【GameStart】2
春とは別の建物に入れられた青年、鏡峰湊も目を覚ましていた。
こんな状況でも冷静を保って自分の置かれている状況を速やかに把握している人間性は中々に完成されたものと言えるだろう。
ルールを把握し覚えるのにもそう時間はかからなかった。
湊に支給された武器はスタングレネードだった。
そのためか支給された携帯には『スタングレネードの使い方』と言うメールも送られていた。
当然とでもいうようにそれもすぐに覚える。
「……そして監視カメラか。ふん、俺らが殺し合いをしている様を見て楽しんでいると言ったところか。
相手は金を持て余した馬鹿な貴族か? それともこの様子を動画配信でもしている狂った馬鹿か。どちらにせよまともな頭を持った人間のやることじゃないな」
そんな風に仮定して教室を出る湊。
今後の行動方針としては戦闘禁止時間中に出来る限り人と会い協力者を募ろうというものだった。
当然裏切られる可能性なども加味し、協力者は厳選する。
十分ほど歩きながら足音の響く距離からおおよその建物の広さを考察する。
その結果この建物は一片が100メートル程の四角形型の建物だという結果が出た。
大型スーパー程の広さでその上迷路のように道が入り組んでいることから、仲間探しは難航するものかと思われた。
だが最初の仲間は突然現れた。
「あれ、湊くん? 湊くんじゃん、多分一日ぶりだねぇ」
「……なんでお前までここにいる」
「そんなの私が聞きたいよー。なんで私ここにいるの?」
滋賀井初音、湊の幼馴染もまたこの建物に、このゲームに入れられていたのだ。
数年一緒にいた幼馴染を見間違えるわけも、その声を聴き間違えるわけもなくそれは間違いなく滋賀井初音だった。
それから近くの部屋に入って初音がどれだけゲームについて理解しているかを計ることにしたようだ。
その結果、初音はほとんど理解していないということが解った。
頭を抱える湊。
仕方なく1から説明する。
数回の説明でようやく理解したようで、それからようやく二人は行動を開始した。
最初は出来る限りの部屋に入りながら情報を手に入れるする二人。
部屋に入っては出て入っては出てを繰り返して十分してようやく目当ての物を見つける。
それは木箱だった。
湊にはゲームが開始してから腑に落ちないことがあった。
それは、最初に支給された武器だけではとてもじゃないが殺し合いが出来ないということだ。
ナイフやミニリボルバー、それにバットなどでも殺し合いは出来るだろうがそれでは一方的な殺害、殺し『合って』はいない。
と言うことはどこかに殺し合いをさせられるアイテムを置いていると考えたのだ。
そしてようやく見つけたそれにはやはり目当てのものが入っていた。
「包丁に釘……それにこれは鍋の蓋か? 何に使うんだこんなもの」
「こっちには乾パンとカロリーメイトあったよ!」
結果、その部屋で見つけた物で湊と初音が持っていくことを決めたのは包丁と二種類の食糧だった。
食糧は一日歩き続ける中では必須と言えるもので、もしはぐれたことも考え二人は一種類ずつお互いが持つことになった。
「そう言えば初音、お前が支給された武器はなんだ?」
「私が支給された武器は拳銃だったから、物騒だし使えそうにもないし、部屋に置いたままだよ」
「ミニリボルバーを置いたままだと!? 何を馬鹿なことをしている! 早く案内しろ、他のやつにとられてからでは遅いぞ!」
「えっ、そんなに大事なのっ!? 隠しておいたから簡単には見つからないと思うけど……」
「それがもし皇帝か悪魔のプレイヤーに奪われればすぐに殺されてしまうんだぞ!?」
「あっ本当だ!」
「この馬鹿が!」
二人は急いで初音が目覚めた部屋へと戻る。
だがその部屋の掃除用具箱のバケツの中に隠したミニリボルバーは既になく、誰かに持っていかれたようだった。
壁を叩きながらそれを悔やむ湊。
自分がもっと早くに気づいていればよかったと歯噛みするが状況は何も変わらない。
「ご、ごめんね湊くん」
「いやいい。早く気づかなかった俺のミスでもある。気にするな」
と言ったものの湊の精神的余裕は少しずつ奪われていた。
初音もそれに気づいていたが自分が原因と言うことでなんと言っていいかがわからない。
この状況下は段々と二人の精神を蝕んで行っていた。
「……私じゃなくて愛良ちゃんが生きてればこんな状況も変わってたのかな」
不意に呟いた初音の言葉。
愛崎 愛良、それは湊と初音の幼馴染だった。
だが湊たちが高校一年の時に通り魔に殺された。
「それは違う」
「そう……かな……」
愛良の存在は死んでもなお二人の中に残り続け、生き続けている。
それだけ大きな存在だったのだ。
大きな存在だったのは湊と初音の中でだけではなく、愛良の死は色々な人間に悔やまれた。
「愛良が死んだのは通り魔が悪い。お前は悪くない、わかったな」
その言葉に初音は無言で頷くだけだった。
二人はその後も人を探し、無機質な道を通りながら部屋を出入りしていた。
だが武器と言えるような武器は中々見つからず、二人の精神を更に蝕んでいく。
そんな中、初音の携帯のバイブが着信を知らせる。
初音は慌てて携帯を操作しメールを開く。
送り主の名前は暁 悠花と出ていた。
件名はない。
『始めまして。私はあなたとは違う建物にいるゲーム参加者の暁悠花です。
私は今夕凪春とチームのようなものを作ろうとしています。
よかったら仲間に入りませんか?』
そんな本文だった。
メールを見て湊は失念していたことに気が付いた。
「そうか、仲間と言っても同じ建物である必要はないのか。それこそリスクは高まるが違う建物の情報をもシェア出来ると考えれば悪いものではないか……」
「どうするの湊くん?」
湊は思考する。
初音がおらず湊一人ならばとりあえず仲間になっておいて、相手の腹を探りながら行動するという手が使えるが、初音も一緒にいるとなれば別である。
その理由としては相手の逆上で狙われるのは間違いなく初音だからだった。
だが見返りが大きい分多少のリスクは覚悟しなくてはいけない。
ましてや相手は携帯でしか繋がらない相手である。
結論的に湊はそれを承諾することにした。
デメリットよりもメリットの方が大きいためだ。
裏切られる可能性を考えても、本当に相手が二人であれば裏切る理由がない。
もし偽って一人であっても、結局誰かを仲間にしてそいつの携帯を使い他のやつらをけしかける必要があるため非効率的だった。
それらを考えて湊は仲間に入ることを承諾したのだった。
返信の際には初音だけでなく湊もいることを伝えた。
その返事をしてから数分後再びメールが届く。
『そっちの建物にいる天宮 庇樹と言う人にもメールをしておきました。
そちらも承諾してもらったので、そちらの建物は三人で協力してください』
「おっけーですよーっと」
まったく思考せずに答えた初音に湊は頭を抱えた。
「お前は少しは考えろ」
「でもどうせ湊くんも同じこと考えてたんでしょ?」
「……まあ、そうだが」
「幼馴染の考えてることくらいわかるよーだ」
初音がニカッといつも通りの笑顔で笑った。
それを見て湊はようやく初音も自分もいつもの調子に戻ってきたことを感じる。
――――この異常な環境下でいつ疑心暗鬼になってもおかしくはないからな。こうやっていつも通りに戻れて本当に良かった。
湊も顔の筋肉が緩んだのか笑顔が零れていた。
それを見て初音はまた笑う。
そんな二人を見ているカメラの向こうの人間がつまらなそうにしていることは二人は知る由もなかった