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『先輩 と 後輩A』

先輩 と 後輩A

作者: パズル

(追記)

『先輩 と 後輩A』の第2弾を投稿しました。

題名は『先輩 と 後輩A と梅雨』です。よろしければ、読んでくれるとうれしいです。


「明日、太陽は今日よりも輝いているでしょうか?」


 そんな突拍子もなく意図不明なことを訊かれたから俺は、少しの間面を食らった後、「……は?」なんてずいぶんと気の抜けた返事を返してしまった。


「いきなりどうした、後輩A」


 学校からの帰り道。

 脈絡なくそんな話をふってきた後輩Aに尋ねる。


「なんだ、哲学にでも目覚めたのか?」


 少しおちょくるように言ったが、当の後輩Aはさして気にした様子もない。むしろ聞こえないとでも言うように、俺の返答を無視したまま振り向きもせず、目の前をてくてく歩いて坂を下って行く。小柄なその姿はどこか小動物を連想させた。


「……おぉーい。どした、後輩A」


 意味の分からない言動。

 この後輩と知り合ってからそこそこ経つが、こう、脈絡なく話題をふるところ、あと急な話題の方向転換。この2つには慣れない。さっき小動物と揶揄したが、そこから連想すると猫のようだ。


 ともあれ。

 オレの会話力UP。目下ぐんぐん成長中だぜ。いやっほぅ。


 でも……。

 それにしても、だ。


「……はぁ」


 脈絡のない話題をふってくるのはいつもの事だとして。いつにも増して意図の読めない後輩に俺、嘆息。足りない頭を捻る。ひょっとしたらほんの少し湿った雑巾を絞るように、なにかが染み出てくるかもしれない。要は根性論だ。


「……、………、…………」


 いや困った。……本当に。なにもでてこない、思い浮かばない。



 そうして、俺も黙ってしまったせいか、沈黙が横たわる。


 俺は、この無言の間に流れる空気がどうしようもなく嫌いだ。

 分かるだろうか。会話が途切れ、何を話して良いものかと、次の話題を探すまでのアレである。この空気の上手い乗り切り方を誰か教えてください。


 今しがた俺の会話力UPなどと思ったというのに、こんな重要なときにはどうにもそれは発揮されない。イマイチ信用ならないらしい。


 内弁慶なのだろうか?

 困ったちゃんだ。



「…………」

「…………」

「…………」

「…………」



 そうして沈黙は続き、居心地の悪さを感じて俺はぽりぽりと頬を掻く。


 手持ち無沙汰になり、望み薄だと思うがこれまでの、つまりは学校の校門で出会ってから今に至るまで。その道程の中で、後輩Aが俺に望んだ回答に繋がるモノが在っただろうかと考えてみる。




 さて、後輩Aは俺になにを言いたいのだろう?

 頭から綿アメのようなモコモコふきだしが出ている(てい)で回想スタート。




 帰路に着こうと校門を出て、数歩進んだところで、今目の前を歩いている後輩Aに呼び止められ、何となく一緒に帰路に着く。まぁ、いつも通りだ。なんだかんだでこうして下校している。


 桃色で、いちゃいちゃ、甘々な会話をしながら楽しく下校。――まぁ、嘘だけど。

 少し、見栄を張りたかっただけ。が、なんだか気分が落ち込んだから止めておく。


 そりゃ、俺も思春期まっしぐらな高校2年生であり、彼女の1人やふた……いや、2人はダメだ。不純異性交遊どころの話じゃない。


 ……ともかく、彼女が欲しいお年頃。


 自分自身、カッコいいとは思わないが、不細工ではないと思う。「少し目つきが悪いくらい」そう言ったら笑われたことがあった。「あんたの目は“目つきが悪い”じゃなくて、どうよく言っても“眠たげで気だるげな目”」だ、そうだ。


 要は、目つきを悪く感じさせるような鋭さの欠片もないということらしい。


 だが、しかしである。そんなことはどうでもいい。

 生憎、俺はモテモテイケてるメンズではなく、寧ろ「こんなところでラブるなコメるなっ!カポーなんぞ消えちまえ!」と、僻む側の人種。



 回想に空想を混じらせて、脚色を施してみただけ。しかし、よりにもよって、この後輩で見栄を張ろうとは……。

 いや、客観的に見て、可愛いと綺麗の中間みたいな整った顔立ちをしているので、容姿のみ見れば非常に魅力的に映る。――魅力的なんだが……、なんだろうイマイチ後輩Aが彼女という状況が想像出来ない。


 詰まるところ、俺にとって後輩Aは、『後輩』という席がベストポジションなんだろう。――うん、そういうことにしておきましょう。それがよろしい。



 しかし、誰に対して自分は見栄を張ろうとしたのだろうか?自分自身に対してだったら、笑えるより泣けてくる。



 回想が脱線しかけたので、間違っても桃色ピンクでイチャイチャチュッパチャップスな彼氏彼女の関係では無い。あくまで、先輩後輩なだけ。と、ここで終止符の言葉を打っておく。こうして自分自身の思考を打ち止め。



 回想再開。

 校門でばったり出会い、確か……、「今日は、部活ないのか?」とかそんな会話をしたと思う。


 国道沿いの並木道を歩きながら、本日あったことをつらつらと駄弁る。

 学校近くの商店街を、「宿題プリントうぜー」とか、「最近数学がちんぷんかんぷんです」とか、近況報告のような、意味のない学校に関する雑談会話をしながら通り抜け……。



 ――あぁ、そういえば。と記憶の引っ掛かりに手がかかる。

 ――――そういえば、本屋の前で1回立ち止まったな。今月のオススメのような形で店頭に張り出されていた本の宣伝ポスターを憶えている。なんでも最近話題沸騰の恋愛小説だとかの理由で。


 ここで俺が聞き手に徹して、後輩Aがこの最近話題の恋愛小説をクラスメイトが読んでいたとか、薦められて読んでみただとか、そんな感じのことを話していたと思う。正直、恋愛小説には全く興味がわかない性質(たち)なのでここらへんは、話半分で聞き流していた。


 赤点落第な聞き手の態度。

 噂に聞けば、聞き上手はモテると言う。

 本当なれば、是非補修を受けに行くとしよう。



 閑話休題。



 いくら話半分だったとはいえ、小説のタイトルはちゃんと聞いていた。……たしか――『君は太陽』だったはず。妙にありきたりでクサいタイトルのお陰でなんだか内容が色々想像できてしまいそうだ。例えば恋人が病気だとか。


 とりあえずまぁ、これなら太陽に少なからず関係あるし、この話の途中で今下っている坂道に入ったのだから、キッカケがあったとすればここら辺なんだろうけど……。さてはて、後輩Aは話題の恋愛小説に対して何と言っていただろうか?


 …………。

 ……主人公が女子高生だとか、恋した相手が重病を患ってしまっただとか、空に関する表現が綺麗だとか、ついさっきのことだというのに断片的にしか思う出せない。

 

 余談だが。

 予想的中。純愛を謳った病気もの小説だった。恋愛小説には詳しくはないが、そんな奴の耳にも入るほど純愛を売りとして話題に上がる恋愛小説は大概、『若い主人公が病気』『若いヒロインが妊娠』などなど。そんなものが多い気がしてならない。


 俺の感性ではどうにもこれを純愛とは思えないんだよなぁ。……読んだことないけど。


 で、後輩Aはというと。

 えらく酷評していた。この後輩の琴線にも触れなかったらしい。

 基本線クールでドライが後輩Aの性格だから、聞いているこっちが滅入るほどの辛口評価だった。

 ……あ、いや、一箇所だけ評価していた。「好きな人の例えに太陽を出したのは凄く共感できます」とか言っていた気がする。なんでも、胸の内がホッコリ温かくなる感じがするんだとか。



 しかし、この話のどこをどう考えても、後輩の質問に結びつかない。直接関係があるのは、太陽の単語だけだ。



 一区切りついたということでここで回想を止める。加えて、これ以上思い返しても手がかりがないような気もする。


 

「ん~、~?」


 唸ってみる。

 ひねり出すように。


「~~~~~~!」


 なにも閃かなかった。



 考えても分からんので、後輩Aが次にどんなアクションを起こすのか、とその華奢な背中を観察する。


 少し小柄で、折れそうなほど線が細い。でも、そこに儚さなんか気ほどにも無く、なんだか健康美的な、上手くは言い表せないがそんな感じのものが滲み出ている気さえする。


 そんな後輩。――そんな、女の子の背中。



 俺と後輩Aは、方角的に沈む太陽を真正面に据えた形で坂道を下っている。逆光の中の存在に思わず目を細めた。


 ――なんだろう、夕日に向かって消えてしまいそうなその背中とか、横の道路を車が通り、そのせいで吹いた風に揺れるショートの黒髪とか、ヘンに(さま)になるというか、絵になるというか……。



「先輩?」


 突然後輩Aはクルリと振り返り、器用にこちらを向いたまま後ろ歩きを始めた。


「……うぇ?」


 その仕草に、ポーンっと投げ出されていた思考が舞い戻る。同時に彼女の顔が視界に入る。逆光で見え難いがいつもの無表情。しかしそこには、微かにだが疑問符が浮かんで見えた。


「どうしたんですか、うんうん唸り始めて?」

「……先生の出した問題が難しくて、必死で答えを探していたのです」


 素直に分かりませんと答えるのは癪だった。


「そうですか」

「……人がボケたらツッコまずとも、せめてふれることくらいはしてくれと、知り合った時から何度言えばわかってくれるんだ後輩A……。後ろ、道路標識、危ないぞ?」


 顔を背けるような形で後ろを確認しながら「すみません」と言い、器用に道路標識を避ける。……今更だけど、前向いて歩けよ、おい。



「で、どういう意味の質問?」


 ギブアップ宣言。降参です、模範解答プリーズ。

 妙な意地も、目の前を歩く後輩の姿がほんの少し楽しげで、すっかり毒気を抜かれて張る意味を失ってしまった。



「さっき話した恋愛小説なんですけど――」

 

 話を急に方向転換させるのも止めてくれと、こっちも知り合った時から何度言えば分かるんだ。


「――主人公が、相手のことを思うモノローグの部分で言うんです。『彼はまるで太陽みたい』って」

 

 とまぁ、小言を言うべきではない。珍しく、ハニカミながら楽しそうに(とても分かり難いんだが)話すから今度もおとなしく聞き手に回る。




「『一緒にいると温かくって、心の奥、体の芯から温まって心地良いのに、ある一線を越えると彼自身が眩し過ぎるくらい頑張っていて、命を燃やしながら笑っていることが分かってしまって、それが痛々しくて傍にいるこっちが痛みで消えてしまいそう』」



 楽しそうに。

 それでいて大切な気持ちを語るように。



「『心と心の間に壁がないかわりに、何百光年と距離があるから、近づく事も手を伸ばす事も怖くなってしまう。――それでも、手を伸ばせば触れるし、隣に立とうと思えば立てる。友情でも愛情でも、彼と私を繋いでくれるものがあるから、私は怖くても頑張れる』」


 

 それがちゃんとまだ自分の内にあるか確かめるかのように。



「『あなたの傍で、頑張れる』」



 一拍の間を置いて、何か大事な物でも確かめるかのように呟く。



「『そして、願う。日に日に弱くなっていく灯火より、今日より明日、明日より明後日と強く光る太陽で在り続けてほしいと』そして、主人公が最後に彼に向けて呟くんです。『明日、太陽は今日よりも輝いているでしょうか?』って」



 風景に溶かし込んでいくような語り。けれど、そこに大事なものはちゃんと詰まっていて。あぁ、なにか大きな“特別”が彼女の中にあるんだろうな。と、哀愁のような気持ちを覚えた。




 後輩Aの話が終わると同時に、切りよく坂の一番下に着いた。


「そういうことです、先輩」 

「いや、正直――」


 ――正直、良くわかんないッス。


「後輩Aが唯一気に入ったシーンに出てくる、重病を患っている片恋相手に対した比喩表現だってことは何となく分かったけど、その質問をそっくりそのままオレにした意味が分かんねぇ」


 俺は余命宣告されるほどの重病患者なんかじゃ、もちろんない。


「人生経験を積めば分かるんじゃないですか?じゃあ、私はこっちの道ですから」

「……あぁ、――そんじゃぁな」


 多少の不完全燃焼感は残るが、ここでお別れ。

 お互いに背を向けて、オレは左の道、後輩Aは右の道へと歩く。



 ふと。後ろで歩みを止める気配。そして、「先輩っ!」という声につられて振り返る。



 後輩Aは、夕日に照らされ、ほんのり赤い顔をこちらに向け、「私、頑張りますっ」と、今日一番極上の笑顔でそう宣言した。



「うぃ、頑張れよ」

 具体的になにを頑張るかは知らんけど。


 

 取って付けたような返事に後輩Aは、困ったように、諦めるように。



 けれど満足そうに笑顔を見せ、



「明日も、学校に来てくださいよ!」



 一言。そして、今度は振り返ることなく帰っていった。






初投稿になります。以後お見知りおきを


見切り発車で執筆しました

作者自身着地点を見失いましたし、内容ちゃんと伝えられた自信がありません


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― 新着の感想 ―
[一言] 読んでいて非常に気持ちよかったです。 ――先輩にツッコミを入れたくなったり、二人の会話に思わず笑っちゃったり・・・・・・ そして何よりも先輩と後輩Aの今後が気になります!! 変な感想…
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