七時三十分起床、遅刻は減点
朝、目が覚めると、枕元に連絡帳が置いてあった。
母の字で「七時三十分起床。遅刻は減点」と書かれている。僕は寝ぼけまなこでそれに目を通し、返事の欄にシャープペンシルで「了解しました」と書き込んだ。
部屋を出て廊下を進む。
食卓には、給食着を着た父が座っていた。白い帽子をかぶり、マスクを顎まで下げて味噌汁を啜っている。
「おはよう。今日の当番、お前だぞ」
父はそう言って僕に配膳用のエプロンを投げてよこした。僕はそれを頭からかぶる。台所から母が「日直、号令かけて」と声をかける。僕からは立ち上がり、家族に向かって「いただきます」と号令をかける。三人で手を合わせる。
その後、身支度を整えて――。
家を出ると、住宅街のあちこちから児童たちが同じように歩いてくる。誰もが手提げの弁当袋を下げていた。通学路の途中にあるプレハブから、味噌の匂いが漂ってくる。「家庭科室」と書かれた看板の下では、近所のおばさんたちが白衣姿の親たちに料理を教えていた。親たちは真剣にノートを取っている。
やがて見えてきたのは、いつもの見慣れた建物だった。
玄関で上履きを脱ぎ、スリッパに履き替えて中に入る。廊下を進むと、「居間」と書かれた部屋があった。中を覗くと、ソファとテレビがあり、何人かの生徒が寝転がってテレビを見ている。担任の先生がエプロン姿で、その横でアイロンをかけていた。
「おう、おかえり」
先生はそう言った。僕は「ただいま」と答えて、自分の席に向かう。席にはこたつが置いてあり、すでに隣の女子が足を突っ込んでいた。
「今日、晩ごはん何?」
彼女はこたつに頬杖をついたまま、けだるそうに聞いてくる。僕は「カレーだと思う」と答える。彼女は「やったぁ」と言って、教科書を枕にして昼寝を始めた。黒板には「宿題:風呂掃除」と書かれていた。僕は少しだけ安心する。今日は漢字ドリルじゃなかったからだ。
授業中、先生はときどき教壇から降りて生徒の肩を揉み始める。「肩、凝ってるね」と言いながら。生徒たちは気持ちよさそうに目を細める。
「……気持ちいいです」
黒板の隅には、三時間目 休養、と書かれていた。
下校時刻になると、僕は「行ってきます」と言ってその家を出る。
帰り道、友達と今日あったテレビ番組の話をしながら我が家へ向かって歩く。
家に着くと、玄関に「153575326教室」と書かれたプレートが掛かっていた。
中に入るとリビングの黒板に「今日の反省」と書かれており、その下に家族それぞれの出来事が並んでいる。父は「会議で居眠りした」、母は「買い物でついお菓子を買った」、僕は「授業中に隣の子と話した」。
母は三人分を確認すると、赤ペンで丸をつけた。
「今日は全員、減点なしね」
父が嬉しそうに笑った。
夜、自分の部屋のベッドに入る。
枕元の連絡帳を開くと、明日の予定が書いてある。「七時三十分起床。朝食当番。家庭科の宿題:風呂掃除。忘れ物注意」。
僕は目を閉じる。
どっちが家で、どっちが学校だったか。
もうそんなこと、とっくにどうでもよくなっていた。
まぶたの裏に、今日もあたたかい光が広がる。
明日もまた、普通に起きるだけだ。




