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隣の席は魔王様

作者: 日向 ナツ

 黒金高校に二年生で通う俺の隣の席には魔王が座っている。

 黒く潤んだ大きな瞳に真っ白なきめ細やかな肌。顎は少し尖っているがその大きな目のおかげでキツイ印象はなくなって、むしろ甘くなりすぎないように見える。真っ黒な髪は流れるように肩から跳ねることはなく肩の少ししたあたりまで伸びている。綺麗な髪だ。顔と同じく白い肌が指先まで続いてる。その細く長い指先まで。全体的な印象は小柄で細身なおとなしい女子高生だろう。あ、美少女いれておく? ってそんな彼女がーーな・ん・でーー魔王なのかってーー


 ーー


 俺たちの出会い、ああ、この世界での出会いだけれどーー前世の出会いとなると説明も面倒なんだけど。

 まあ、周りを見渡して魔王いるか? アイドルいるか? と聞いたら必ずアイドルの票の方が上になるだろう。それぐらいだよな、魔王との出会いの頻度って。え? 全く説明になってない?

 俺たちの出会いはただ単に同じ高校に通い同じクラスになったことのみ!!


 じゃあ、なんで彼女が魔王だって知っているのか? だよな。俺も二年生の半ば夏休みも終わり新学期が始まった頃に気づいたんだ。ついこの前の出来事だ。それまでは可愛い同級生、クラスメートでしかなかった。

 では、なぜ気づいたのか。彼女と俺は親しいわけじゃない。はっきり言って口を聞いたことすらなかった。彼女がどうのではなく単に機会がなかったためだ。

 俺は同じクラスになっても最近まで口すら聞いてない彼女に触る機会が訪れたんだ。あ、変な意味じゃないからね。ただ単に彼女がめまいを起こして倒れてきたのを隣の席にいて一番近くにいた俺が支えたというだけ。


 だけど、これが俺に前世の記憶を思い出させることになった。

 憎き魔王の顔も一緒に戦った仲間もその旅もあの戦いも。全てを思い出した。

 さて、俺の攻撃にやられた魔王は死ぬ間際に魔法を使った。やけっぱちの全滅の魔法を。という訳で魔王を倒したにもかかわらず、俺も仲間も全滅となった。それでなんだろう、生き返るのが同じ時期になるなんて。魔王とそして、俺の仲間達も。

 前から仲間の記憶があったわけじゃない。が、どうやら気が合うのか運命なのか黒田正樹(剣術士)と七瀬まどか(弓使い)と野辺エミリ(魔法使い)は俺の友達だ。そうなんだ!! こいつらと一年の頃から友達をやってるのになぜ今思い出すんだ。そして、こいつらは思い出してはいない。あの呑気そうな毎日の行動のどこにも俺へのアプローチはなかった。諦めたにしてはおかしい。そう、そう、俺はもちろんこの流れで気づいているよね。勇者だ。まあ、まぬけな勇者なんだけど。

 あの鬼の形相のいかつい魔王が可愛い女子高生なのはどいうことなんだろう。俺の仲間も約二名女に変わってるだけどさあ。弓使いも魔法使いも男だったよ。ああ、なんか思い出すんじゃなかった。

 そう、この流れなら現世でも魔王と戦うのか! ってなる思うんだが、力ないよ。少なくとも俺は。正樹は剣道部だし、まどかも弓道部だ。これはなんかある? と思わせるうよな……エミリなんて家が神社だし、占い好きだ。だが、俺は知っている、勇者の力をこれっぽっちも感じていないことを! 元勇者だからね、修行どうこうの前に力あったし。今はただの高校生だし。

 そんでもって、一番重要なことだ。魔王は魔王だって事に俺が勇者だってことに気づいているのか。そして力を持っているのか!? 気になる! どうなんだ魔王!!

 なにせ死ぬ間際に呪いの言葉をかけられた。『勇者お前だけは許さん!!』って言われましたからね。なにをどう許さんのだろう? と思いながら死んだんですが、一緒に転生してやられるのかなあ。この感じは。


 俺は毎日隣の魔王様の様子を伺い続けた。そんな枯葉散る季節の放課後に魔王様は俺に声をかけてきた。

「時田君」

「え? うん?」

 こころの動揺は隠せない。ついに来たのか! 魔王!!

「私になにかあるの?」

「へ?」

「いつもこっち見てない? 私あの……」

 うへ? どういうことだ。これは。この展開は……。

「ああ、あーと。そんなことないけどなあ。あはは」

 俺のから笑も舞い散った。

「そう。それならいいの。あの、そういうのちょっと困るの……」

「こ、困る?」

 俺の視線になぜ困るんだ。

「あの、その私には好きな人がいるから!!」

 と、乙女な感じ全開で魔王様は教室から走り去って行った。

 ………

 おいおい、俺振られたみたいになってるよ。勇者なのに魔王に振られたんですが……どうすれば? 純情可憐な魔王様には耐えられなかったと、そういうことっすか。


 ショックを隠しきれない俺をエミリが誘ってくれる。いつものように正樹達が部活終わるまでハンバーガーやポテトを食べながら待っている。今日はエミリがなんかをタロットで占っている。きっと恋占いでもしているんだろう。俺の。

 なにせ何度もやり直してるエミリ。いかにも不吉そうなカードを見ては占いし直す。そんなに酷いのか? いや、違うんだ。恋心じゃない、勇者心が壊れたんだ! なんてことは言えない。前世の記憶があるのは俺だけだ。これ以上イタい奴だと思われるのも困る。エミリやればやるほど俺の心の傷は深くなる一方だよ。

 と、そこにエミリの携帯が鳴る。助かった。正樹達が来るんだろう。が、エミリの顔はさらに険しくなった。

「どうした?」

「あ、ああ。うん。その正樹とまどか付き合ったんだって。今日からは一緒に帰るって」

 俺の携帯も鳴る。

 正樹からだ。しきりにごめんを繰り返してるが文字の間から幸せ感が漂ってるよ。

『わかった。お幸せに』と投げやりな返事を返す。仕方ないだろう。目の前の骸骨のカードが俺をあざ笑ってるかのようだ。

「時田、あ、あのね」

「ん?」

 残り少なくなったポテトを頬張りエミリの顔を見る。そういえば、今日はやたらに落ち着きない。俺と魔王のやり取りを見てたからだと思ったが……なんかある?


「野辺! お待たせ! あれ?」

「え?」

「ううん。大丈夫。あ、の、そのそういうこと。ごめん!! 時田!! 明日から私も不参加で! じゃあね!」

 素早くエミリは席を立って自分のゴミを捨て去り、神田と一緒に去って行った。おいおい、神田……一年の頃同じクラスだったが、その時は記憶が戻ってなかった……。あいつ荷車運転してた奴……なんでお前まで同じ時期に死んでるんだよ!! しかもなんでエミリまで持ってくんだよ。勇者の話のなかのチョイ役じゃないあかああ。


 あ


 あああ


 ああああああ!!


 魔王様……今、羨ましげに神田とエミリを見てたら、魔王様が嬉しげに腕くんで歩いてました。手下の奴と。手下は魔王を倒すよりも少し早くに俺に切られたんで先輩になってたよ。そういうことかよ。彼氏いるから見ないでってことかよ。エミリもこのこと知ってたのかよ。占いの結果を一言も漏らさず行ってしまったし!! まあ、聞いて俺が浮かれる結果なら口にしてるよな。しかもあのカード不吉すぎるだろう。


 ………


 ………


 ん?


 あ


 あああ


 ああああああ!! あの魔王!!


 お前だけは許さんってこういうこと?


 俺だけ前世の記憶があるうえに誰ともくっつかないよっていう。

 魔王の呪い恐るべし。


 え?


 俺だけずっとこうなの??


 のーーー??

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