【GameStart】3
春と悠花は資料室で合流してからお互いが持っている武器の情報をシェアした。
悠花が持っていたのはアプリCだったため、お互いの携帯にそれをダウンロードする。
アプリが入っていたのはSDカードのようなもので、それを携帯に入れることで自動的にアプリが追加される仕組みだった。
それから携帯に入っていたアドレスの二人にメールをし協力を仰いだのだった。
違う建物にいた三人の協力はありがたいもので、実質的に仲間が五人になっている。
それは春と悠花に安心感を与えていた。
「ここまで上手く行くとは思ってなかったな、正直」
「だよね。でも油断しちゃだめだよ、春くん」
「わかってるっての」
春はそう言い、二人は笑いあった。
それから二人は近くの部屋を捜索し始めた。
アイデアはメールで湊からもらったものだ。
それを三十分ほど続けた結果、ナイフに乾パンを見つけていた。
あまり多くなりすぎても持ち運べない為、次の部屋でラストにしようと入った部屋に入る。
さっきまでと同じように段ボール箱を漁り武器または食料を探す二人。
「ダメだ、こっちは収穫なし」
春が感嘆の声を上げる。
それと対照的に悠花は「あるもの」を見つけ黙り込んでいた。
その様子を見て春は不思議に思い悠花に近づく。
「どうした、気分でも悪く……。ああ、そういうことか」
悠花が手に持っていたものは余りに日常離れしているモノだった。
無機質で、残酷なそれは黒光りして金属特有の質量を感じさせる。
悠花が手に持っていたもの、それは拳銃だった。
正確に言うならばベレッタと呼ばれるそれはバットなどとは比べ物にならない戦闘兵器だ。
力がない者が使っても強者に勝つことが出来るバランス破壊の武器でもある。
そんなものがこんなにあっさりと見つかってしまったのだ。
「殺し合いってのは覚悟してたけど……こんなのまであるってのは聞いてねえぜ、おい」
だがバットなどで殺すよりもそれが効率のいいものだということは確かだ。
銃身を人に向けトリガーを引くだけでいとも簡単に殺せてしまうのだから。
「春くん、これ、どうするの?」
いつも通り気丈に振舞っているようで声が震えている。
そんな悠花の手から春はやや強引気味にベレッタを奪い、制服のポケットに差し込んだ。
「俺が持っとく。悠花は使えないだろ、多分」
「うん、そうだけど……。本当に持って行かなきゃダメかな?」
殺し合いをしたくないという悠花の思いは痛いほど春に伝わっていた。
だが同時にそれで持ち歩かないと言うのは甘すぎると言うことも痛感していた。
持っていくしか選択肢はないのだ。
持っていかなければ誰かに持って行かれてしまうのだから。
「そう……だよね。仕方ないんだよね」
そんな風におびえる悠花に春は声をかけられなかった。
春自身もこんなものがあった現実を見つめきれていない。
春は気を紛らわすためにズボンの右ポケットに入ったそれを取り出し、ストックを取り出し弾数を確認した。
装弾数は10発。
撃つ時の反動を春は知らないがそれでもこれだけの弾数があれば一発は当たるだろうということは感覚で分かっている。
右手に握ったそれが何人もの人を殺せるという事実から目を背け、ポケットにそれを仕舞い込んだ。
「……行くか」
「うん」
二人は顔を見合わせないままその部屋を出た。
廊下に出るとやはり人の気配は全くせず、虚しく二人が歩く音だけが響いている。
ゲームが開始してもうすぐ一時間が経過するにも関わらず二人は、他のプレイヤーに遭遇していない。
建物の広さと人数を考えれば当然と言えば当然なのだが、二人はこれだけ会わないと自分たちしかいないのではないかと言う錯覚に陥っていた。
「なあ、悠花」
そんな空気に耐えられず春は話を切り出した。
悠花も話しかけられそうと予想していたのか、特に慌てる様子もなくいつも通りに言葉を返す。
話しかけたはいいが、特に話の種を持っていたわけではない為言葉に詰まる。
瞬間的に思いついたのはさっき手に入れたアレについてのことだった。
「料理」
「え?」
「料理出来るよな、悠花。あとで作ってくれよ、それで」
悠花の制服のスカートの周りにベルトのように巻かれたそれはナイフなどを見つけたときに一緒に見つけたものだ。
ホルダーが両サイドに二つずつあり、そこに悠花は包丁とナイフを刺していた。
西部のガンマンの現代版と言ったところだろうか。
「……ほんとに春は平和主義だね」
「羨ましいか?」
「うん」
そんな会話をしていると二人は階段に辿り着いた。
上へ登って行くか、下へ降りるか迷った結果上へ行くことにする。
理由は特にないようだ。
上と下両方に気を向けながら二人は階段を登って行く。
二人が登った先は下の階と同じように学校の廊下のような道が続いていた。
階段がまだ上にも続いているため、ここは三階のようだ。
「どうする、上に行くか?」
「いや、ちょっと休憩したいかも」
「だな。連続してこの集中は辛い」
二人は苦笑いして階段から少し離れた部屋へと入って行く。
入った部屋は偶然にも調理道具などが置いてある家庭科室をモチーフにした部屋だった。
調理台の引き出しを確認すると中には一般的な調味料、まな板に包丁があった。
流石に油やガスなどはなかったものの、簡単な調理をするには十分な環境だ。
春が部屋を更に詮索するとキャベツやキュウリ、トマトと言った野菜や水のペットボトルもあり更には、電気ケトルと言うお湯を沸かすためのものまであった。
それを春は最善の状態で殺し合いをしてもらうためのものだと判断する。
邪推にも思われたそれは予想外にも運営側の思うところで、春はまた妙な勘の良さをしていた。
「じゃあ……軽く何か食べよっか。サラダと乾パンでいい?」
「まあないよりマシか」
二人は見合って再び苦笑いをした。