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“詩的で情緒的で視覚的かつ感覚的文体”=“綺麗な文体”に挑戦してみる  作者: 日戸 暁
サバンナの木陰で休んでいた一頭のシマウマが歩き出しただけの物語を
2/3

普通に書いてみた

広大な草原に高木は稀だ。

照りつける暑い日差しを遮るその葉陰は、動物たちに涼をもたらす貴重な場である。

今日も、その樹下に憩う動物の姿があった。

それはやがて、のっそりと身を起こして、日の当たる草原へと出てきた。

黒と白の縞が美しい、一頭のシマウマだ。

鬣から尾の先に至るまで艶やかな毛並みと、しなやかな脚は、若さと逞しさを物語る。

そのシマウマは辺りを見回し、ゆったりとした足取りで歩き出した。

そうして、広い草原のどこへともなく、去っていった。

次の木陰と僅かな水を、そして、逸れた群れを求めて……。


枯れ草ばかりの荒野を、その若いシマウマはたった一頭で彷徨い続けている。

木陰を離れてから、どれほど歩いただろう。

シマウマが不意に歩みを止めた

足元には、青々とした草がひとかたまり茂っていた。

シマウマはそれを一心不乱に食み始めた。

いつ水場へ辿り着けるかもわからないなかで、まだ青く若い草は草食動物にとって等しくご馳走だ。

まして炎天下を歩いたあとだ、喉の渇きも相当なものだ。

若いシマウマは、そのみずみずしい若草を脇目もふらずに貪っていた。


そのシマウマが群れとはぐれて、すでに幾日も経っていた。

若い彼は、この平原のどこに水場があるかなどあまり知らないし、たった一頭で河川や池沼を見つけるのは難しい。

朝も夜もずっと他の獣の気配に神経を尖らせていなければならない。

群れがいれば、年長者の知恵に助けられ、大人たちに守ってもらえ、交代で見張りができて休めるのに。

このサバンナで一頭で生きるのは、過酷な試練でしかない。


ある日、シマウマは、遠くに光の反射しているのを見つけた。

あれは、水の煌めきだ。

一時的な雨溜まりに過ぎないのか、それとも流れる河川か。

それでもようやく水にありつける。

あれ以来枯れ草ばかりの食事だったそのシマウマは、水場に向けて一生懸命に駆け出した。


水場に周りには他の動物の群れが集まっていた

細い川のへりに、ガゼルやヌーなど大小さまざまの草食動物の群れが来て、代わる代わる、喉を潤している。

此方へ近づいてくるシマウマを皆が一斉に見た。その白黒の縞模様は、草丈の短いところではよく目立つのだ。

そして、何を思ったのか、他の群れはそろそろと離れていく。


シマウマは、気づけば水辺に一頭きりになってしまった。

他の群れは遠巻きにこちらを見ている。


自分も水辺を離れるべきだろうか、皆を真似て。

だがまだ若いシマウマは、眼の前の水を諦めきれなかった。

それ以上周りを気にする余裕もなく、ごくごくと水を飲み続ける。

やがて、自分だけを見つめる視線にシマウマが顔を上げた時には、もう手遅れだった。


シマウマが首を巡らせ、その眼差しの主を見つけた瞬間。


それはシマウマに飛びかかってきた。


駆け出そうとしたその後脚と臀部に喰い付かれ、シマウマは引き倒された。

首根っこを咥えられ、強く噛み締められる。シマウマは息苦しさに身悶えする。


老いた雄のライオンがシマウマの喉に食らいついている。

群れを失った雄ライオンにとって、一頭でいる無防備な草食動物は、狩りやすい貴重な獲物だ。


水辺に向かうシマウマのあとをしつこく付いてきた甲斐があった。


シマウマは遠のく意識の中で、己の柔らかな腹が食い破られるのを感じていた。


たっぷりと新鮮な肉を食った雄ライオンは、血に染まった口でゆったりと水をのみ、悠々と川辺を立ち去った。


草食動物の群れが戻って来て水を飲み始める。


一頭のシマウマの死骸が、草の中に打ち捨てられている。

それもそのうちハイエナが嗅ぎ付けて、跡形もなく食い尽くされるだろう。


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