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リベンジゲーム  作者: 明兎
GameStart
3/20

【GameStart】1

 夕凪春は目を覚ました。


 未だに重たい体を起こすとそこが学校と言うことがわかったようだ。

そしてその後すぐに、それが学校ではなく、学校を模した建物だという考えに至る。


 立ち並ぶ机と椅子も、前と後ろに二つある黒板も学校にしか見えない。

掃除道具箱なんてものや、天井が穴の開いているものであったりすることも細かかった。

だが、それでもそれが学校でないということが春にはすぐにわかったのだ。


 ――――人のいた形跡がない。


 その一点だけが学校でないことを決定づけていた。

人が置いて行った教科書もなければ、落書きされたり傷ついた机もない。

天井や掃除道具箱やロッカーも新品をそのまま当てはめたような綺麗さ。

それら全てが理由だった。

ただ黒板には大きな文字で「Lets Revenge Game!!」と書かれているのがそれを否定できる要因だろうか。


 「で、ここはどこ? この平和大好き夕凪くんが何したって言うんだよ……」


 記憶を辿って行くこと一分弱、ようやく春はこの状況になってしまった理由を思い出す。

そう、全身黒ずくめの人間に誘拐されたのだ。

誘拐、そして監禁。

間違いなく犯罪だった。


 「おいおい、平和に生きたいだけの俺がどうしてこんなことに巻き込まれるんだよ」


 大きく項垂れる春。

だが春はそこで、誘拐されたときのことを更に思い出す。


 「悠花も誘拐されてる……。クソっ、だとすれば早く助けないと!」


 あの事件の悲劇を再び繰り返さない為に春は教室を飛び出そうとした。

だがそこで黒板の前の教卓に何かが置かれているのを視界の端に入る。

急ぐ気持ちはあったが、そこに何か手がかりのようなものを求めて見ることを決める。


 机の間を掻い潜って教卓の前にまで立つ春。

そこに置かれていたのは「携帯電話」と「バット」だった。


 その携帯電話は春が持っているものとは違うもので、少し古い機種の様だ。

携帯電話を見たことで改めて自分のいつも持っているものが無くなっていることに気が付く。

まず第一に学校に持って行っている鞄がないし、更には自分の携帯、更には愛用の音楽プレイヤーもない。

恐らく誘拐犯に全て没収されたのだろうと、春は結論付けた。


 携帯電話を開き中身を確認するとメールが4件届いていた。

件名は『ゲームルール』や、『建物について』などで一見意味が解らないものだ。

しかしこれもヒントかと思い、一番古いメールを開く。



 『これをご覧になっているということはゲームに参加したということになります、おめでとうございます』



 そんなよくわからない一文からメールはスタートした。

春の中には『ゲーム』とはなんだろうという疑問が渦巻いているがそれはこれを読んでいけば解決すると思い読み進める。

やたらと改行が長いため、携帯電話本体の横に設置してあるサイドボタンのスクロール機能が便利だった。



 『このゲームのプレイヤーは全部で12人。

12人のプレイヤーはそれぞれ【建物α】に6人、【建物β】に6人が収容されています』



 「じゃあこの建物だけで俺以外にも5人がいるってことか。何のためにそんな人数が……?」


 呟きながらサイドボタンで画面をスクロールしていく。

そして次に表示された項目で春の疑問は解決する。



 『ゲーム内には他のプレイヤーの殺人を目的とする【悪魔】と【皇帝】のプレイヤーがおり、その二人を殺すことでゲームクリアとなります。

もし、【悪魔】と【皇帝】を24時間以内に殺害できなかった場合ゲームオーバーとなり他のプレイヤーはルールに殺されることになります。

【悪魔】と【皇帝】の両名のクリア条件は生き残ることだけであり、殺害をするかしないかは基本自由となっています。なので気まぐれで生き残る可能性もあるかも!

そしてこの建物内での犯罪行為は全て不問となり、外に出ることはありません』



 その文字を見た瞬間に春は腰を抜かして床へと倒れた。

携帯を持つ手がガクガクと震えているのが解る。

頭のどこかではわかっていたのに、それを改めて実感したことで恐怖の浸透が進んでいた。


 「こ、こ、殺す、殺すって書いてあるのかよこれ!? ふざけんな、ふざけんじゃねえよ! そんなこと出来るかよ!?

それに殺されるってのもなんだよ!? そんなことが合ってたまるか!」


 春の叫びは虚しく教室の中で響く。

返事を返す者はいない。


 そしてその分を読んで初めて一緒に置かれていたバットの意味を知る。

これで自分の身を守れと言うことだろう。

これで殺せと言うことだろう。

身近にあるものが殺し合いの道具に発展すると言う事実に体の震えが更に増していく感覚を覚える春。


 「犯罪行為の許可ってルールも殺しを誘導してるんだろうな……」


 それに気づいたときに体の震えはもう一段階増していた。

殺し合い。

殺さなければ殺される。

人生で初めての体験に頭が追いついていなかった。


 体の震えを止め、気分を落ち着かせるために春は大きく深呼吸した。

数度繰り替えし脳が平常運転に戻りつつあるのを確認して、教卓を手すり代わりにして起き上がる。

そして携帯のスクロールを進めていった。



 『ゲーム開始から2時間経過するまで戦闘行為を禁止する。なおゲーム開始時間は0時丁度とする』

 


 その一文を確認してから春は画面の右上に表示されている時間を確認する。

現在の時間は0時27分だった。

起きる時間なども計算して眠らされていたのだろう。

同時にこのゲームがそれだけ計算されたゲームだということがわかる。


 ――――……何を計算されたゲームなんだこれは?


 殺し合いをさせるゲームだということは判明しても、何故殺し合いをさせるのかが判明していない。

もしくはそんな目的さえもないのかもしれないと言うものを一先ず結論として思考を止めた。

携帯の画面がどんどん下へと下がって行く。



 『ゲーム参加者全員が携帯電話を持たされていて、それを使い特定の携帯一台(アプリの機能により本部とも)とメールすることが可能です。

特定の一台とは初期に配置された建物が異なる人間が対象となり、他の人物とメールできる相手が同じということはない。

アプリを使用しない限りはその一台と本部以外にメールを送ることは出来ず、受信することもできない。』



 「この携帯にメール機能があるのか? なんのために……?」


 何故かと考える時間が勿体ないと感じ始めたため思考をすぐに打ち切る。

何を考えたところで生きて帰るしかないのだ。

二人のプレイヤーを殺して生きて帰るしか。


 ここまでが一件目のメールだった。

続いて次の『初期配布物について』を開く。


 『ゲーム開始時にランダムで武器もしくは携帯用アプリが配布されています。

初期配布武器またはアプリは、

・バタフライナイフ

・ダガーナイフ

・木刀

・ペーパーナイフ

・ミニリボルバー(22ロングライフル弾5発)

・スタングレネード(3個)

・スタンロッド

・バット

・携帯用アプリA『シャッター・オン・シャッター』カメラ機能を使用することで、連動してシャッター稼動

・携帯用アプリB『トークスティール』電話で特定の相手に掛けることで通話終了後5分間その携帯となることが出来る。ただし対象の相手は周囲10メートル以内にいてはいけない。

・携帯用アプリC『ピースキーパー』各携帯に付きこの機能は二回しか使えない。この機能を使うことで十分間の間使用者のいるフロアでの武器の使用が禁止となる。これは周囲五メートル以内に人がいる場合は発動できず、これを発動し放送が始まってからでないと効果はない。

・携帯用アプリD『PS2(プレイヤーサーチサービス)』アプリを起動することで建物内にいる指定したプレイヤーの位置情報を表示させる。』



 こう見てみると自分の武器は平均的なレベルだったのだろう、と春は考えた。

ナイフなどよりもリーチがあるが、グレネードやアプリに比べると便利さもない平均的なレベル。

突出するものもなければ特別劣るものもないのだ。

ただ一つ問題点を言えば持ち運びが不便と言うことくらいだろうか。


 「にしてもアプリ持ちのプレイヤーは有利そうだな。シャッター起動……は便利か微妙だけど、携帯偽装や強制武器使用停止機能、それにプレイヤーサーチか」


 いずれにせよ敵に回したくない機能ばかりだった。

それで二件目のメールは終わり、三件目のメール『建物について』を開いた。

これもまた改行が少なめで、画面に全文が写りこんでいた。



 『ゲーム開始時はプレイヤーは二つの建物(【箱α】と【箱β】)に分けられて入れられています。

前述したようにそれぞれの建物に人数は6人ずつ入れられています。

各建物で合計4人以上の死亡者が出た時点、または12時間の経過で箱αと箱βは繋がれる。

悪魔は【箱α】に、皇帝は【箱β】に入れられています。

 備考ですが、自分がどの建物に収容されているかはアプリの機能で地図を見た場合に、そして建物内にある地図を見た場合に限りわかります』



 「てことはあと11時間もすれば悠花とは絶対に会えるわけだ。……生きてれば、とか考えたくはないな」


 春は人を殺す気はないが、それでもゲームに乗ってくる者はいるはずだ。

【悪魔】と【皇帝】のプレイヤーだけでなく、好奇心などで殺しを行う者もいるかもしれない。

特に春は通り魔事件の被害が身近で起こっていたためそんな考えをしてしまう。


 「次で最後のメールか。とんでもないことが書いてないといいな……」


 三件目のメールを閉じ、最後のメール『プレイヤーの判別方法』を開いた。

また分量が少なく、たったの3行だ。



 『【皇帝】と【悪魔】を選別する方法は死んだあとに携帯に届く死亡者通知のメールでのみわかる。

【皇帝】と【悪魔】のプレイヤー以外のプレイヤーが死んだ場合は通知はされないが、

【皇帝】と【悪魔】のプレイヤーが死んだ場合は「【皇帝(悪魔)】のプレイヤーが死亡しました」という文章が通知される。』



 「てことは殺すまで誰が皇帝や悪魔のプレイヤーかわからないってことかよ!? それじゃあ最悪11人も殺さなくちゃいけないのか……。殺せるかよ、そんなに……」

 

 11人どころか1人も殺せるか怪しい。

と言うよりも殺せなくて当然なのだ。

犯罪が許可されたからと言って、殺してもいい免罪符が出来上がっていると言って、実際に殺せるのは一握りの人間だけだ。

常識から逸脱した一部の人間のみ。


 「クソ! 悠花と一緒に生きて帰るためには殺さなくちゃいけないのかよ……。最低でも二人を……」


 教卓を思い切り叩く春。

だがこのゲームで生き残るためにはこの部屋に居続けるだけではいけない。

部屋を出て戦闘禁止時間中に建物の構造を把握する必要があった。


 「出来るなら仲間も作りたいところなんだけど……。まあそれは運が良ければでいいかな」


 こんな状況で仲間になれと言われて二つ返事でオッケーする者は少ないだろう。

なにしろ疑心暗鬼で誰もが敵に思えるような状況だからだ。

春も悠花と生きて帰るという状況が成り立っていなければ、疑心暗鬼に陥っていただろう。

そういう意味では運が良かったと言えた。


 メールをもう一度確認しある程度暗記する。

携帯をポケットにつっこんで、バットを右手に持ち教室を後にすることにした。

携帯を確認するとゲーム開始から既に45分も経過している事実を受け入れドアの前に立つ。

そしてドアの上部に何かカメラを見つけた。


 それを見た瞬間にこのゲームの意図を春は理解する。


 「そうかよ……。人間同士が殺し合いをするゲームを見て楽しむためかよッ!」


 カメラの向こうで俺を見つける人間の姿を想像して春の苛立ちは更に増す。

教室をぐるっと眺めるとパッと確認しただけで3つほどのカメラが見えた。


 「本当に悪趣味なゲームだ……。テメェら、俺は絶対に生きて帰ってやるからなッ!」


 カメラに向かって舌を出しながら中指を立て春は教室を後にした。

その行動によって更にカメラの向こうの人間が湧いたことを春は知る由もない。



 それから数分の間春が寝ていたフロアを回ってみたがわかったことがあった。

この建物は春の想像以上に広く、大型ショッピングセンターくらいの大きさがあることだ。

その上十分ほど歩いても建物を4分の1ほどしか歩けないくらいに道が入り組んでいる。

教室と同じように廊下も学校のような作りになっていて、いつもの日常のような錯覚を覚えた。


 窓から見えるのはシャッターのみで外側からシャッターで外の風景が見えないようにシャットアウトされているようだ。

窓ガラスの厚みも普通のガラスよりも何倍も厚く、恐らく防弾ガラスなのだろうと容易に想像させた。

それと同時にこの建物内にミニリボルバーと呼ばれている銃以外にも拳銃があるということを簡単に示唆させる。


 これだけ広い建物であるにも関わらず窓の桟や廊下の隅に埃が溜まっていないことから、普段から清掃をしている、もしくは作られたばかりと言うことだろう。

恐らく後者であると春は考えた。

その理由はこんな悪趣味なことをする人間のことだから、そのためだけにこの建物を作るということも容易いはず、と言う偏屈なものだ。


 建物を歩いているうちに資料室と言うものが見つける。

プレートの掛け方がまた学校のようで、かなりのこだわりがあるように思えた。

ドアを開けるとそこには教室の半分くらいの部屋が広がってる。

だがしかしその瞬間春は視界の中に動く何かがいたことを見逃さなかった。

元々足音が聞こえていたのかそのシルエットまで確認することは出来なかった、大よその場所は判別できた。


 ――――しかし攻撃する気がないってことは、俺寄りの考えの人間なのか……?


 そんなことを考えながら春はバットを両手で握りながら隠れていると思われる場所へと近づいていく。

隠れているのは掃除用具箱だった。

隠れる場所としては定番だろう。


 そして意を決して掃除用具箱のドアを開けた。


 「や、やめて、殺さないで……!」


 そこにいたのは制服を着た少女だった。

春と同じ学校の制服で髪型はお下げ髪と呼ばれるもの。

そして何より見慣れたその顔。


 「は、悠花?」


 「……え? 春……くん?」


 ――――そこにいたのは暁悠花、俺の幼馴染だった。

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