そして……
レンブラントはここ数週間というもの、少々イラついていた。
数週間。
まずは、戦いのあった山間の町で、傷ついた騎士たちのために二週間ほど時間をとって休養が必要だった。
リョウがほとんどを片付けたとはいえ、その中でも十数体の「敵」は勢いで町の中に入り込んだので待機していた騎士たちがしっかり戦わなければならなかったのだ。
そのあとで、西の都市に帰ってきて軍関係者に報告するための会議が行われた。この度の会議は異例な長さとなり、今後の騎士隊だけでなく、都市の警備に携わる兵士たちも含むすべての組織に調整が加えられることとなったため、毎日朝から夕方まで話し合いが続きそれだけで一週間経ったのだ。
その間、レンブラントは。
もちろん仕事はきちんとこなしてはいたものの、頭の片隅にはずっと同じことがモヤモヤと引っ掛かったままだった。
会議が続いていた間は会議に集中すべく、頭の片隅に押しやっていたこのモヤモヤが、会議が終わったとたんにはっきりとした思考として形になってくるのを感じる。
……まったく!
一体どういうつもりだったんだ、あの子は!
一人で勝手に敵陣に突っ込んで、さんざん心配させて。あげくの果てに、しれっと「ああ、お二人ともご無事でしたね。良かった」だって? 人がどれだけ心配したか全く分かっていない!
しかも。町で戦闘態勢に入っている騎士隊に合流しようとしたら「私はいない方がいいと思いますので」なんて笑顔で言い放って立ち去ろうとするなんて!
そのまま死んだことにしてくれとでも言わんばかりの行動にクリスはおろおろし出すし、僕だって……!
そこまで考えてからレンブラント、ちょっと冷静になる。
そう。自分でも予想していなかったことをしてしまったのだ。
リョウがそんなことを言って、馬を降り、お世話になりました、と深々と頭を下げるのをつい唖然と見守ってしまい。
再び馬に乗ろうと背を向けた瞬間。
「なぁ、レン。彼女に惚れてんだろ?」
にやにやと、クリストフがわざとらしくレンブラントを肘でつつく。
「……うるさい」
「だってなぁ。去り際の女の子を後ろから抱き締めるなんて、お前がするとはまず思えない行動だったからなぁ」
にやにやと顔を覗き込んでくるクリスには、とにかく誰にも話さないように釘をささなくては。
「まぁ、いいんじゃないの? リョウ、出ていかなくて済みそうだし」
「ああ、それは、そうですね」
レンブラントが顔を赤らめながら、そんな中途半端な返事をする。
そう、たった今、会議が終わって、その帰り道。
レンブラントとクリストフは並んで歩いていた。
リョウの働きによって、例の町は救われた。
そして、リョウの「秘密」は守られることになったのだ。
これは、この都市におけるいわばトップシークレット。軍上層部と元老院、都市の司の間だけで守られる「秘密」。とはいってもその全員が全てを詳しく知っているわけではない。
実は、ほぼ力ずくでリョウを連れ戻したあと再び指揮官と三人の隊長で集まってリョウを交えて話し合った結果、表向きは「レンジャー仕込みの凄腕女騎士でちょっと不思議な力があるらしい」という程度の報告をしようということになったのだ。
実際、町の方で戦った騎士たちは町の外でどんな戦いがあったのかはほとんど知ることもなく終わってしまっていたし、詳しく説明したところで実際に見ていなければ誰も信じないだろう。その話をしたときでさえ指揮官とハヤトは聞いたことを飲み込むのに時間がかかったのだ。
さらには、この都市が下手にそういう戦力を手に入れたことが世間に知れ渡って彼女が生きづらくなるのも忍びない、という提案をハヤトがしたので。
ふっと、レンブラントの口元が緩む。
そういえば、あの提案をハヤトがしたときのリョウの顔。
目を丸くして、あからさまに「信じられない」という顔だったな。まぁ、リョウのハヤトに対する印象はあまり良くなさそうだったし、そこへもってきてリョウに対して今回あれだけ親身になるなんて行動に出たから心底驚いたんだろう。
ハヤトもあのリョウのあからさまな反応にかなりムッとしていたしな。
「それはそうと……疲れたなぁ!」
隣で伸びをしながら歩くクリストフに目をやる。
「会議は前例のない長さでしたからね」
「ああ。……一週間って、長すぎるだろ?」
「すっかり遅くなりましたね」
レンブラントがそう言うと、二人は足を早めた。城壁の外に。
で、場所は変わって同じ頃。
リョウはなんとなく落ち着かなかった。
「ねえザイラ、私、やっぱり帰ろうかな……」
「ええ! 何言ってんの! ダメよ、みんなでお昼ご飯食べるんだから!」
「うう……」
都市の外の西側。
例の大木の下に二人はいる。
右腕を固定するだけで良いというまでに回復したザイラはさっさと駐屯所の医務室を出て自宅療養をしていた。ラウが毎日する差し入れのせいで太ってしまったから、と本人は言うけれど「騎士隊隊長の妻」たる者、いつまでも人に頼ってはならないという本心がうかがえるような気がする、とリョウは思っていた。
そして、今日の昼には長引いた会議が終わる、ということなので、せっかくだから皆でランチをしよう、という提案をザイラがしたのだ。
この場所は、元々ザイラとクリストフ、それにレンブラントのたまり場でもあったらしく、ザイラは元気になってここに来ることをずっと願っていた。
リョウは、そんなザイラを強い、と思った。
あれだけ恐ろしい目に遭った場所なのだ。普通なら二度と来たくないだろう。
でもザイラは父親の仕事場や、夫や友と時間を過ごした場所を嫌いになりたくはない、と言った。
そして、リョウがその場所を自分で見つけて気に入ったというなら、なおさらその場所で再び時間を過ごしたいと言ってくれた。
自分のせいで大切な人たちの間に悲しい暗黙の了解ができてしまうなんて耐えられない、と。
そして、城壁の門をくぐるときまではわずかに震えていたザイラをリョウは心配していたが、いざ、城壁の外に出て暖かい日差しと気持ちのよい風に当たったとたん、彼女は今まで通りの朗らかさを取り戻し、治りきっていない怪我のせいでリョウの肩につかまりながらではあったがしっかりとここまで自分の足で歩いてきたのだ。
その心の強さにリョウは励まされてはいたのだが。
「……ふぅ」
なんの脈絡もないかのように、こっそりと小さくついてしまうため息。
あれ以来、リョウはレンブラントとはまともに顔を合わせていないのだ。
リョウとしては、あれだけ派手に力を使ってしまったので、二度と誰とも顔を合わせるつもりはなかった。
だから、あの時、二人の近くまで行く前に結界も解いたのだ。あわよくば恐れをなして逃げてしまえば良い、と思って。
そして、そのまま立ち去るつもりだったが何故かハナがいうことを聞かなかった。結界を張った場所へと戻ろうとするから、もしかして二人に何かあったのでは、と一抹の不安を感じて引き返した。
でも二人は無事だった。
ハナは、どうやら乗り手にいらない気まで回すことを覚えたようだ。
仕方なく、これも礼儀のうち、と馬から降りて別れの挨拶をしたのだ。
無意識にリョウは自分の肩を抱くように両肩に手をかける。
レンブラントに背中から抱き締められた感覚が今でも残っている。
「あなたがいなくなる必要はない」
そう力強く耳元でささやかれた声がまだ耳に残っている。
死ぬほど驚いた。
あれだけのものを見て。見たはずなのに、どうしてこの人はそんなことが言えるのか。
実のところあのレンブラントの行動は全部自分の妄想なんじゃないかとさえ思えてきているのだ。
どう考えたって、あの場で自分が戦死したことにするのは不自然さの欠片もなく、一番楽な選択肢だと思っていた。
どうしてその楽な選択肢を捨てるのだろう。
それをずっと考えていた。本人に直接聞いてやろうとも思っていたのだが、山間の町にいた間は、どういうわけか全く顔を合わせなかった。勿論、隊長として指示を出すのを聞くことはあったが、面白いくらい個人的に会うことがなかったのだ。
避けられているのかもしれない、と思った。
もし、そうだとしたら。
まぁ、ね。普通、女の子をあんな風に扱ったら誤解されますもの。気があるのかしらって。で、その誤解を解くのって一般的に難しいしめんどくさいのだ。
だからそれが気まずくて、なんとなく避けているのかな、とも思った。ちょっと、ほとぼりがさめるまで間をおくつもりなのかな、と。
……私、大丈夫なのにな。
私、誰かをそういう風に好きになったりできるような存在じゃないことくらい自覚してるんだけど。それに、他の人の穏やかな生活に波風立てるつもりもないから、そんなこと、気にしてくれなくていいのに。
それに。
ここにいて良い、と言ってもらえただけでどれだけ嬉しかったか。
なぜそんな風に言ってもらえたのか聞くことができないにしても、もしくは、優しい隊長のことだから、とっさにうっかりそう言ってしまっただけだったのかも知れなくて、例えそうだとしても「嬉しかった」ということはいつか伝えられたらいいな、と思った。
そんなことをつらつら考えていた矢先に、ザイラが言い出したランチ。
メンバーの中にレンブラントもいると聞いて、リョウはかえって落ち着かなくなったのだ。
そのメンバーで、口もきいてもらえなかったら……気まず過ぎる!
なので、つい「私、やっぱり帰ろうかな」なんて口走ってしまったのだ。
言ってしまったけど、もっともらしい理由が思い浮かばない。そんな有り様だ。
「ちょっと早く来すぎたのかなぁ……今日の会議は昼には終わるって言ってたのに……」
一応は怪我人なんだから、と、リョウが持ってきたクッションや敷物で周りを固められたザイラが口を尖らせる。
ランチ用にと、行きつけの食堂で包んでもらってきたサンドイッチと飲み物は準備万端、と言わんばかりに二人の前に広げられている。
リョウの思いを知る由もない、ザイラは全くもっていつもの調子でラウの仕事場のさらに向こうにある城壁の西の入り口の方向に目をやっている。
「……意外に長引いているのかな」
リョウの顔にわずかに不安の色が混ざる。今日は確かリョウの今後の扱いについて取り上げられる日だったはず。
何も心配しなくていい、とクリストフに言われてはいたが。
「大丈夫よ! リョウにとって都合の悪いようになんかならないって! それに忘れないでね。何があってもあたしたちはあなたの友達であることに変わりはないんだから」
リョウの顔色を察してかザイラが明るい声を出した。
夫婦の間に隠し事を作らせるわけにはいかないので、ザイラにもリョウが何者であるかは話したのだ。それでも以前とかわりなく接してくれるザイラにリョウは心底感謝した。
ただ実際に見せたわけではないので、もし「その力」や「その姿」を目の当たりにしてもなお変わらずにいてくれるかどうかはわからない。
そういう不安はあっても、リョウにとってこの事を話すというだけでかなりの勇気がいることだったのだ。
それに、おそらく、騎士として戦うわけではないザイラがリョウの戦う姿を見るなんてことはないはずだし。なんていう気持ちもあった。
だから話を聞いて受け止めてくれた、ということ自体がリョウにとってはもったいないくらいの反応だったのだ。
「あれ?あの二人まだ来てないんだ」
意外な声にリョウとザイラが振り返る。
「ハヤト?」
ザイラが声をあげる。
「ここで昼食会をするって聞いたもんで。俺も仲間にいれてよ。手ぶらで来た訳じゃないからさ」
そんなことを言いながら、ハヤトは遠慮する様子もなくリョウの右隣に座り込み二人の前に大きなバスケットをどん、と置く。
「うわ! 何これ?」
ザイラが目を丸くする。
そのバスケットの中には明らかに手作りと思われるサンドイッチやパイ、さらにはデザートの果物がこれでもかってくらい入っている。さらに言えば、可愛らしい花柄の布巾が敷き込まれていたりして、およそ男性の持ち物とは思えない。
「こう見えても、俺、結構モテるからさ。こんなにもらっても食べきれないし……って何? まさかリョウ、これが俺の私物だとか思ったわけ?」
ハヤトの登場以来、言葉もなく固まっているリョウをどう勘違いしたのかそんな言葉が掛けられた。
「あ……いえ! そんなこと思ってませんよ!ぜんっぜん!」
リョウはとにかく慌てて全力で否定してみる。
あれ以来、つまり、ここでリョウが生活するためにいかに体裁を当たり障りのないものにするか、ということをあれこれと彼が指揮官に進言するのを目の当たりにして以来、リョウにとってハヤトのイメージが変わりすぎてどう接していいのか正直戸惑ってしまうのだ。
「ふーん……じゃ、何?」
わざとらしく拗ねたような顔をするハヤト。
「いえ……あ、そうだ。その作ってくれた人も連れてきたら良かったのに、と思って」
おそらくカレンだろう。
会議続きで疲れていると思われる彼のための差し入れ。そんな気がした。
「ああ、なるほどね。声をかけてもいいけど……それ、本気で言ってるの?……まぁ、これを渡すなり何も言わずに帰っちゃったから引きとめようもなかったけど。……こういうの、こっちだって恥ずかしいもんなんだよ? レンとクリスが誘ってくれなかったらこれ持って家まで歩いて帰らなきゃいけなかったんだ」
ああ、そうなんだ。二人が声をかけたのね。と、リョウとザイラが納得して目を見合わせた時。
「ああ、先に来ていたんだハヤト」
クリストフの声に三人が顔をあげる。ようやく残りの二人も到着、といったところ。
「……ずいぶん豪勢ですね」
そう言うと、レンブラントは決して上機嫌とはいえない様子でリョウの左側に座る。
そらきた……!とリョウが心なしか硬くなり、クリストフはそれを見ると、にやっと笑い、リョウの向かいにいるザイラと、ハヤトの間に座って早速バスケットの中に手を伸ばす。
「ダメよ、クリス! それは先にハヤトが食べてから。作ってくれた子の気持ちってもんがあるんだから! あなたは先にこっちを食べて!」
なんてたしなめるザイラにクリストフは、はいはい、なんて答えながら勧められたサンドイッチも手に取り頬張った。
「……で?リョウは一級試験受けないの?」
ザイラに言われた言葉のせいか、ハヤトがバスケットの中身に手をつけ始めながらそんなことを言ってくる。
「んー。私、そういうの興味ないんですよね。一級だろうが二級だろうが戦うのは同じでしょ?」
リョウは、ちょっと前にも同じことを話したような気がする……と思いながら答える。
「なんだ、もったいない。レンなら一発で合格出すだろうに」
「別に僕じゃなくても合格は出しますよ」
そんなやり取りを聞いて、リョウはふと、目の前のバスケットの持ち主の言葉を思い出して顔をしかめた。
「リョウ、どうかした?」
正面のザイラが声をかけてくるので。
ああ、しまった。あからさまなしかめっ面だったかしら、なんてリョウは思いながら。
「あ、ううん。ちょっと、変な話思い出しちゃって」
途端に、なになに?と皆の視線が集まってしまった。
……これは、明らかに好奇心による視線。深刻な話のノリじゃない。なので、ちょっとためらうのだが。
「……あ、えーと……レンブラント隊長は気に入った人にしか合格点を出さないから二級騎士がハヤト隊長に泣きつく、って……」
ぶっ。
リョウの左側で吹き出す音と共にレンブラントが激しくむせこむ。
「わ、わ、ごめんなさい! 大丈夫ですか?」
リョウが焦ると同時にクリストフとハヤトが笑い出した。
女二人が目を見合わせていると。
「……そんな噂まで立っているんですか! まったく、君のせいですよハヤト!」
胸の辺りを叩きながら、むせた拍子に目にうっすら涙を浮かべたレンブラントが、笑い転げるハヤトに食って掛かる。
「だって! しょうがないじゃない。一級パスされたらうちの隊に来るんだもん。うちの隊で君の悪口言われるの嫌なんだよね俺」
は?
リョウの目が点になった。
「……リョウ、絶対ハヤトのこと誤解してるよな。こいつこう見えていい奴だよ」
「こう見えて、とかいらないから!」
目の前のクリストフがさも面白そうに笑い、その言葉尻にハヤトがしっかり食いつき。そんなハヤトの肩をクリストフがまぁまぁ、なんて叩きながら。
「レンのところから第七部隊に移動が許可されてる奴らって、大抵は自分の意思というより親族とか周りから圧力かけられてレンのところにいられない奴ばっかりなんだよ。だいたい隊長が気に入らないからって隊を移動する奴なんかどこにいったって信用できないだろ。それをハヤトが説得するの嫌がるからレンが全部無言で切り捨ててるんだよ」
「だって、めんどくさいんだもん」
クリストフの説明にハヤトが口を尖らせた。
そういうことなのか。
なんとなくこの三人の関係が今、分かった、とリョウは納得する。
そういえば、仕事中以外のハヤトに会うのは初めてだが、プライベートでは仲が良さそうだ。
レンブラントとクリストフのことも「レン」「クリス」と愛称で呼んでいる。
ふわり。
そんな感じでリョウが笑う。
胸の奥から柔らかい感情が沸き出したように。
お互いの心意気が分かるとこんなにも安心してその場にいられるものなのか。
だから人に惹かれてしまうのかもしれない。こんな感覚を味わえてしまうから。
「うん。君はそんな風に笑っていた方がいいよ」
すかさずハヤトが言った。
「レンも昔は笑わないやつだったけどね。そういう風に笑っていられる方がいい」
レンブラントの方も見ずに、新しいサンドイッチに手を伸ばしながらそう付け足す。
「……余計なことは言わなくていいでしょう」
レンブラントが居心地悪そうにそう呟く。
「ああ、そうだ。ついでにリョウ、一つ言っておきたいことがあるんだけど」
「え……あ、はい!」
ハヤトが名指しで自分に向き直るので、リョウはちょっと背筋を伸ばした。
……騎士隊隊長としての話だろうか。
「ああ、それなんだよね。その堅っ苦しいの、やめてくれる? 仕事の時はともかくとして。こういうときはさ、隊長とか呼ばなくていいから。俺のことはハヤト、でいいよ」
「え……でも」
騎士として。けじめというものがあるだろう。
「だって、明らかに自分より実力がある騎士から敬語使われるのって、ある意味屈辱的だよ?」
ハヤトはそう言うとにやっと笑う。
「そういうもん、ですか?」
東にいた頃はそういうの、かなり厳格だったんだよね。立場を重んじる風潮があって、敬語なしで話すなんてとんでもないというところだったのに。
……なんて、久しぶりに以前の生活スタイルを思い出してみる。
「ああ、確かに。僕もこれからはクリス、でいいよ」
クリストフが便乗してくる。
「そうですね……僕もレン、で結構ですよ」
こちらを見ようとはせず、カップを口元に運びながらレンブラントが言う。
「ええ! ……いや、さすがにダメでしょう! 上司をそんな呼び方!」
思わずリョウが声をあげた。
「へえ、そういうもんなんだ。じゃあ、俺たちラッキーだったね」
隣でハヤトが口を挟み、クリストフと視線を交わす。
とはいえ。
それによって明らかにレンブラントが落ち込んだように肩を落としたので。
「わかりました! じゃあ、敬称無しで呼ばせていただきます!えーと……レンブラント、でいいのかしら」
途端に。びっくりするほど分かりやすくレンブラントが赤面したので。
「レン! かわいい!」
ザイラが叫ぶ。
「よ、良かったじゃない、レン」
頬をひきつらせながら笑いを噛み殺すハヤト。
そして終始にやにやしているクリストフ。
そしてリョウは。
ついさっきまで、非常に居心地が悪かったのだけれど。
気にしなくて良いのかもしれない。いや、むしろ気にしないでおこう。
なぜなら「現状」があまりにも幸せだから。
レンブラントの思いはよそに、ことここに来て、リョウはようやく心底から笑っていた。
人と関わるということはこんなにも楽しいことなのだ。
そしていつか、機会があったならばこんな自分を受け入れてくれた人たちに、ちゃんとお礼を言えるように。今は何も言えなくても、少なくとも誠意をもって応えていけるようにしよう。
そんな決意を抱いていた。
ここまで読んでくださった方。本当にありがとうございました。
読んでくださる方がいらっしゃるなんて本当にびっくりです。
とりあえず、完結、とさせていただきます。
で。
活動報告にひそかに(?)書いたように続編も書きます。というか書かせてください。
この「物語を始めよう」はホントはもう少し冒険色のあるお話だったのですが、色々と整理して登場人物を少し削ったり新しく足したりしていたら主人公のリョウが全くお出掛けしない子になってしまって。そうこうするうちに区切りがついてしまったので、大いなる伏線が放置されてしまいました。
なので、もし、まだ愛想がつきていませんでしたら。どうぞ続編も見に来てください。
ただ、そちらはかなり恋愛色の強いものになりそうです。
読んでくださった方に心からの感謝を込めて。