3羽 記憶を失った少女
遅れてすみません!!
今回はヒロイン登場です。
ではどうぞ
あのリュークとスタラガスの闘いから一時間程掛かってやっと我が家のある南小村に帰って来た。
あの闘いのせいで交通規制が激しく、かなり回り道をして帰る羽目となったが、今となってはどうでも良く感じる。
「…そう言えば俺、母さんに遅くなるってしか言ってないじゃん」
心配してるかな~…。いや、意外とマイペースにお茶を啜ってたり…。まあ入れば分かるか。
車を入り口の駐車スペースに止めて歩き、玄関の扉に手を掛けようとした瞬間だった。
「ぎゅむ…!!」
「へ?」
何か踏んだ感触と共に女の子の声が聞こえる。まさかと思い、下を見ると…
「…うう…重いぃ…」
俺の右足の下に中学生くらいの黒髪の女の子が俯せで倒れてた。
「…………………………………………………………………………ふう…俺、多分疲れ過ぎてんだよな。あんなもん間近で見たし、精神的に。これも多分幻覚なんだ…」
一人で納得し、さっさと家に入ろうとするが、
「………」
「………」
幻覚であるはずの少女は俺のズボンを掴み、それを拒んだ。
さて、ここで矛盾が生じた。幻覚であるはずならば、少女はズボンを掴める筈がない。よってこの少女は実在している。
でも何で?とりあえず選択肢は…
「①とりあえず家に連れてってみる。
②今から近所の交番に連れてく。
③放って置く。
だな…」
ぶつぶつ呟いてみたが、とりあえず交番は遠見市の怪物関係で忙しそうだったのを帰りに見たので②は却下。③は…現状を見て、放って置こうとしてもこの少女は放してくれないだろうと考えて同じく却下。
「…仕方ないな」
「…う?」
俺は少女に向き直り、少女を抱きかかえる。俗に言うお姫様抱っこと言うやつだ。しかし…これはスイカ運びをさせてくれた農家のおじさんに感謝だな。バイト前の俺なら五秒は保たない!!
少女も一瞬不思議そうに唸ったが、安心したようで少し目を閉じた。
さて…ここからが本番だな。
「見知らぬ女の子が倒れてたから拾って来た」
なんて言ったら俺の両親何て顔するだろ?母さんなら笑ってもてなすだろうけど、父さんは厳しいからな~…。やっぱり今からでも交番に…
「あら?大吾もう帰ってたの?…その女の子は?」
行けなかった。
◆◇◆◇
「…ふうん…。それで連れて来たわけね」
「正確には連れて来る前に玄関に居たんだけどね」
現在母さんに事情説明中。あの少女は俺と母さんの隣でちょこんと座布団に座り、大きな黒い瞳でじっと俺達を見ている。
「…まあ良いわ。世話はちゃんと大吾がするのよ」
「ペット感覚か!?コラ!!」
「あなた、お名前は?」
「無視すんなよ!!」
俺のツッコミを無視して少女に話し掛ける母さん。
何たるフリーダム。結婚した父さんの気持ちが知りたいよ。
少女は母さんの問いにしばらく考えていたが、
「…分かんない」
「へ?」
「あら?」
返って来たのは「分からない」の一言。こればかりには俺も、母さんも困惑気味だ。目の前の少女は胸程ある黒い髪を弄りながら考えてるみたいだが、それ以上何も言わなかった。
「お家は?」
「…分かんない」
「…大吾。ちょっとこっちにいらっしゃい」
おや?ご指名か。
俺は母さんに付いていき、台所まで来た。
「…あの娘、記憶喪失って言う病気かしら?」
「かもな…。よく分からないけど」
「どうしましょう…!!とりあえずお医者さんに看てもらおうかしら?」
「いや、ここは警察に頼んだ方が…」
「…何話してるの?」
「!?」
いつになく真剣な表情の母さん。こういう赤の他人にも真剣になれる所が唯一母さんのかっこいい所なんだよね。
色々と議論する俺と母さん。そこにあの少女が台所にやって来て、不思議そうに俺と母さんを見つめる。
母さんは少女の前に屈み、話し掛けた。
「…あなた、行くところは?」
「…無いかも」
「じゃあ家に来なさいよ」
「な!?正気か!?」
「ええ、正気も正気よ。それに、この娘も行く宛が無くて困ってるんだし…人助けだと思って」
母さん…そこまでこの娘の事を考えて…!!
「それに、前から欲しかったのよね!!娘!!」
そっちが本心か!?しかも実の息子が居る前で!?
「良いの?」
「ええ。勿論よ」
首を傾げて聞く少女に母さんは笑顔で答えた。
少女は今度は俺の方を向いた。とりあえず笑顔でサムズアップをしてみた。
「ありがとー!!」
「ホゴッ!?」
その瞬間少女が俺の腹目掛けてロケットダイブを繰り出し、俺はこの小さい少女に押し倒される形で倒れた。
…ちょっと悔しい気がする。もっと真面目にバイトするか運動しとくんだったとちょっと後悔。
「あ、でも父さんが…」
「心配無いわよ。それより名前を付けてあげないとね!!」
心配無い?あの堅物父さんが?まあその嫁さんが言うなら本当なんだろな。
そして名前の事をすっかり忘れてた。一緒に暮らして行く以上、名前は必要だし。何より思い出せないなら思い出すまでの仮の名前を付けなくてはならない。
と、その時俺の頭にピカンと来た!!
「『仮名』!!仮名なんかどうだ!?」
「やぁねえ大吾ったら。それじゃ何か厨二臭いわよ」
俺の胸に何かがグサッと刺さった気がした。
「せめて同じ『かな』でももっと女の子らしい『かな』にしなさいよ。例えば……『香奈』何かどうかしら?香る、にアニソン女王の奈で香奈」
「良いとは思うけど…」
せめて奈の説明をもっと身近な物で説明出来なかったかな?
「…お前はどう思う?この名前」
「うんうん!!気に入ったぁ!!」
少女、新名『立山 香奈』はぴょんぴょん飛び跳ね、嬉しそうな顔で何度も自分の新しい名前を呟いた。
しかし…見た目は中学生なのに性格はまるで小学生だな。いや、元気な中学生はこんなもんか?
と、グギュウウウウウウ…!!と言う音が鳴り響いた。直後香奈はピタッと動きを止め、腹を押さえた。
「…………………」
「フフッ。ご飯にしましょうか」
「ごはん?」
◆◇◆◇
「うわああああああああああああああ…!!」
「香奈。涎拭け」
「ん」
母さんの手で綺麗に盛り付けられた料理が次々とテーブルの上に並べられる。それを見た香奈は目をキラキラと輝かせ、口から溢れる程の涎を垂らしている。
さすがに年頃?の女の子が涎を垂らしているのもあれなので、俺がしっかりと拭いておいた。
「それじゃあ、頂きます」
「頂きます」
「???『いただきます』?」
俺と母さんが卓袱台の前の座布団に座り手を合わせると、香奈もちらちらと見ながら見様見真似で座布団に座り、手を合わせた。それを待って母さんが頂きます、と言うが、香奈は頭に疑問符を浮かべており、何が何だか分からないといった感じだ。
「ん?そうか…いいか?香奈。こういう食事の前には必ず『頂きます』って言うんだ」
「ん~。大体分かった!!頂きます!!」
「うふふ。どうぞ、遠慮無く食べてね」
俺が説明すると香奈は頷きながら笑顔で答え、しっかりと頂きますをした。
そして母さんの言葉を最後まで聞く前に香奈の右手が真ん中の鳥の唐揚げに…
「こら」
「う?」
伸びそうだったのを俺が横から腕を掴んで止めた。香奈は何で止められたか分かっていないようで、可愛い声と共に首を傾げた。
「いいか?飯…じゃなくてご飯を食べる時は箸を使うんだ」
「はし?」
「そう。ほら、こんな風に」
俺が箸を使うように香奈に言うと、香奈は箸が分からないと言うように呟き返す。俺は香奈の前に自分の箸を出し、握って動かしてみる。
すると香奈は卓袱台に並んでいる皿の中から自分の箸を探し出し、さっきと同じく見様見真似で箸を握った。学習能力が優れているのか何なのか、香奈は初めこそ食べ物を取るのも苦戦していたがすぐに扱い慣れてしまった。
「おいしーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「うふふ。良かったわ。どんどん食べてね」
「うん!!」
そして宣言通り、香奈は数分後には卓袱台の上の料理の大部分を平らげてしまった。
◆◇◆◇
「ふぅ…」
飯を食べ終わった俺は先に風呂に入っていた。怪獣同士の闘いを見たり、火の街を歩いたりと色々と疲れたし、汗だくだったから念入りに体は洗ってから。
「…」
ふと自分の左腕を見てみる。あの六枚の羽のシルエットを象った痣は水面下でゆらゆらと揺れていた。
名前、何て言ったけ…?
「…コネクター…」
そう呟いた瞬間どこからかオレンジ色に輝く粒子が現れ、水中の左腕を中心に回転し始めた。輝きが収まると、あの白い籠手型の機械が俺の左腕に付いていた。
「うおおお!?」
これには思わず叫ばずにはいられなかった。とりあえず機械を消すために色々弄ってみたけど表面には横に溝のようなものがあるくらいで他にスイッチのようなものは見つからない。
…そう言えば確かこの機械を出した時は『コネクター』って言ったら出て来たんだったな。多分それがこの機械の名前で起動するためのキーワードなのかもしれない。だったら起動の反対は…
「リムーヴ!!」
頭に浮かんだ単語を適当に叫んでみたらビンゴだったようでコネクターは表面からサラサラと粒子化し、どこかに消えていった。
「ふぅ……。怖かった~…!!…ん?」
「おっふろーーーーーーーーーーーーー!!」
「のわああああああああああああああああああ!?香奈ぁあああああああああ!?」
コネクターを無事解除出来て一息付いていると、不意にがらりと風呂の扉が開いて、すっぽんぽんの香奈が浴室に飛び込んで来た。俺は叫んだが香奈は特に気にした様子を見せず、そのまま助走を付けて浴槽にダイブ!!俺と向かい合うように湯船に浸かった。発展途上でも十分出てるところは出てる香奈を直視出来ず、入り口の扉側を向くと母さんがクスクスと笑いながら狼狽する俺を見ていた。
「…母さん?」
「ふふふ…。しっかりと洗ってあげなさいね」
「誰が!!」
「お兄ちゃん、洗ってくれないの?」
「くっ…!!ちきしょーーーーーー!!」
母さんにはムカついたが、うるうるした瞳の香奈の懇願には勝てず、仕方なく香奈の頭と体を洗ってやった。さすがに体は軽く目を逸らしながらだが。その途中、香奈の左腕に少し陥没したような傷があるのを俺は見たが、詳しくは聞かなかった。