いかに比喩で盛るか
その広大な平野にたつ一本の木は、天をつくように高く聳えている。
生い茂る葉が、熱く眩しい陽の光を遮って、その下に濃い陰を齎す。そこだけは、灼熱の火の星に照らされる大地とは対照的に、闇を凝縮した深く暗い空間となった。
沈黙。
静寂。
この世の全てから隔絶されたかのようだ。
だがそこに、なにか一つの生命が息衝いている。
やがて、それは光の中へ姿を表した。
全身はオセロのような白と黒の2色に塗り分けられ、海の波を写したような漣模様が波打って美しい。しかも、長く柔らかく豊かな尾が風になびいている。
頼りなくほっそりした脚がそっと一歩を踏み出す。
闇の内より出て、燦然と輝く草の海を躍動して進みゆく様は、大海を泳ぐ鮫のようで
その気高さに、見るもの全てがひれ伏すのであった……。
シマウマはその細くしなやかな脚で、魚が飛び跳ねるがごとくに軽やかに大地を蹴り、そして踏みしめ、大草原を突き進む。
そうしてシマウマは軍馬のように勇ましく歩いていたが、夜空に瞬く星のように目を輝かせて立ち止まった。
その足元に、青い草が生き生きと空へ向かって伸びており、滑らかな絹糸を思わせた。
もぐもぐ。
また一口。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
それは一口含めばまるで澄んだ清流が喉を滑り落ちるようで、シマウマは心が潤うのを感じた。
至福のひと時。
爽やかな草の香を堪能した。
この素晴らしい恵みは、時にその暑さを呪うほどの太陽があってこそ。
シマウマは輝ける燃える星を見上げて、その存在に感謝した。
そうして、若く美しい孤高のシマウマは、
いつ終わるとも知れぬ一人旅を続けた。
幾度、一人で朝日を見、寂しい夜を過ごしただろう。
ある日、彼は大地の彼方にきらめく一筋の光を見た。
それはまるで、彼を誘うように、その存在を誇示していた。
シマウマは、その光に向かって歩を進めた。
抗えぬなにかに導かれるように、ただひたすら、その光のもとへと歩いた。
近づくにつれ、その周囲に、他の生き物の姿が浮かび上がってくる。
孤高のシマウマの身の内を喜びが駆け巡る。
それは大きな力となり、シマウマを逸らせた。一足ごとに、歩幅は大きくなる。
会いたかった。
仲間だ。
ずっとずっと恋しかった。
やっと、巡り会えた。
その身をしなやかなばねのように屈伸させ、飛ぶように駆けた。
そのあまりの速さに、見るものの目に白と黒の模様は縞とは捉えられないほどだ。
だが、シマウマは、その仲間と信じた者たちの正体に気付くや、深い絶望に突き落とされた。
皆々が、シマウマを訝しげに見て、こそこそと距離を置く。
小さな水辺で、誰もシマウマに寄り添うものはない。
皆、草を食む者なのに。
なぜこうもシマウマを疎うのか。
そうして、他の群れたちは、シマウマを尻目に、さーっとかけて遠のいていった。
仲間外れにされたシマウマは冷たく揺れる水面にそっと慎ましく口を付ける。
愛する仲間との再会を期待して熱く膨らんだ心が、静かに冷やされていった。
シマウマは、すっかり疲れてしまった。
冷たい水を飲んでも胃と心が重くなるばかりだった。
もう、仲間には会えないのか。
自分を受け入れてくれる群れはどこにいるのだろう。
こんなにも美しい白と黒の縞を誇る自分がなぜ。
居場所がないのだ。
悲しみにくれるシマウマは、不意に熱い眼差しを感じた。
深く深く、彼だけを求める眼差し。
今までは他の者にこそ投げられていた視線だ。つまり、自分が独占したことのない類の。
鼓動が速くなる。
どこにいる。
自分を運命の者のように求めるこの、何者かは、いったいどこにいるのだ。
なぜ隠れている?
こんなにも自分を欲しているくせに。
胸が高鳴る。
あぁ、はやく。はやく。
この者を見つけなければ。
シマウマがその者の姿ー黄金の鬣と射抜くような獰猛な瞳ーを捉え、駆け出そうとしたとき。
老いてなお雄々しい、草原の王者の足元に、彼は平伏していた。
喉に深々と、接吻を受けながら。
そうして彼は、孤独な旅を終えたのであった。
群れからはぐれた若いシマウマが木陰で休んだり草食べたりしながらサバンナを放浪して、ようやくたどり着いた水辺で他の草食動物がライオンに気づいて逃げてるのに自分は水飲むのに夢中になってたら逃げ遅れて食い殺された話。