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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

なろうっぽい小説

召喚聖女を追い出した国があるらしい

作者: 伽藍

聖女召喚を行った国がオマケでついてきた無能を王宮から追い出したあとの、追い出された無能な女の子のお話。

 清白古都音は高校で苛められている。理由は古都音が孤児の施設育ちで、しかも髪が赤いからだ。


「おい、ガイジン! 掃除しとけよー」


 髪が赤いというただそれだけで、田舎の高校では苛められる理由になった。教師でさえ古都音の髪をみっともないと嫌っていて、古都音にばかり辛く当たる始末だった。

 これが外国の血が入っている生徒も珍しくないような地域であれば、話は違ったのかも知れない。けれど古都音の住む田舎で古都音の赤い髪はひどく目立ったし、しかも守るべき保護者を持たない孤児であることも事態に拍車をかけた。


 今日も、当番でもないのに生徒たちが古都音に放課後の掃除を押しつけて帰ろうとしている。

 その真ん中にいるのは可愛らしい女子生徒で、名前を涼宮柚姫といった。モデルをしているらしく生徒たちに人気があるのだけれど、どうしてだか古都音をことさら敵視している一人だった。


「聞いてるのかよ、ガイジン!」


 返事をしないでいれば、丸められたプリントを投げつけられる。周りはくすくすと笑うばかりで誰も助けようとはしない。仕方なく、古都音は返事をした。


「……やっておくよ」


 当番ではないのだから古都音が掃除をする必要は全くないのだけれど、従わなければ目立たない場所を酷く殴られるのだ。痛い思いをするのは嫌なので、だったら従ったほうがマシだった。


 こういうとき、もしも親がいれば何かしら動いてくれるのかも知れないけれど、古都音には親がいないのでどうしたら良いのか判らなかった。

 施設の職員に相談してみたこともあったけれど、困ったような曖昧な笑顔で『気にしないでお勉強を頑張りなさい』と返されただけだった。たぶん、そんな余計なことにリソースを割くのを嫌がったのだろう。職員の数は限られているのだから仕方ない、と思いつける程度には古都音は大人だったし、それで納得できない程度には古都音は子どもだった。



 一通り掃除を終わらせて下校した古都音は、帰り道で嫌なものを見てしまってげっと顔を顰めた。それは、大人の男と腕を組んでホテル街に向かう柚姫の姿だった。

 すぐに隠れようと思ったけれど、柚姫が気づく方が早かった。


「あら、ガイジンちゃんじゃない、奇遇ね」


 さいあく、と口の中で呟いた。いわゆる援交というやつだろう。不味いところを見られたはずなのに、柚姫の態度は堂々としている。


「お友だちかい?」

「えぇ、仲良くしてあげているの。見て、彼女の髪、真っ赤でみっともないでしょ」


 嘲笑うように言って、柚姫が近づいてくる。柚姫の可愛らしい顔が、楽しげに歪んでいる。


「ねえ、おじさま、彼女とも一緒に遊びましょうよ。男好きそうな顔をしているもの、きっと彼女も喜ぶわ」


 面白くない話の流れになっている、というのは判った。逃げだそうとした古都音の腕を、柚姫が痛いくらいに掴む。


「ちょっと待ちなさいよ、ガイジンが生意気ね」


 瞬間、二人の足元が眩く光った。


***


 どうやら世にいう異世界召喚というものを体験したらしい、というのに気づくにはしばらくかかった。眼の前には、金髪碧眼のやたらときらきらとした王子様みたいな男がいた。


「よくぞいらした、聖女様!」


 それからはあっという間の展開だった。柚姫は聖女として異世界に召喚されて、古都音は柚姫に巻き込まれたらしい。


「まぁ、大切なお友だちが行く場所を失うなんて可哀想だわ」


 二人を召喚した異世界の人びとに柚姫はそう言っていたけれど、どうせ古都音を奴隷のようにこき使うつもりなのに違いなかった。


 古都音はさも迷惑をかけられないというような顔をして、召喚された先である王宮を出る旨を伝えた。

 王宮のものたちは古都音に興味がないからだろう、古都音の希望はあっさりと叶えられた。柚姫の近くに元の世界の知り合いを置いておきたくないのかも知れなかった。向こうの思惑が何であれ、古都音には興味がなかった。


 慰謝料のつもりか何なのか、少額の金子を持たされる。金子の入った革袋を持って、古都音は王宮を出た。

 思いがけない迎えがきたのは、その夕方のことだった。


「おかえり、ひめさま」


 声をかけてきたのは、見上げるほど大きな、翼を持つ西洋竜だった。舌っ足らずに、おかえり、おかえり、と繰り返す。


「え、わたし……?」


 うろ、と視線を彷徨わせる。通行人たちが歩いていたはずなのに、気づいたら道には誰もいなかった。


 警戒する古都音に、竜は困った顔をした。


「まおーさま、おまち」

「ま、魔王?」

「つれてく、おまち」

「えっ?」


 悲鳴を上げる隙もなかった。驚いた拍子に、金子を入れていた革袋が落ちる。

 一方的に告げたあと、竜は古都音の首根っこを親猫が仔猫にそうするように咥えて、あっという間に飛び立ったのだった。


***


 そうして古都音は、魔王の前にいる。


 よくゲームで見るようなおどろおどろしい姿ではなくて、ひどく美しい青髪青眼の男だった。その隣にいるのは王妃だろうか、こちらも美しい女性だ。


 王妃らしき女性の、日本ではありえないピンク色の髪が、ひどく眼についた。


「まぁ、まぁまぁまぁ!」


 王妃が立ち上がった。感極まったように口元を押さえている。


「その魔力、容姿、間違いないわ! わたくしたちの娘よ!」


 ぱっと見は重たげなドレスで軽やかに小走りして、王妃が古都音を抱きしめた。

 古都音は混乱した。言われた言葉もそうだし、単純に誰かに抱きしめられたことなんて生まれてから一度もないからだった。


 うろつかせた視線の先で、魔王が穏やかに微笑んでいる。


「おかえり、わたしたちの娘。そうだ、名前を考えてやらねばな。もしくは、以前の世界では名前を使っていたのかな」

「あ、こ、コトネ、です」

「コトネ。変わった響きの名前だね。可愛いからそのままにしようか」

「は、はい……」


 王妃に頬ずりをされてだいぶ苦しい思いをしながら、コトネはようやくそう答えた。


 途中で、コトネははたと気づいた。忌々しい自分の髪色が、気づかぬうちに王妃とそっくりなピンク色に染まっていた。

 自分の髪を気にするコトネに気づいたのか、王妃が嬉しそうに頭を撫でてくる。


「わたくしとお揃いの髪ね! 眼の色は旦那様と同じ青色だわ」

「お揃い……」


 いつだって汚いもののように扱われた自分の髪を、そんなに大切そうに触れて貰えたのは初めてだった。頬を染めるコトネが、不思議そうに瞬く。


「元の世界では赤かったんです、どうして色が変わったんでしょう」

「この色があなたの本来の色よ。たぶん、漂流してしまった世界に合わせて自分を守るために一時的に変わっていたのだと思うわ。耳だっていまは人間のように丸いけれど、そのうち元の長耳に戻るでしょう」


 たしかに、元の世界ではストロベリーブロンドという髪色はあったけれど、ピンクがかって見えるだけで今のように鮮やかなピンク色は自然ではあり得なかった。


「可愛い色……」

「ピンク色の髪は、一部の妖精や、人魚に多い色なのよ。もちろん、人間に顕れることもあるけれどね。わたくしも花の妖精なの」

「そうなんですね」


 自分の髪をまじまじと眺めているコトネに、それから、とちょっと怒ったように人差し指を突きつけて王妃が教え込む。


「間違えちゃだめよ、コトネちゃん。あなたはもともとこの世界の住人で、一時的に異世界に迷い込んでいただけなんだから。だからあなたにとって以前の世界は、『元の世界』じゃないわ」


 どうにもコトネの物言いが気になったらしかった。こくこくと頷くコトネに、満足げに王妃が微笑む。


「あなたは間違いなく、わたくしたちの娘なのだから。どうにかあなたをあちらの世界から引き戻そうとしてずっと試行錯誤していたのだけれど、まさか人間たちが召喚に成功するだなんて。人間なんて大嫌いだけれど、感謝だけはしておかなくちゃね」

「人間と、何かあるのですか?」


 そういえば、どうして柚姫は聖女として喚ばれたのだろう。二人で喚ばれたうち柚姫が聖女だというのはすぐに判ったから、コトネはほとんど説明されていないのだった。


「困ったことに、戦争中なのよねえ」


 小首を傾げて、王妃は困ったように、本当に困ったことを言った。


「人間たちは神の力を借りて、この魔族国や、わたくしの生国である妖精国を滅ぼして土地を奪い取ろうとしているのよ」

「そ、それって、大変……ですよね……」

「根っから性能が違うんだから、人間たちになんか負けないわ。秘策中の秘策であったはずの聖女様だって、こうしてわたくしたちが手に入れたのだから」


 コトネは首を傾げた。


「一緒に召喚されたユキって女の子が、聖女だって言われてましたけど」

「あぁ、それはね、間違いよ。わたくしたちの娘が召喚されたことにはすぐに気づいたから、鑑定結果に細工させて貰ったの。聖女だって気づかれたらコトネちゃんが人間たちに使われちゃうかも知れないでしょう? そんなの許せないもの」


 子どものように無邪気な様子で、王妃は言った。


「あなたと一緒に召喚された娘は、随分と薄汚れた魂をしていたわね。聖女ではないと気づかれたらきっと酷い目に遭うでしょうから、美しい魂を持っているのならば助けてあげても良かったけれど、ばっちいから止めちゃったわ」


 それから思い出したように、眉を下げて不安そうな顔をする。


「それとももしかして、コトネちゃんと仲良しの子だったかしら? わたくしはあなたのお母様なのだから、彼女を助けるくらいのわがままだったなら聞いてあげるわよ」


 王妃の腕の中で、コトネは考えた。今まで、コトネが柚姫に受けた仕打ちを思い出す。それに召喚される直前の、コトネに向けられた薄笑い。

 痛む良心はなかった。


「いいえ、全く友だちなんかじゃありません、お母様」


 温かい胸にすり寄る。生まれて初めて、幸せな夢を見られそうな気がした。

わたしには珍しいくらいのテンプレです。召喚聖女を追い出した国はたぶんめちゃくちゃ困ることでしょう

本当は革袋に王宮の魔法士がかけた追跡魔法がかかっていたんだぜ、っていうのを……入れ込めなかったのでここでひそっと呟いておきます……


いっつもなろう小説でピンク髪が蔑まれるのは差別の匂いを感じてしまって気持ち悪いなー、って気持ちをここぞとばかりに入れ込んでみました。どうしてみんなそんなにピンク髪を嫌うん?

わたしは地方出身で子どもの頃に引っ越して関東住みになったのですけれど、言葉がなまっていただけで「ガイジン」って苛められたので人間ってのは本当に『大多数とは違う誰か』に残酷ですよね


清白(すずしろ)って名字は響きで決めたのですが調べてみたら大根のことでした。まぁ大根って美味しいから良いよね。ぶり大根とか作った日には嬉しくなって自分を褒めちゃうな……


【追記20250515】

活動報告を紐付けました! 何かありましたらこちらに

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/799770/blogkey/3442243/

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― 新着の感想 ―
ピンク頭は、乙女ゲーム概念が生まれる前は、 ギャルゲー(女の子がたくさん出てくるけど恋愛要素がないものも含む)の髪の色が原色で女の子の見分けをつけさせる時のピンク担当が大抵お色気キャラで、それが現代も…
楽しく読ませて頂きました。尚、ピンク髪が蔑まれるのは長年使われたイメージ(逆ハーレムを狙う、魅了スキル持ち、男爵の養女・庶子が多い)のせいですよね。 帝国が侵略国のイメージの様に。転生者が「リバーシ(…
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