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リベンジゲーム  作者: 明兎
GameStart
12/20

【GameStart】10

 結果的に言えば神使巫女徒は一命を取り留めた。

そう言うとやや大げさに聞こえるが、実際は血のほとんどは巫女徒のものではなかったと言うだけだ。

巫女徒の下に流れていた血は巫女徒が来る前にあった血と巫女徒の血がミックスされたものだった。


 「これだけしてもらえば大丈夫ですかね。ありがとうございます」


 もうすっかりよくなったようで顔色は元に戻っていないものの、立って動ける程度には回復したようだ。


 春の頭の片隅には巫女徒のではないならこの血液は誰のものだという疑問が残ったが、それはすぐに片付けられた。

部屋の前でこんな量の出血をする怪我をしたならば寝ている春たちにも気づくよう悲鳴が上げられるはずだ。

しかし、それはなかった。

つまりこれはフェイク。

ゲームを盛り上げるために誰かが争ったと思わせるための偽装だったのだ。


 そう決め付けるにはやや早計だったかもしれない。

だが春はあえて急いで決めて、このことはもう考えないようにしたのだ。

誰かが扉一枚隔てた先で傷ついたなんてのは考えたくない。


 春はまだそこから一歩を踏み出していなかった。

まだ、自分が何も出来ないという現実を見ることは出来ていなかったのだ。


 内心穏やかでないことを感じさせないよう必死に振舞う春。

だがそれも悠花の前では見抜かれていた。


 伊達に幼馴染をしているわけではないと言わんばかりに見抜いていた悠花だったが、それを言ったりはしない。

巫女徒が何を考えているか分からない状況で弱みを見せるのはよくないという判断からだった。

それは正解ではあったが悠花の中にはわだかまりだけが残る。


 「えーとで、ですね。話が脇道に逸れましたがあなたはこの事件の関係者なんですよね?」


 「そうですよ。それがどうかしました?」


 「いや、どうもしないんだけどさ。とりあえず、協力しませんか?」


 「嫌です」


 即答で断られてしまった。

それは巫女徒が元々単独で行動するつもりだったため仕方ないものだ。

だがそんなことを知らない春は巫女徒に説得を続ける。


 「なんでです? 協力はした方がいいでしょう、こんな状況なんですから」


 「私は協力なんてしません。仲間なんていると失ったとき辛いだけです。そんなのを感じるくらいなら……私は仲間なんて要らない」


 巫女徒の言う仲間、それはあの事件で死んだ愛崎愛良のことだろう。

それを言われると春も悠花も何も言い返せなかった。


 「それに、あなたたちも仲間が人を殺すのは見たくないでしょ? 私は【悪魔】のプレイヤーである水原玲を殺さなくてはいけないんです」


 「悪魔のプレイヤー? もう特定しているんですか!?」


 「はい、相手から言ってきたから間違いないと思います。……あの事件の犯人でしたから、そうでなくても殺すのですがね」


 そう言った巫女徒の表情の端から狂気が感じ取れた。

事件のときから押し殺していただろうその殺気が。


 「そう……ですか。じゃあ、残念ですが一緒に行動するのは控えましょう。また、縁が合えばよろしくお願いします」


 「うん、私もあなたたちに借りは返します」


 そう言い巫女徒はどこかへ立ち去った。

その後ろ姿は戦場の戦士のように、悲しく虚しい、孤独な背に見える。

引き留めよう、そう思った春だったが結局言葉が見つからず見送った。


 それから十分が経過した。

二人はまだ動く気になれずその場に停滞し続けている。

だがその静寂を切り裂くように足音が鳴った。


 その音の先には右腕から血を流す少女がいた。

二の腕の部分が大きく切り裂かれており、そこから垂れた血が廊下を這っている。

血が這っているそれがまるで蛇の軌道のようで気持ち悪い。


 「おい、大丈夫かよ!」


 だが春はそんな風に思いつつも傷ついている少女を見逃せず駆け寄る。

それが罠だということなんて一切感じずに。


 その異変に一番最初に気付いたのは初めから疑っていた悠花だった。

巫女徒から【悪魔】のプレイヤーがいると聞いていたのだから疑っていたのだがそれが結果的にいい方向に進んだ。


 「春、危ない!」


 「は?」


 悠花が叫んだ後か、はたまた春が呆気にとられた声を上げた後か。

その直後にその少女、園影華はナイフを振るった。

軌道はまっすぐと春の首筋を狙う。


 それを間一髪のスウェーで躱した春はそのまま華との距離を取る。

二人のにらみ合いが続く。

そのにらみ合いを裂くように華はポケットから携帯を取り出し、あらかじめ準備しておいた文章を見せつけた。


 「犯人は貴方たちですね? 生きるために殺します」


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