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不死の系譜

【前略】俺、デコピンが最強になりました。

作者: 蜜蜂

 なぜ、異世界にしたのかわからない。

 きっかけはいつものことだった。

 俺は、コップをコンコンと指ではじいて鳴らすことが好きだ。

 鳴った時の音が好きでたまに家にあるコップやマグカップをコンコンはじくときがあるのだが、その時にだ。

 コップが割れてはじけた。

 まるで、超人的な力が加わったかのようにいともたやすく割れたのだ。

 正直、驚きで声も出なかった。理解を超えた出来事に言葉を失い、頭が痛くなる。


「え~……」


 化け物……。

 その言葉が俺の頭の中で反芻する。結果……。


「あっ、俺人間やめてるわ」



 一応何かの間違いかもしれないと思い、俺はコンクリートブロックを用意した。

 いろいろ試してみるつもりだ。まずは、……空手チョップ。


「そおおぉぉぉぉい!」


 バンッ!

 鈍い音と共に俺の右手に激痛が走る。


「いった~い」


 とてつもなく痛い。これじゃないのか。

 やはり……デコピンか?

 デコピンの構えをして自分の手を見る。

 ……まさかな。

 そんな軽い気持ちでコンクリートブロックにデコピンすると。

 バアン!

 コンクリートブロックが、はじけた。爆裂。そんな簡単な言葉しか思い浮かばないほどにきれいに爆ぜた。


「えー……」


 どうやら、デコピン限定で強くなってしまったらしい。

 はあ、何でこんなことに……。


「学校行こ……」


 このことは言わなければ誰にも分るまい。

 俺は、服を着替えて学校へ行くことにした。

 うん。どう考えても異常しかない。

 家を出て、交差点に差し掛かったところ。


「あ、あれ?」


 突然眩暈らしきものが俺の意識を襲った。

 今まで眩暈などを起こしたことがない身としては正直何が起こっているのかわからないが、おそらくこれが眩暈というものなのだろう。

 目の前が一瞬真っ暗になるが、すぐにそれは元に戻る……。

 頭を一度振って、目を開けてみると――


「はっ?」


 中世ヨーロッパのような街並みで、しかも空は曇っており、どことのあく味気のないそのうえ建物はボロボロな場所にいた。

 俺はいったい何が起こっているのか理解できず、一瞬たじろぐ。


「ええと、ここはどこだ?」


 そんな言葉が自然と漏れる。

 服を見ても学校の制服そのままだ。

 そこまで来てやっと事態を認識し始めたのか、それともまた別の要因だったのか、俺の耳は周りの騒ぎを認識し始めた。


「逃げろー! 殺されるぞー!」


 そういいながら逃げる人もいれば、


「は、はは……もう、おしまいだ……」


 といい、すでに諦めている人間もいる。

 ほとんどの人は逃げ回っているが、何があったのだろう。そしてここはどこなのか、どうして俺はこんなところにいるのか。それも考えねばなるまい。

 一応みんなは逃げ出しているのだ。つまり危険が迫っているということ。ならば、ここは逃げるのが得策ということだろう。


「じゃあ、俺も逃げよっと」


 人の波に逆らわず、自らの身を守るために逃げる。

 何も間違っていないはずだ。

 そのはずなのだが。


『きゃあっ!』


 視界の端に、小さな女の子がこける瞬間を見てしまった。

 とっさに無視しようかと思ったが、そんなものが見えてしまったら助けないわけにはいかなくなる。

 こけた少女に急いで駆け付ける。


「大丈夫か? ほら、急ぐぞ」

「ありがとう。お兄ちゃん……」


 よし、これでよかった……


「おっ? 人間みーっけ」


 もう嫌だ。

 敵の姿を確認しなければ。

 俺は後ろを振り向いた。そこには、ほとんど人間と姿の変わらないやつらがいた。


「何者だ?」

「人族が魔族様に対してえらい口きいてんじゃねえよ」


 なんだ。あいつら人間じゃないのか。それに人族? 魔族? おそらく、そういう概念のある場所とかか?


「何? 悪いが、俺らは逃げてる最中なんだ。邪魔しないでいただきたいんだが」

「ああ? お前、今の状況分かってる?」


 どうだろう。だが実際、追い詰められてるのも確かなんだよな……。逃げる一択か。

 さすがにこの子を守りながら戦うなんてできない。生き残るため、自分のためにならまだしも、この子を逃がすために闘っても意味がない。なぜなら、この子が逃げ続けてもいずれ捕まってしまうからだ。

 そして、今この状況は周りに建物がある状況。つまり、安心して逃げに徹することができる。


「立てるか?」

「うん」

「走る準備をしておけ。逃げるから」

「どうやって?」

「逃げるなんてどうやってるんだよ?」


 簡単さ。

 ここの人族はどれほどの強さかわからないが、少なくとも今の俺には、デコピンがある。コップを簡単に割り、本気を出さずしてコンクリートブロックを爆ぜさせるほどの威力。

戦いへ転じさせることができる攻撃手段だ。

 つまり。


「こうするのさ!」


 俺は女の子を担ぎ上げて、走り出す。


「おまっ! そんなスピードで逃げ切れるだなんて思ってるの?」


 速いスピードで追いかけてくるが、目的はそれじゃあない。

 俺の目的は、こうすることだ。

 ギリギリまでひきつけて、壁を壊して逃げる。


「へっ、つかまえ――があっ!?」


 中世の建物のレンガ造りの家は、丈夫だが崩れてしまえば一気に崩れる。理由は地震などには強いが衝撃には弱く、一度一か所を壊すとほかの箇所も連動して壊れる。それは横だけに限らず、上もだ。

 壊した壁の上方向が崩れて、一気にがれきが落ちてきたというわけだ。

 そのわずかな時間差をつき、一気に逃げ出す。


「くそっ! 待て!」

「待てだなんて言われて待てるか!」


 俺は、目の前にある扉をもう一度デコピンで弾き飛ばし、外へ出て逃げる。

 この子を逃がさないと邪魔だ。

 いっそ勇者とか助けに来ないものかね。

 そう思い逃げていたが、やはり敵の足は速く、あっという間に追いつかれてしまう。しかも今度は周りを敵に囲まれた状態で。

 ひどい集団リンチを見る羽目になるだろう。もちろん自分がされる側。


「くそう。これで終わるか……」

「へへ、手こずらせやがって」

「お前ら! やっちまえ!」


 このままじゃこの子が危ない……一か八か……。


「しっかり捕まってろ!」


 女の子を腰へ担ぎ、地面にデコピンを放つ。

 一気に十メートル以上跳躍する。

 あっ、このままだと間違いなく両足が折れる。とりあえず空中であがくか……。何気なく前方へデコピンを打ったのだが。とんでもない風と共に、吹っ飛ぶ。謎物理の発動だ。


「え?」


 何が何だか一瞬理解できなかったが、とりあえず、逃げるという当初の目的は忘れていなかったため、全力で移動する。

 勢いを殺すために、反対側にデコピンを放つと止まる。

 やだ、デコピンの汎用性高すぎ?。

 これ、もう逃げに徹するしかないだろ。


 超加速。ともいうべき勢いで、デコピンを使って加速する。

 かなりのスピードである程度距離を稼いだところで、俺は担いでいた少女の安否を確認する。


「大丈夫か?」

「うん……大丈夫……」


 目は回っているようだが、大丈夫なようだ。


「この木箱の中に隠れてろ。大丈夫。後で助けに来るから」


 そういって、俺は少女を木箱の中に隠し、目立つ場所に行く。

 魔族、人族、中世ヨーロッパ風の街並み、ここから真っ先に考えられるのは……。


「異世界……か」

「やっと見つけた。もう逃がさないぜ? さっきのガキはどうした?」

「俺が殺したよ」

「逃げるのに邪魔になったからか?」

「ああ、正直自分の身を守るのが精いっぱいでね」

「そうか。屑だな」

「お前らだってそうだろ? 何が違うのか理解できない」

「ははは、違いねえ」

「で、悪いが」


 デコピンを両手で作って敵側に向ける。


「死んでくれないか?」


 その言葉とともに両手のデコピンを一斉に放つ。


「ガアッ!」


 まずは一人目。

 先ほどの空中デコピンを移動に使うことができたということは、逆に言えば謎物理で何かをデコピンで飛ばすことができるということだ。衝撃波か? まあ、そんなことはどうでもいい。


「おら! 来ねえとあいつみたいになるぞ? 逃げてくれてもいいんだぜ?」


 プレッシャーをかけてみる。

 今敵はわけのわからない力で戸惑っているはずだ。種が割れれば勝機はない。あと懸念するべきことは、あの少女の居場所がばれることだ。視線は移さない。目の動きがみられてばれたらおしまいだ。

 今の俺の身体能力は一般人並。デコピンのおかげでこうなってるものの、それ以外は本当に役立たずだ。

 早く誰か来てくれないものか……。


「おらっ! 隙だらけだ!」


 後ろから、別の敵が襲い掛かってくる。

 反応が遅れて回避が間に合わない。死んだ。これは死んだ。

 俺は目をきつく閉じ、現実から逃避を始めた。


「死んだ。死んだ。絶対死んだってこれ……」


 そうつぶやいたが、来るべき衝撃は来ない。不自然に思い閉じていた眼を開けると、そこには少女がいた。

 先ほどの少女ではない。

 簡単なプレートアーマーに身を包んだ少女。

 その子が俺を襲っていた敵の攻撃を受け止めている。


「大丈夫? けがはない?」

「あ、ああ、ありがとう」


 ちょっとテンパってしまったが何とかお礼は言えた。


「それにしても、この惨状あんたがやったの?」

「い、一応」


 先ほどのデコピンの惨状を見ると、地面の石畳が大変なことになっていた。

 俺のデコピンってそんなにすごいものだったのか。


「とりあえず、逃げて」

「残念ながら、今それができないからこんなところで応戦する羽目になってるんだよ」

「私がいるじゃない」

「敵は複数。こちらは少数。お前だけで勝てるとは思わないがね」

「私は国一の剣士よ! 馬鹿にしないで」

「だけどなあ、こんなところに女の子たちだけを置いて逃げれるわけねえだろ?」

「ほかにもいるの?」

「ちょっととある場所で隠れてるよ。悪いけど、この状況を早く何とかしたいんだ手伝ってくれ」


 俺は、国一の剣士を名乗る少女に頼む。


「わかったわよ。もとよりそのつもりよ」

「サンクス」

「さ、さんくす?」

「ありがとうって意味だ」

「じゃあ、行くわよ」

「弱いから、援護に回るわ」

「頼んだわよ!」


 少女は周りを囲む複数の魔族に向かって駆け出す。

 俺はその後ろからデコピンを構えて、放つ。

 それでもかなり強いのだから、直接放つとどうなるのかわからない。結構面白そうなことになるのではというのが本音だ。

 今のところデコピンで分かっている使い方は、移動と銃弾、あとは直接攻撃か。

 もう一つバリエーションがほしいところだが。


「後ろ!」

「えっ?」


 もちろん敵は一体ではない。そうなれば後ろにも気を遣うべきだった。だが、二度も同じ失敗をやらかすとは思わなかった。

 今度こそ死んだと思ったが、敵の攻撃が俺の肩口へ決まる瞬間、敵の攻撃がはじかれた。なぜかわからなかったが、これは好機だと思い敵の腹部へ、直接デコピンを放った。すると、口から盛大に吐血をして、はるか遠くへ吹き飛んでいった。


 直接デコピンを食らうとああなるのか。というか、でこに食らわせるからデコピンなのであってデコに食らわせなければデコピンと言わないのでは……。

 そんな思考に浸る暇もなく次の攻撃へ移る。

 周りへどんどん乱射していく。ふと、気づく。


 これだけの大技をぶっ放しているのに自分の体が吹っ飛ばないのだ。

 作用と反作用。その特性を生かすのであれば、自分は謎の衝撃を飛ばす反面同じほどの力でそれと同じ力が加わるはずだ。

 それがないということは、何らかの形で強化されているのか?

 しかも、デコピンを放つ瞬間だけ。

 それなら謎物理の一部はなんとかわかる。よし、つまりデコピンの構えをしている間は、身体能力とかいろいろ強化されているという認識でいいな。


 それが分かれば。

 左手をデコピンの構えをして、ポケットにしまう。

 これで、両手を使った拍子に身体能力強化が解ける心配が少ない。


「とりあえず、かかってこいやー!」

「はあっ!? ちょ何誘導してんの!?」

「はっはっはあ! 雑魚共がぁ!」


 右手デコピンだけで敵を薙ぎ払い蹂躙していく。

 これ結構楽しい。

 身体能力強化の影響かやはり速く走れる。先ほどとは大違いだ。

 時に吹き飛ばした敵を別の敵に当てるという作業も楽しい。

 そのまま剣士の少女は魔族に止めを刺す。

 それを続けて、魔族の集団は簡単に殺しつくした。


「で、ここで何が起こってるんだ?」

「これだけの騒ぎになっててまだわからないの?」

「俺だって何が何だか混乱してるんだよ。教えてくれ」

「この街に魔族の大群が攻めてきたのよ」

「なるほど。安全な場所は?」

「向こうから攻めてきてるから、あっちが安全なはずよ」

「わかった。ありがとう」


 俺は、お礼を言って、あの少女がいる場所に向かった。



「お兄ちゃん?」

「怖かったな。寂しかったな。今から逃げるから背中に捕まれ」

「うん」

「捕まったな? しっかりしがみついてろよ」


 デコピンを左手で構えて、一気に飛び上がる。

 二十メートルも飛べば建物はなく遠くまで見渡せる。

 先ほどの少女が言っていた方向を見ると、一面魔族らしきものの大群で埋まっていた。


「あれが魔族か……」

「お兄ちゃん怖い……」


 高いのが怖いのか、それともあの魔族の大群が怖いのか。

 どちらにしろ急いで逃げなければ。


「大丈夫だよ。俺が安全なところまで連れて行ってやるから」

「うん」


 鼻声だが、大丈夫だろうか。途中で泣いたりしないだろうか。そう思いながらも、全力で屋根の上を駆け抜けていった。



「ああ! 大丈夫か!?」

「父さん! お母さん! 怖かったよー!」

「ありがとうございます!」

「いえいえ。いいですよ……では。自分はやることがあるので」


 そういって、安全な場所から再びあの場所へ向かって飛んでいった。


「まだ大丈夫だよな?」


 魔族の群れがまだ町へ到着していないことを祈って急いで向かっていった。

 しばらく町のほうへ飛んでいくと、まだ、魔族たちは到着していなかった。


「何してんのよ? 死ぬわよ?」

「言っただろ。こんなところに女の子を置いていけるかって」

「……馬鹿」

「ほっとけ」


 ほかにも騎士やら何やらが町へ集まっているようだ。

 だが、魔族の数とは程遠い。絶対数が違う。


「俺の名前は、――この戦いが終わってからでいいか」

「それって、典型的に死ぬ奴のセリフよ?」

「絶対に死なない。これだけは約束する。お前の名前も聞きたいし、お礼もしたいからな」

「じゃあ、死なないでよ」

「ああ」


 そして俺たちは魔族の大群に突っ込んでいった。



 ちなみに、三時間後には蹂躙されて絶対数がかなり減った魔族の大群が撤退したらしい。


「あんた何者?」

「デコピン使いの普通の人族さ」

「はあ、あんたが人間なら町の人たちは何だっていうのよ」

「そんなことどうだっていいだろ? それにしてもここがどこか知りたい」

「はあ!? あんたこんなことも知らずにここに来たの!?」

「しょうがないだろ! 何があったのか俺には分からなかったんだ!」


 ほとんど無傷の街には男女の会話が響いていたという。


 大事なことなので。なぜ異世界にしたのかわからない。

 そして最後まで主人公の名前が出てこなかった……。

 最初に出すタイミングを見失ったから次に回そうと思ったらストーリー後半とか……それならいっそ出さないほうが……(錯乱)という感じでこの話の完成でした。短編という都合上、あまり長くなりすぎると読む気がうせてしまいそうでしたので最後は端折りました。すいませんでした。


 この作品の反響が同時投稿されたものより良ければ、こちらの連載版を書こうかと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  内容とキャラの役がよかったです。  主人公の魅力と女の子と発言は、二つの意味をすぐに悟れました。主人公の内から溢れるかっこいい性格がよく書けていたと思います。 [一言]  短編だからとい…
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