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リベンジゲーム  作者: 明兎
開幕前夜
2/20

プロローグ2

 とある大学に通う青年、鏡峰(かがみね) (みなと)は苦悩していた。

真横で講義の途中だというのに爆睡している幼馴染、滋賀井(しがい) 初音(はつね)を起こすべきかで頭を抱えていた。


 さっきから教師がちらちらと視線を送り、「早くその馬鹿を起こせ」と言う意思を感じるのだが面倒で流している湊。

それもいよいよ限界で起こすべきかと思いつつも、やはり面倒だと思う気持ちが拮抗する。

恐らく湊と数人にしか聞こえていないであろういびきもその要因の一つだ。


 「おい、初音。そろそろ起きろ」


 目線は前に向けたまま初音へと呼びかける。

もちろん返事はない。


 「聞こえてないのか初音」


 「うーん、お金をくれると嬉しいかなあ」


 その言葉に湊は苛つきを露わにし始める。


 「いい度胸だな、初音。人に起こしてもらっておいてあまつさえ代金まで要求するか」


 湊の額にピキピキと青筋が浮かび上がっているのが見て取れた。

そして湊の思考は「どう目立たないように起こすか」から「とりあえず起こす」に変わる。

良く考えれば席は一番後ろの列で目立ちにくいのだ。


 「起、き、ろ、初音」


 頬を思い切り抓りその痛みで起こすのが一番早いと湊は判断した。

予想以上に初音の頬は伸び少し面白くなってきて、湊は上に下に何度も引っ張る。


 「早く起きろ、目立つだろうが」


 「ふぁふぁふぁ、それ以上は何もでないですよぉ、お兄様ー」


 「お前に兄貴などいないだろう」


 抓っていた手を離し頬にデコピンをする。

それが決定打になったようで初音はうっすらと目を開けた。

口の周りに唾が垂れていて見ていられなかったため、ハンカチを渡す。


 「おはよー湊くーん」


 「まったく、お前は何をしに大学に来てるんだ?」


 呆れてため息を吐く湊。

初音の天然は今に始まったことではない為流石に見捨てたりはしない。

むしろ微笑ましいくらいだ。


 「うーん、寝るため?」


 「この大学落ちたやつが聞いたら間違いなくお前の首を狙いに来るな」


 とはいえこのレベルを超えてくると天然と言うよりも馬鹿だな、と湊はうそぶいた。



 午前中の講義が終わり食堂に行って昼飯を食べる湊と、教室で友人と弁当を食べる初音は別れた。

道がてら湊は今日の日替わり定食はなんだったかなどを思い出す。

思い出せないため、丼ものだったら注文するとしようと人並みなことを考える。


 「確か今日の日替わり定食ってかつ丼だったよね?」


 と目の前を歩いていた先輩と思わしき女性が、湊の思考を読んだような発言をする。

黒髪のポニーテールを揺らして歩く姿は凛としていて女性であることを忘れてかっこいいと思わせた。


 「いや、うどんだった気がする」


 「それ明日じゃないっけ?」


 「そうだっけ?」


 聞いていても結局答えは出そうになかった。

先輩二人を横から抜いて、食堂へと向かう。


 食堂にはいつも以上に人があふれていた。

理由はわからないが、いつもよりも二割増し程度。

そしてその理由が今日の日替わり定食が人気のメニューである塩とんこつ醤油ラーメンだからだと立てかけてある看板を見て気が付いた。

湊の予想も二人の先輩の予想もまるで違っていた。

うどんと言っていた先輩が唯一ニアピンと言ったところだ。


 「にしても塩とんこつ醤油ラーメンなんておいしいのか? ……物珍しさで頼んでるやつが多いんだろうな」


 そう結論付けると大人しく食堂を後にして、次の講義が終わってからパンでも買って食べることにした湊。

帰り道も食堂に向かう人が多く、うっとおしく感じたこともありいつもとは違う道から教室へ向かう。


 途中で発見した自販機で缶ジュースを買うために財布を取り出し、炭酸飲料を購入する。

喉に含むと炭酸が弾け、喉にわずかな痛みを与えた。


 「流石にこれではごまかせない……か。まあ、その場しのぎくらいにはなった」


 飲み終わった缶を横にあったゴミ箱に投げ入れ、再度教室へと向かった。

ポケットに両手を入れながら、いつもは通らない渡り廊下を歩く。

あえて人の少ない道を選んだため人がいないのは当たり前だ。

だが、何か言いえない違和感に湊は襲われていた。


 その違和感の正体は渡り廊下を渡り終えたときに判明する。

この渡り廊下周辺が全て看板によって通行止めされているからだ。

意図的に作り出された無人。

それに対して警戒心を表向きにしない程湊は平和人ではなかった。


 「誰がこんなことを……? いや、それよりも何のためにか」


 「僕が、僕の目的のためにと言うことではダメかな?」


 湊の背後から突如声が鳴る。

瞬間的に距離を測り、振り向き様に裏拳を打つ。

しかしそれは簡単にガードされカウンターで腹に膝蹴りを打ち込まれる。


 視界の端に捉えた人物は全身が真っ黒に固められており、素顔はローブのようなもので隠れてうかがえない。

声はボイスチェンジャーか何かを使っているようで性別は判断できなかった。


 「ぐっ」


 その痛みに膝から落ちる湊。

更に追い打ちのように、背後から現れた二人に押さえつけられる。

じたばたと動いて抵抗するが自分と同等かそれ以上の力を持つ男二人の力には敵わず動きが止まる。


 「君は冷静な性格みたいだけど、惜しい感じだねぇ。残念、残念」


 そして湊の口元にハンカチのようなものが押し当てられる。

クロロホルムの類のようなものだと気づくのに時間はかからなかったが、抵抗が出来ない。


 ――――また! またわかっていても、何もできないのか俺は!


 口元に押さえつけられたハンカチに意識を奪われ湊の体から力が抜ける。

それを確認して三人のうちの一人が湊を抱えその場を去る。


 「これで全員かな。二人ともお疲れ」


 「ようやく仕事の半分が終わったってところか? あんたとの付き合いは長くなりそうだな、華宮さんよ」


 「それは愚痴なのかな?」


 にっこりと邪悪な笑みを見せるクッカと呼ばれた者。

クッカは黒い集団の中のリーダー、正確には雇い主である。

他の二人は先ほど言葉を発した方がケット、寡黙な方がヴァリスと言う。

三人は金で繋がり、目的で通じる程度の間柄でしかない。


 「……あまり長くいると見つかる。早く行くぞ」


 「相変わらず固いねぇ、ヴァリスは。もうちょっと俺みたく柔らかくいこうぜ?」


 「興味ないな」


 「アヒャヒャ、君たちは相変わらずバラバラだねェ。そんな二人を一緒に集めた僕は中々に酷い奴かもしれないね」


 心底愉快そうに笑うクッカを見て、背後にいる二人は苦笑いを返した。

黒い三人は通行止めをしている看板を持ち、ローブを脱ぎ乗ってきたワゴンへと戻る。


 「さあ、これでゲームの準備は整った。楽しませてくれよ、君たち。アヒャヒャ!」


 クッカはワゴンの後ろに積まれた11人の人間を見ながら再び大きな笑いを浮かべた。



 そして12人の殺し合いのゲームが始まる。

悪夢の中で、12人の男女は何を思うのか。


 結末はまだ誰も知らない。

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