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 下層の天井、中層の地面。

 上下を層に挟まれたたその岩盤は厚く、中層の重みを支えるためにさらに魔法の補強が入っている。

 その岩盤の中をくりぬき、小さな道を作った先には広い空間が広がっており、そこにはフィーの隠れ家にあったような庭園が広がっている。

 その規模はフィーの隠れ家のそれより広く、木々の種類も豊富だ。

 加えて、花畑こそないものの、小さな花壇や菜園まで整備されており、この空間を作るのに一体どれだけの時間がかかったのかは想像もつかない。

 その先に建てられている家は木造のしっかりとした造りのもので、住む者の力を示している。

 その家にはいってすぐにある客間にフィー達は居た。

 テーブルを挟み師匠の前に座るフィーとフルトは、これまでの経緯を最初から余すことなく語っていた。


「なるほどな……」


 師匠は全ての話を聞き終えると、腕を組んで二人に視線を走らせ、テーブルを強く叩いた。


「依頼の裏はきちんととれとあれほどいったはずだがの、時間がなくとも図書館を頼ればこのような事態、さけられたのではないか?」

「毎回ソンナ事ヲしていたラ、金貨がイクラあってモ足りナイ」


 フィーの反論に、師匠は身を乗り出して、フィーを真正面から睨みつける。


「そうしなければ命がいくらあってもたりんぞ」


 裏を取らなかったのは確かな以上、フィーは何も言い返せない。黙って頷く。


「まぁいい、今更言ってもしかたのないことだ、フィー、その子を貴族連中に引き渡すぞ」


 その言葉には黙って入られなかった、テーブルを強く叩いてフィーも身を乗り出す。


「師匠!」

「なんだやかましい、テーブルを叩くな」


 自分の事を棚に上げる恩師に突っ込みをいれたくなるが、今はそんな事はどうでもいい。


「フルトを引き渡したラどうなるか、わかっテルんデスか?

「あぁ、少なくとも出来の悪い弟子よりはわかっているつもりさ」


 喋りながら彼女は、静かに椅子に腰掛けなおす。


「貴族連中にその子を引き渡せば、近いうち、二年、三年の内に近隣のエリアとの戦争がはじまるだろうよ。まぁその前に、サバトの連中が他エリアに話を流した上で内戦をおっぱじめるのがオチか」

「わかって居るナラ、なぜ」

「あんたこそわかってるのかいフィー。その子を抱えて、ついでに父親を助け出したあげく、貴族連中に喧嘩売って、他のエリアに逃げられるとでも?」

「ダけド、引き渡しタ所で今更、私は奴らニとっても邪魔なハズ」

「我が話を通してやろう、最悪、あんたを連れて逃げてやっても構わん」


 師匠はつまらなげに言葉を紡ぎ、フィーの顔に再び視線を投げる。


「我はな、一応これでもあんたの事をそれなりに思ってるつもりだ、でなきゃここに招いてもないし話しも聞かずにすぐにでもその子をひん剥いて研究したあと貴族連中に売り飛ばしてるところさ」


 師匠の視線にさらされて、フルトは少し怯えた様子をみせながらも、視線は逸らさずまっすぐに師匠の事をみつめていた。

 師匠の言っている事は正しい。

 フィーにもそれはよくわかる。

 フルトの父親を助けだして、なおかつ他のエリアに逃げるなど、地上にマナが戻るくらいにありえないことかもしれない。

 だけど、フィーの頭によぎるのは、奴隷時代の仲間達の顔。

 どうするかが一番正しいかなんてわかっている。だけどそれでいいのかと、ずっと自分の中で問いが渦巻いている。


「それテモ、師匠、私はフルトを助けイ」


 視線に力を込めて、フィーは師匠を見つめる。


「情が移ったか」

「カもしれナイ。デモそれだけじゃナイ。昔、私を助けてくれた仲間が居るようニ、師匠ガ私を助けてくれたようニ、私がフルトを助けたイと思うコトハ、悪い事デショウカ?」

「そうさね、悪いことではない。だが気まぐれに助けて、その後はどうする? エリアを超えて逃げた所で、その出自がばれれば、また同じ事の繰り返しだ、そのたびにその子を連れて逃げると言うのか?」

「私がフルトに魔法ヲ教えマス。自分と、自分の周りヲ守レル位の力ヲ。師匠が私ニ、そうしてくれたヨウに」


 決意を込めた言葉。

 フィーの意思は固い。

 きっとフルトには誰も手を差し伸べてはくれないだろう。いや、世界中を探せば、誰か一人くらいはいるのかもしれない。だけどそんな相手を待っている間に、フルトは人殺しの兵器として利用されてしまう。

 だから今、手を差し伸べられる私が彼女を助ける。

 フィー自身が誰も助けてくれない孤独の辛さを自分で一番よく知っているから。

 だから一人だけでも、フルトのために戦おうと、フィーは決めた。

 フィーの言葉に師匠はそのぼさぼさの赤毛をがりがりと掻き毟る。そうして、苛立たしげな目つきで、フィーを睨みながら、ため息を吐く。


「本気なのかい?」

「ハイ」

「師弟の縁を切るといってもか?」


 師匠の顔は真剣だ。フルトがフィーの顔を不安そうに見つめるが、フィーに迷いはなかった。


「ハイ」


 はっきりとした答えに、師匠は再び頭を掻き毟り、テーブルに突っ伏する。


「わかったよ、あんたの気持ちは……。

 フルト、あんたはどうなんだい? 誰かを巻き込んでまであんたは貴族連中から逃げて、平和に暮らしたいと思うのかい?」


 フルトはその言葉に首を振って、自分の言葉を並べる。


「わたしは、わたしは別にどうなってもいいんです。そのことはフィーさんにもいいました。お師匠様にも迷惑をかけてしまうかもしれませんけれど、別にわたしの体をいくら調べて貰っても構いませんから、お父さんだけは、どうしても助けて欲しいです。わたしに魔法が使えるかどうか、よくわからないですけど、少しでも役にたてるならとは思います。」


 フルトは深く頭を下げる。師匠はその様子にもう一度ため息を吐くと、降参とばかりに両手を挙げてテーブルに突っ伏する。


「なんかまるで我が悪者みたいじゃないかこれでは」


 子供のように拗ねたようなその顔と仕草は、歳の割りに随分と若いその容姿にはよく似合っている。


「縁を切った弟子に死なれても寝覚めがわるいからな、出来る限りの手伝いはしてやろう。あとフルトよ、我は主の師匠ではない、クルークと呼ぶがよい」

「はい、クルークさん」


 フルトの返事の横でフィーは深く頭を下げていた。

 クルークはその頭を撫でてから、その手を離すと、体に力をこめて勢いよく立ち上がる。


「そうと決まれば、するべきことは一つ二つではないな、寝る間も惜しんで用意するぞ、フィー、フルト」

「はイ」

「はい」


 二人の返事に鼻を鳴らしてクルークはニヤリと笑みを浮かべる。


「悪巧みを始めようじゃないか」

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