エピローグ
激しい戦いの夜から早三日、カルデラエリアは何とか混乱から復旧しつつあった。
指導者二人を失い権力を巡った闘争も収まり、内政はなんとか落ち着きを取り戻したが、カルデラエリアが失った物は大きい。
上層でのサバトとの戦闘により死傷者数は四桁を超える大被害。加えて、君主直属であった魔法機密隊の魔法使いの中でも一番の腕利きであったクロイスの死亡、さらに、サバトの手によって他の魔法使いたちも命を落とし、実質魔法機密隊は壊滅。
マナの枯渇した研究区画のブロックは封鎖され、これから長い時間をかけて復旧をしていく事が決まっている。
今回の事件に伴って他エリアからの監視の目も厳しくなり、当分貴族達は大きな動きをみせられないだろうとされている、
同様に反抗組織であるサバトも大打撃を受けていた。上層に派遣された魔法使いの半数以上が死亡、あるいは大きな怪我を負い、組織規模を縮小。こちらもやはり当面の間は大規模な活動はないだろうと噂されている。
そういった話を、フィーは図書館内の一室、目覚めたベッドの上で聞いた。
彼女はただ、「そう」と返すと再びベッドに横になった。
小さな部屋の中央にはキレイなベッドが置かれていて、まっしろなシーツの上には金色の髪の少女が目を閉じて満足そうに微笑んでいる。
フィーはそうして眠っているフルトの頬を優しくなでて、一つ息を吐く。
隣に立つ精霊はそんなフィーの様子をじっと見つめている。
戦いの夜からはもう一週間が過ぎ、下層の方ではもういつもどおりの生活が再開されているという。
そんな中、フルトはもう一週間こうして眠ったまま目を覚まさないでいた。
エーテルをほぼ全て使い切り、体に大きな怪我を負ったフルトはそれでも奇跡的に一命をとりとめ、今は小さな吐息をたてている。
それだけならフィーは手放しで喜べたのだが、事態はそう甘くはなかった。この一週間の間、フルトのエーテルはまったく回復を見せていないのだ。
恐らくこのまま昏睡状態が続いて、ゆっくりとフルトは死へと向かっていくだろうと館長は話していた。
フィーはもう一度フルトのその頬をなでると部屋を出た。
その体は、真新しい黒いコートに包まれていた。
「もう、いくのかい?」
声をかけられてフィーが振り向くと、そこには館長がいた。
書架の並ぶ通路、カウンター越しに二人は目を合わせる。
「エェ……フルトのコトハお願いしマス」
フィーがそう言って頭を下げると、後ろに控えていた精霊も同じように頭を下げた。
「本当に地上にマナを戻すなんてこと、一人でできると思ってるのかい?」
「出来るかドウカじゃナク、必要だから、スル」
「ちゃんと効果が出るかもわからない魔法の為に?」
「他ニ方法ガない以上は、ヤルしかナイ」
かつて世界中のマナを枯渇させたという一人の魔法使い。
彼は、そのマナを全て使い。たった一人の大事な人を生き返らせたのだと、そんな伝承がある。
だがその魔法の式などは伝えられてもおらず真偽はあやふやだ。
図書館の本の虫達の知恵でも、フルトを眠りから覚ませそうな方法はそんな信憑性のないものしか上げる事ができなかった。
「地上をマナで満たして、そのマナを全て一人で使って、なんて不毛なことだ。フィー、君はきっと歴史に名を残す最悪の勇者になるだろうよ」
「ソレで構わナイ。私ハ勇者二はなれナイ、どこまで行ってモ魔法使いダカラ」
地上を再びマナで満たすというその目標事態、一体どれだけの時がかかるのか、そもそも本当にそんな事ができるのか、フィーにも館長にもそれはわからない。
そもそも本当に伝承にある魔法がこの世界に存在するのか。
あったとしてそれがフルトに効果があるのかもわからない。
それでもフィーは立ち止まらない。
道はまだ、続いているのだから。
「行って来マス」
笑みを浮かべたフィーがもう一度頭を下げる。
「あぁ、気をつけて」
館長が小さく手を振る。
フィーは目の前に現れた扉をゆっくりと開く。
まずは隣のエリアを目指そうと思っていた。
何からはじめればいいのかもさっぱりわからない。
どうすればいいのかも、見当もつかないけれど。
フィーは隣に立つ精霊の手をとって一歩踏み出す。
たった一人の少女のための、はてのない戦いへ続くその一歩。
魔法使いと精霊は長い旅路を歩み始めた。




