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顔に火傷を負った不出来な息子? いいえ、彼は隠された次期国王です。いじめ抜いた貴族たちよ、やり返される準備はいいかしら?

作者: 猫又ノ猫助

 王都は今日も、陰湿な嘲笑と悪意に満ちていた。その中心には、フローラと、彼女の息子アレンがいた。




「あら、見てごらんなさいよ、あのフローラって女。どこぞの男に捨てられたってのに、よくもまああんな厚顔無恥な顔で学園に現れるものだわ」




「ええ、それにあの息子のアレンもよ。顔にひどいやけどを負っているとかで、いつもあの醜い布を被っているでしょう? まったく、親の因果が子に報いるとはこのことね」




 それは、学園の親睦会が開催される日の朝。すでに会場の入り口で、高慢な侯爵夫人イザベラが、その取り巻きの貴族夫人たちと甲高い声でフローラを嘲笑っていた。イザベラ夫人は、王都でも指折りの名家の子女であり、その傲慢さは群を抜いていた。彼女の娘、セリーナもまた、母に似て陰湿な性格で、アレンを見るたびに鼻で笑う。




「アレン、今日もまた馬鹿にされるわね。しょうがないわよ、人に魅せられない程醜いやけどがあるんだもの。それに、学園の成績も剣術の腕前もまるでダメなんでしょ? 私だったら、恥ずかしくて外に出られないわ」




 セリーナは、取り巻きの娘たちと一緒になってアレンの周りをうろつき、わざとらしいほど大きな声でひそひそ話をする。「ねえ、聞いた? アレンって、学年で一番の落ちこぼれなんだって。顔だけじゃなくて、頭もダメな上に運動もできないなんて、本当に最低ね」




「まあ、可哀そうに。お母様がシングルマザーだから、まともな教育も受けられないのね。きっと、ろくでもない父親の子なんでしょうね!」




 娘たちは顔を見合わせて、下品な笑い声を上げる。アレンは、いつもと変わらず顔を覆う布の下で静かにその言葉を聞いていた。フローラは息子の手をぎゅっと握りしめ、顔色一つ変えずに彼女たちを見つめ返す。その瞳の奥には、冷たい怒りが宿っていた。




「イザベラ様。貴女様方のご子息ご令嬢は、随分と下品な言葉遣いをなさるのですね。教育が行き届いているとは、お世辞にも言えませんわ。むしろ、下賤な物乞いの方がよほど品がありますわね」




 フローラが毅然とした態度で言い返すと、イザベラ夫人は顔を真っ赤にして鼻を鳴らした。




「何ですって! 貴女のような身分の低い者が、私に説教をするつもりかしら? 所詮はどこぞの男に捨てられた女。貴女の息子も、そんな母親の血を引いているのだから、どうしようもないのは当然でしょう! 今日の親睦会も、誰が貴女のような卑しい者を呼んだのかしらね? まったく、この国の品位が落ちるわ!」




 その言葉に、周りの夫人たちも加勢して笑い声を上げた。「本当にその通りだわ! 惨めったらしくこの王都に居座り続けるなんて、厚かましいにも程があるわね! 殿下のお目にも触れないよう、さっさと立ち去るべきだわ!」




 フローラは、心の中で深くため息をついた。この四年間、彼女はこうした嘲笑と蔑みに耐え続けてきた。夫は遠い地で仕事をしていると偽り、シングルマザーとしてアレンを育てている、と周囲には思わせてきた。




 しかし、その実態は全く違う。彼女の夫は、この国の第一王子セドリック。そして、アレンは紛れもない王子の血を引く、次期王位継承者なのだ。




 全ては、アレンがまだ赤ん坊だった頃に起こった王位を巡る陰謀から始まった。アレンの命を狙う勢力から彼を守るため、セドリックはフローラとアレンを市井に隠遁させることを決断したのだ。アレンの「火傷」も、学園での「不出来」も、全ては周囲の目を欺くための偽装。特に、アレンのセドリックに似た容貌が王子の血を疑われることを避けるため、顔を布で覆うことは絶対だった。




(アレン、今日で終わりよ。もう少しだけ、我慢してちょうだい)




 フローラは、心の中で息子に語りかけた。




 親睦会が始まると、フローラとアレンは会場の隅に追いやられた。誰も彼らに話しかけようとはせず、まるで伝染病患者のように遠巻きにされている。イザベラ夫人の娘セリーナは、友人たちとアレンの近くをわざと通り過ぎ、大声で囁いた。




「ねえ、アレンのあの顔を覆う布、本当に気持ち悪いわよね。あんな姿でよく外を歩けるものだわ。あんなものが同じ学園にいるなんて、本当に吐き気がするわ!」




「そうそう。あの布の下の顔を想像するだけで、うんざりするわよね?  私だったら絶対嫌だわ。毎日やけどに覆われた顔を見るなんて、悪夢だわ!」




 アレンは俯いて、じっと身を縮めていた。彼らの言葉は、まるで鋭い針のように、アレンの心に突き刺さる。フローラは、息子の震える背中を優しくさすった。




 そこに、学園の教師が近づいてきた。教師はイザベラ夫人の顔色を窺いながら、わざとらしいほど大声でアレンを叱責した。「アレン君、また今度の試験も赤点だったそうじゃないか。剣術の授業でも、いつもへっぴり腰で。君は本当にどうしようもないな。もう少し頑張りなさい! まったく、君のような子がこの学園にいること自体が、学園の恥だ!」




 イザベラ夫人は満足げに口元を歪め、フローラを嘲笑うように見つめた。




「まあ、先生。ご心配なく。どうせあの血筋ですもの。これ以上何を求めても無駄でしょう。分をわきまえさせればいいのですよ。きっと、どこかの貧しい村で畑でも耕していた方が、彼にはお似合いでしょうね!」




 フローラは、心の中で怒りが煮えたぎるのを感じた。しかし、今はまだ、耐える時。




 親睦会の終盤に差し掛かった頃、会場の扉が大きく開いた。




 堂々たる足取りで入ってきたのは、この国の第一王子セドリックだった。彼の隣には、近衛騎士団を率いる団長が控えている。会場の誰もが息を呑み、深々と頭を下げる。




 セドリックは、まるで陽光が差し込んだかのように、その場を支配した。凛とした佇まい、威厳に満ちた眼差し、そして何よりも、彼の持つ圧倒的なカリスマ性は、その場にいる全ての貴族をひれ伏させた。




 イザベラ夫人は、先ほどまでの傲慢な態度はどこへやら、慌ててスカートの裾を整え、満面の笑みを浮かべてセドリックに駆け寄った。




「セドリック殿下! このような場においでいただけるとは、光栄の極みでございます! わたくし、殿下にお目にかかれるのを、心待ちにしておりましたの!」




 彼女はセドリックに媚びるような笑顔を向け、まるで飼い犬のようにしっぽを振っていた。セドリックは彼女を一瞥しただけで、無言でフローラの方へと歩みを進める。




 フローラとアレンの前に立ったセドリックは、優しい眼差しで二人を見つめた。イザベラ夫人は、セドリックの態度に不審を抱きながらも、すぐに気を取り直したかのように、再びフローラとアレンを嘲笑い始めた。




「殿下、わたくし、先ほどからあのフローラという女に困惑しておりましたの。どこぞの男に捨てられた挙句、息子は顔に大やけどを負っているというのに、図々しくもこの親睦会に出席するなど……まったく、この国の品位を貶める行為だと、わたくしは心から憤慨しておりますわ。あのような者たちは、王都から追放すべきでございますわ!」




 イザベラ夫人は、まるで自分の言葉がセドリックに同調されるとでも言いたげに、得意げな表情でフローラを指差した。彼女の取り巻きの夫人たちも、ここぞとばかりに便乗し、フローラとアレンへの罵詈雑言をぶちまける。




「殿下、あのような醜い顔の息子を連れ歩くなど、王族の皆様の目に触れるのもお気の毒でございます! 見ているだけで不愉快になりますわ!」




「ええ、それにあのフローラという女、どこぞの馬の骨の夫に捨てられたくせに、随分と態度が大きいのです。殿下からも厳しくご指導なさっていただきたいと存じます! 彼女は、己の分をわきまえるべきですわ!」




 セリーナもまた、アレンを指差して冷たく言い放った。




「あぁ、改めてアレンは醜いわ。あんな子供が学園にいるなんて、学園の名折れでございます! 私、毎日あの子のせいで気分が悪いんですのよ!」




 彼女たちは、セドリックが自分たちに味方すると信じ切っていた。しかし、セドリックは彼女たちの言葉に一切耳を傾けることなく、ただまっすぐにフローラとアレンを見つめていた。




 そして、彼はアレンの顔を覆う布に手を伸ばし、ゆっくりとそれを外した。




 その瞬間、会場にどよめきが起こった。布の下から現れたのは、火傷痕など微塵もない、あまりにも端正で気品に満ちた少年の顔だった。漆黒の瞳は聡明さに輝き、滑らかな肌は透き通るように白い。セドリックの面影を色濃く残しながらも、アレン自身の凛とした美しさが際立っていた。




 セドリックはアレンの肩を抱き寄せ、会場全体を見渡すように声を張り上げた。




「皆に紹介しよう。この子が私の息子、そしてこの国の次期王位継承者、アレン・フォン・ヴァインベルク王子だ。そして、私の妻、フローラ・フォン・ヴァインベルク妃である」




 そう告げた瞬間、衝撃が会場を駆け巡った。




 誰もが目を見開き、信じられない、という表情でフローラとアレンを見つめている。先ほどまでフローラを嘲笑していた貴族夫人たちは、顔を真っ青にして凍り付いていた。イザベラ夫人は、その場に崩れ落ちた。彼女の膝はガクガクと震え、もう立っていることすらできなかった。




 セドリックは冷たい視線をイザベラ夫人に向けた。




「イザベラ侯爵夫人。私の妃と息子に対し、これまで貴女がどれほどの無礼を働いてきたか、私は全て把握している。王族に対する侮辱、その罪は重い。貴女が吐いた言葉の数々、私は決して忘れていない」




 イザベラ夫人は震える声で言った。




「そ、そんな……まさか……殿下……どうか、お許しを……」




 セドリックは容赦なく続けた。




「貴女だけでなく、貴女の娘、セリーナ嬢も、アレン王子をいじめ、嘲笑っていたことも承知している。さらには、貴女方に迎合し、我が妃と王子を侮辱した者たちも、全て記憶している。貴様らの醜い言葉の全てを、私はこの耳で聞いていたのだ」




 セリーナは、自分の名前が呼ばれたことに驚き、ひゅっと息を飲んだ。彼女は、先ほどまでアレンに浴びせていた罵詈雑言が、全て自分の身に返ってくることを理解し、恐怖で震え上がった。彼女の顔は、血の気が引いて真っ白になり、足元が崩れ落ちた。




 アレンは、ふとイザベラ夫人の方を見た。そして、これまで隠していた真の力を解放するかのように、まっすぐな声で言った。




「僕は、学園での成績も剣術の腕前も、偽っていました。父上から、僕の真の力を隠すようにと教えられていましたから。あなた方が僕に浴びせた言葉の全ては、僕の心に深く刻まれています。そして、あなた方の心根の醜さを僕は生涯忘れないでしょう」




 アレンの言葉に、再び会場に衝撃が走った。これまで不出来だと見下されていた少年が、実は全てを欺いていたという事実に、貴族たちは言葉を失った。アレンの瞳には、幼いながらも王族としての確固たる意志と、そして侮辱に対する深い怒りが宿っていた。




 フローラは、隣で堂々と立つアレンと、優しい眼差しを向けるセドリックを見上げた。偽りのシングルマザーとして耐え忍んだ日々は、今日、こうして全て報われた。彼女の胸には、誇りと、そして何よりも深い安堵感が広がっていた。




 セドリックは、イザベラ夫人と、その取り巻きの夫人たちを順に指差しながら、冷厳な声で告げた。




「イザベラ侯爵家は、その傲慢な行いの報いとして、明日をもって爵位を剥奪し、全財産を没収する。そして、イザベラ侯爵夫人は辺境の修道院へ。貴女の娘、セリーナ嬢は学園を退学とし、一生涯、社交界への出入りを禁じる。さらには、全ての財産を没収し、平民として労働に従事させる。そして、貴女方に同調し、我が妃と王子を侮辱した貴族たちも、同様の処分を下す。それぞれ、その罪に応じた刑罰を覚悟しておくがいい!」




 セドリックの言葉が響き渡る中、会場の貴族たちは、顔を真っ青にしてその場に立ち尽くしていた。先ほどまでフローラとアレンを嘲笑っていた者たちは、一瞬にして凍り付き、絶望の表情を浮かべた。彼らの膝は震え、恐怖で体が硬直していた。




 イザベラ夫人は、セリーナと共に泣き崩れた。しかし、セドリックは一切の慈悲を見せることなく、彼らを一瞥すると、フローラの手を優しく取り、そしてアレンの手も握りしめた。




「フローラ、アレン。これからは、もう何も隠す必要はない。二度と、誰にも貴女たちを侮辱させるものか。これまで貴女たちが耐え忍んだ全てに、心から感謝する」




 セドリックの温かい言葉に、フローラの瞳からは一筋の涙がこぼれ落ちた。アレンもまた、布で隠されていた顔が、初めて公の場で喜びと安堵の表情を浮かべた。




 高慢な貴族たちの顔が、みるみるうちに青ざめていく。




 王子の威光が、彼らの傲慢さを打ち砕いたのだ。




 これからは、誰も彼らを侮辱することはできない。偽りの日々は終わりを告げ、真実の輝きが、フローラとアレン、そしてセドリックの未来を照らしていく。そして、貴族たちは、自分たちが誰を貶めていたのかを知り、永遠に後悔の念に苛まれるだろう。

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