちのオレク聖教にはありませんけど。でも、他はほんとによく似てますね。どうしてこんなにいろいろ似ているんでしょうか。偶然にしては似すぎていると思うんですけど」


「さあ、どうだろう。経典では、最初の人類がこの世界に招かれた際、時間や長さや距離などいろいろな単位についての知識をこの世界にもたらしたとされているけれど」


「まあ、それも同じですわ。もしかすると、私のいた世界もこの世界も同じ人類が招かれた世界なのかもしれませんね」


「確かにそう考えると言語や宗教、文化が似ている説明にはなるね。でも、そもそも経典の言う最初の人類がこの世界に招かれたっていう話自体、ただの神話だからね。教会は真実としているけれど、学者は必ずしも真実そのままではないと考えている人が多いよ」


「そうですか。いえ、私のいた世界でも、教会の外の人は経典に書いてあることを真実と思ってない人はいましたね」


「俺の兄さんなら歴史の研究をしていたから、もっと詳しい話を聞けたかもしれないんだけどね。もっとも、専門は宗教史ではなく、魔法史学だったけど」


「魔法も似てるんでしょうか」


「それは後でいろいろ試してみよう。町中でやたらと魔法を使うわけにもいかないから、買い物が全部終わったら街の外に出てマリーラの魔法を見せてくれ」


「はい、いいですよ」



 そのように話をしながらアルフォンスとマリーラは街の通りを歩いていた。

 すると、ガラの悪そうな男の怒鳴り声が聞こえてきた。


「おらあ! どう責任を取るってんだよ!」


「うあっ、痛い!」


 アルフォンスたちが人だかりの間から騒ぎの元を覗いたところ、ガラの悪い男が10歳くらいの薄汚れた服装の男の子に暴力をふるっていた。

 男の子はお腹を押さえて地面に倒れており、男は上から男の子の体を踏みつけるようにして蹴っていた。


「人にぶつかっておいて、きちんとお詫びもできねえのかよ! あん! どうしてくれるんだよ、服が汚れちまったじゃねえかよ!」


「ぐっ、ぶつかってきたのはそっちじゃないか!」


「何だとこのガキ。てめえがよそ見してたから俺様にぶつかったんだろうがよ。ふざけんじゃねえぞこら!」


 そういうと男はまた少年を蹴り始めた。

 周りの人たちは心配そうに見ているものの、見るからに柄の悪いその男に絡まれるのを恐れてか、誰も止めようとはしなかった。

 街ではときどき見かける光景であり、アルフォンスも関わろうとは思わず、先を急ごうとした。

 しょせん、街の底辺の住民同士の争い事であり、貴族であるアルフォンスがかかわったところで何のメリットもない。

 しかし、マリーラは少年の方をじっと見つめて、眉間にしわを寄せていた。

 アルフォンスは、少年を助けに飛び出しそうなマリーラの様子を見て、マリーラの肩に手をかけて止めた。


「やめろ、あんなのにかかわっても仕方ない」

「でも、あのままでは少年が大けがを負ってしまいます」

「最初から見てないからどっちが悪いんだかもよく分からないんだし、そもそも俺たちには関係ないことだろ」


「アルフォンスはあの少年がかわいそうだとは思わないのですか!まだ子供じゃあないですか!」


 そういうと、マリーラはアルフォンスの手を振り切って人の輪の内側に入って行った。


「やめて下さい! 暴力はいけません!」


「何だ? ん? 教会の修道女さんか? 関係ないから引っ込んでな」


「相手はまだ子供じゃあないですか。それ以上はやめて下さい」


「ならあんたが汚れた服の弁償をしてくれんのかよ、ええ?」


 男はマリーラにまですごんで金をたかろうをしてきた。


「服なんてどこも汚れてないじゃないですか」


「なんだと? この薄汚いガキにぶつかられたんだから、汚れたに決まってんだろ! 弁償するのが筋ってもんだろが、ええ?」


「服が汚れたっていうのなら、私が魔法できれいにしてあげます! えい!」


 マリーラがいきなり男に聖魔法の浄化魔法、通称クリーニング魔法をかけた。

 男は、無詠唱でいきなり魔法をかけられて驚き


「な、なにしやがんでぇ、え?あれ?」


 マリーラの魔法で、男の着ていた服はすっかりきれいになっていた。

 浄化魔法は、傷んだところの修復まではしないものの、汚れを完全にきれいにしてしまうので、衣類を洗濯するよりもきれいな状態にするのだ。


「さあ、これでよろしいでしょ。相手は子供なんですから、それくらいで許してあげてください」


 そう言うと、マリーラは男の子をかばうように立ちはだかり、男を睨み付けた。


「ちぇ、おう坊主! 次からは気を付けな!」


 男は、魔法使いで教会関係者のマリーラともめ事を起こすのはまずいと思ったのか、捨て台詞を残して立ち去った。

 少年も


「お姉さんありがとう!」


とマリーラにお礼を言うと、そのままどこかに走り去っていった。


「まったく、その程度のことにいちいち関わっていたら、おちおち道も歩けないぞ。この辺じゃあ、あの程度のことは日常茶飯事なんだから」


「分かっています。私一人の力で救えるものなど、たかが知れてます。でも、だからと言って目の前でひどい目にあっている子供を見過ごすのは違うと思うのです」


「……まあ、大事にならなかったんだからいいけどな。でも、俺も君も魔法使いであって、直接の暴力沙汰には向かないんだから無茶はしないでくれよ。今のマリーラの聖魔法は街中でも許される生活魔法だから大丈夫だけど、まさか、町中で攻撃魔法を使うわけにもいかないんだし」


「もちろんです。でも、相手だってゃんと話せばわかってくださいますよ。今の方もちゃんとわかってくださったじゃないですか」


「……はあ、まあいいや」



 ◇◆◇



 その後、二人で街から出て近くの森へ行った。

 王都周辺の森には凶悪な魔物はおらず、スライムや角うさぎ程度の低レベルの魔物が出るだけだ。

 その程度なら、後衛職の魔法使いだけでも、大して脅威を感じることなく討伐できる。

 アルフォンスは、そこでマリーラの攻撃魔法を見せてもらった。

 マリーラは、得意なのは聖魔法と光魔法ということで、低レベルの魔物討伐にちょうどよい初級光魔法のスパークで低級魔物を数匹退治してもらった。

 マリーラは無詠唱でスムーズに魔法を発動しており、初級魔法程度では魔力残量も全く問題ない様子だった。

 本当は、もっと高レベルの攻撃魔法を見せてほしかったが、王都近くでむやみに高位の攻撃魔法をぶっ放せばすぐに衛兵が飛んできて尋問を受けることになるので無理だった。

 まずは、マリーラが通常の戦闘で使えるレベルの魔法使いであることを確認し、この日は帰宅した。


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