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ろうそく

掲載日:2025/11/24

初の小説なんで!甘い目でよろしく!


今日は―ゆいちゃんの六歳の誕生日だった。

病室の静かな空気に、甘いイチゴの香りがそっと混じる。


けれどその少し前、ゆいはある夢を見ていた。



目を開けると、光が揺れていた。

赤い花が一面に咲き、風が触れるたび、花びらが小さく震える。

澄んだ川の流れる音が、心の奥まで届くようだった。


「来てくれたんだね。」


振り向くと、白いひげの老人が立っていた。

肩を落とした羽織りが、柔らかな光に包まれている。

初めて会うはずなのに、ゆいはなぜか安心した。


「お散歩に、つきあってもらえるかな?」


ゆいは胸を張り、元気に答えた。


「ゆいっていうの! よろしくね!」


老人の目が細くなる。

その視線の先、広い野原いっぱいに“火”がゆらめいていた。

ろうそくの灯だ。

無数の灯が、それぞれ違う高さで、違うリズムで揺れている。


「ここね、いろんな人の“時間”が見える場所なんだ。」


老人はそっと歩き出した。


ゆいが最初に目を奪われたのは、力強く燃える一本の火だった。

風が吹いてもまったく揺るがない。


「きれい……」


「この人はね、だれかを照らすために生きている。

 自分を削ってでも、あたためたい人がいるんだよ。」


次に見えたのは、細くて長いろうそく。小さな火がちょこんと乗っている。


「赤ちゃんだね。」

老人は微笑む。

「まだ知らない世界がいっぱいあって、これから出会っていくんだ。」


その両隣には、やわらかく包むように灯る二本の火が寄り添っていた。


「お父さんとお母さん?」

「そう。あの小さな火を守ろうとしている。」


ゆいはしばらく見つめた。

灯はまるで呼吸しているように優しく揺れ、あたりがほんのり明るかった。


さらに歩くと、今にも消えそうな、細い火があった。

ゆいは眉を寄せる。


「なんでこんなに小さいの?」


「長い間幸せだった人だよ。

 大切な人たちと過ごした時間を、最後まで灯そうとしている。」


「……火が消えちゃったら?」


老人はゆっくり川の向こうを指した。


「そこでね、みんなで待っている。

 大好きな人たちと、また会える場所だよ。」


ゆいは川の音に耳を澄ませた。

向こう岸から聞こえた気がした――誰かの笑い声。懐かしいような。


やがて、一本だけ違う色の影がゆいの目に入る。

強い風に吹かれ、たまらず揺れている小さな火。

まだろうそくの長さは残っているのに、今にも消えそうだった。


「かわいそう……まだ残ってるのに……」


「生きているとね、倒れちゃうことも、風に逆らえないこともあるんだよ。」


そのときだった。


「……お父さん?」


前から歩いてきた影に、ゆいは思わず駆け出した。

大きな体、見覚えのある肩、歩き方。

手には、ゆらりと揺れる一本のろうそくがある。長く、力強い火をのせて。


「お父さん! こっち!」


声をあげたのに、父はゆいを見ない。

ただ静かに、小さな火の前にしゃがみ込んだ。


父は自分の火を、風に苦しむ小さな火へそっと近づける。

二つの炎が触れ合う瞬間――

ゆいは息を飲んだ。


かすかな音をたてて、小さな火がぱっと明るくなった。

弱々しかった灯は、一気に強く、あたたかく生き返った。


その光に照らされて、父の顔がゆっくり上を向く。

今度は、ゆいをしっかり見ていた。


「ゆい、またな。」


聞き覚えのある声だった。

ゆいは震える声で手を伸ばす。


「一緒に行こうよ!」


父は首を振り、そっと笑った。

その笑顔は、ゆいが知っているどの笑顔より優しかった。


「お母さんにな、よろしく伝えてくれ。」


老人がそばに来て、ゆいの肩に手を置いた。


「ゆいちゃん。もう戻らないといけないよ。」


「まだここにいたい……」


「もう大丈夫。君の火は、まだ長く続くからね。」




ゆいは目を開けた。

消毒液の匂い。白い天井。泣き笑いのような母の顔。


「ゆい! よかった……!」


医師たちが安堵の息を漏らしている。

ゆいはぼんやりと聞いた。


「……お父さんは?」


母は一瞬だけ黙り、視線を落とした。

それでもすぐに、明るい声をつくった。


「ほら、今日は誕生日でしょう? ケーキの準備できてるわ。」


運ばれてきたケーキには、六本のろうそくが立っていた。

ゆいは火を見つめたまま、そっと尋ねる。


「これ、消したら……どうなるの?」


「嫌なことが遠くへ飛んでいってね。願いがひとつ叶うの。」


ゆいは父の笑顔を思い浮かべ、強く息を吹いた。

火が静かに消えると、母の手がゆいの髪を優しく撫でた。


その夜、母はゆいの名前の由来を話した。


「“結衣”って、色んな人と仲良くなって暖かく、人を包めるように――って願いを込めたの。」


ゆいはまぶたが落ちていく中で、小さく返した。


「ゆいね、いっぱい…暖かく……」




何年も経ち、結衣はケーキ屋になった。

店の奥、焼き上がったスポンジの甘い香りが漂う。

小さな女の子が、結衣に尋ねる。


「なんでケーキ屋さんになったの?」


結衣は少し考え、優しく微笑んだ。


「笑顔を見るのがね、大好きだから。

 昔、お父さんにも言われたの。

 “人を暖かい笑顔にできる人になれ”って。」


「お姉ちゃんは、どんな時がいちばん笑顔?」


女の子の目がまっすぐ向けられる。

結衣はろうそくの箱を手に取りながら答えた。


「誕生日の火を消すときかな。

 毎年ね、同じ願いをしてるの。」


外の風鈴が、かすかに鳴った。


――まだだよ。

――もっと生きて、もっと笑っていきなさい。


川の向こうから、あの声が聞こえた気がした。


結衣は、そっと笑った。


なんかあったかくなってくれたら幸いです。

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