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リベンジゲーム  作者: 明兎
GameStart
6/20

【GameStart】4

 ゲーム参加者のうちの一人、入戸(いりと) 遊李(ゆうり)は支給された武器である木刀を片手に構えながら建物内を探索していた。

一つ結びの髪をゆらゆらと揺らしながらその眼は警戒心を隠すことなく周囲にまき散らしている。


 遊李はゲームのルールを理解した時点で人との協力は出来ないものだと判断していた。

悪魔と皇帝のプレイヤーの判断の仕方がない以上裏切られる可能性は十二分に存在していて、そんなリスクを冒したくないというものからだ。


 「……とは言ったですけど、流石にこの状況で一人は堪えるものがありますね」


 そんな考えをしたのはよかったが、一人でいるとそれはそれで不安や恐怖などが襲い掛かって来て、まだ高校生二年の遊李には辛いものがあった。

義務教育の枷を外れ、中学時代に剣道で全国大会を二連覇した後に高校でも一年にして全国制覇した彼女でも孤独と言うものには慣れていない。


 剣道は孤独な戦いと言うが、それでも仲間が、人が誰一人いないときなんてなかったのだ。

ましてや敵の姿さえ見えない。

そんな恐怖に遊李は押しつぶされそうだった。


 「この木刀がある限り私様は簡単には負けないとは思いますけど、流石に拳銃相手は厳しいものがありますからね。流石に仲間の一人は作るべきですかね。

裏切られて死ぬにしても、孤独に拳銃で死ぬのも確率は半々。タチの悪いギャンブルです」


 孤独を紛らわすためにそんな風にしゃべり続ける遊李。

それに釣られて現れる影もない。


 「しかしなんですかね、この建物。まるで町の一部分を切り取ったような通路です。と言うよりも、これはもしかして……」


 と、遊李が何かに気付いたときに背後から足音が聞こえた。

勢いよく遊李が振り返ったときに既にその姿は見えなかったが、聞き間違いではない、そこの曲がり角に誰かがいるのだ。

唾を大きく飲み込み喉から声を絞り出す遊李。


 「そこにいるのは誰です。早く出てきてください」


 呼んだにも関わらず反応はなかった。


 仕方なく遊李は自分から向かうことにした。

両手で木刀を構えながら曲がり角へ近づく。

そしてもう少しで着くというタイミングで、曲がり角から小さな影が現れる。


 髪は肩に届くくらいの長さで前髪は姫カットと呼ばれるようなもの、そして体格は高校生女子の平均よりも低い遊李よりも更に低く、顔立ちも幼さを窺がわせた。

出てきたのがそんな少女で拍子抜けする遊李。

こんな少女では自分を殺せるはずがないと無意識に気を緩めていた。


 「どうしてすぐに出てこなかったんですか?」


 遊李が疑問を返しても少女は何も言わなかった。

それどころか携帯を構いだしたのだ。

それに遊李は若干の苛立ちを覚え、木刀を握る力を少し強める。


 少女は携帯の画面を遊李へと向けた。

罠かと疑ったが考えすぎと結論づけ、遊李は少女へと近寄り画面を覗く。


 『私の名前は園影(そのかげ) (はな)と言います。私は声を出して喋ることが出来ません。なのでこう言った形式でお話をさせていただきます』


 「なるほど、それで私様を無視したわけですか。あと、私様の名前は入戸遊李、よろしくです」


 華は小さく頷いた。


 その事実を知ってしまうと遊李は体の力を抜いていた。

遊李が気にしていたのはそんな小さな問題だったのだ。

小さな少女を人殺しだと勘違いしてしまうなんてやっぱり精神が弱ってきているのだろうと結論づけると遊李はため息を吐いた。


 それから華はまた携帯を構い文章を打つ。

流石に打ちなれているようですぐに文面を覗くことが出来た。


 『私はさっきメールをもらいました。違う建物の人からです』


 どうやら打つのが速かっただけでなく、文章が少なかったのもあるようだ。

遊李が確認したのを確認してから左手で携帯のキーを打つ。

そして携帯の画面を遊李の目の前に伸ばしてしっかりと文字を見せた。


 『入戸遊李と言う方が犯人と言われました』


 「どういうことです? ……!」


 と遊李が言った途端に携帯の画面が視界から離れていき、代わりにナイフが飛び込んできた。

その事実に気付くよりも早く遊李は反射的に回避行動をとる。

だが回避が間に合わず、制服のシャツが切り裂かれた。

そこから下着が見え、肌も少し切れていたが遊李はそこを気にしない。


 「そ、そんな……! なんでなんで!」


 人を信用としていたのにそれを裏切られた。

そんな虚しい気持ちで遊李の胸の中はいっぱいだった。

悔しさと悲しさが入り混じり、そこに怒りが継ぎ足される。

再度木刀を握る力が強まった。


 「私様を、私様を裏切るんですか!」


 それは遊李の心の底からの怒声だった。

その怒声を聞いただけで華は涙目になり自分の右手を見る。

握られていたのは微かに血で汚れたナイフ。


 「……。…………ッ! …………ッ!?」


 自分がしたことを思い返したのか声にならない叫びをあげる。

頭を抱え、ナイフを投げ捨て床に(うずくま)る。

その様子を見て遊李はナイフを拾って殺してやろうかと考えていた。

だがそれをしては自分もゲームに乗った愚か者になると思い止める。


 「今回は見逃します。私様は違いますから。……と言っても無駄でしょうけど」


 それだけ言い残し遊李は華を背にしてその場を去った。

この件で遊李は一層警戒心を強める。

そして一つのことを再認識した。


 ――――あの事件の時のようなことにはなりたくない。私様は、強い、強くなったんです。


 ――――だから、だから。


 「私様の身は、私様自身で守るしかないんです」


 少女の決意が小さく道に響いた。

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