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グローサー・マジック  作者: チャラン


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第9話 丸い頭のつぶらな目

 モールベアの生息域である山の尾根は広く開けており、木々もそれほど生い茂っていない。フラットがじっくりと辺りを見回したところ、この尾根には月明かりも奥まで届かない、真っ暗な大穴が幾つかあるようだ。どうやら山肌に掘られたそれらの大穴が、巨大動物モールベアの住む巣穴になっているのだろう。


「あそこの巣穴に入って調べるぞ。ついて来い」

「えっ!? 何言ってんだ!? ちょっと待てよ! ワイズ!」


 ワイズは頭のネジがぶっ飛んでいるのか、フラットが聞き間違いかと思うような指示を一言だけ残すと、幾つかあるモールベアの巣穴の一つに目星をつけ、何の躊躇(ちゅうちょ)もなく中へ入って行った。


 へたり込み、休んでいる最中のフラットは、考えに全くなかったワイズの行動を見て、呆気にとられていたが、


(あいつはどうかしてるんじゃないか!? ついて行くしかなくなったじゃないか! ちくしょう!)


 無謀に近い勇気を無理やり奮い立たせると、重い木箱を再び背負い、変人学者の後を追って巣穴の中に進入する。




 虎穴に入らずんば虎子を得ずということわざがあるが、この(たび)入っているのはモールベアの巣穴であり、虎の穴ではない。傍からフラットが見る限り、凶暴な巨大動物の()()()へ、この変人学者は無謀にも飛び込んだとしか目に映らなかったのだが、どうやらそうではないらしい。


「モールベアは夜行性で、今の時刻は深夜だ。まず間違いなく巣穴から出て、生息域近辺で何かしらの活動をしているだろう。何も無鉄砲に巣穴の中へ入ったわけじゃあない」


 ワイズは、大手を振って歩けるほどの広さがある巣穴を進みながら、モールベアの生態を絡めてそう説明した。


 根拠があっての行動だということが分かったフラットは、ある程度安心したのだが、途中でほぼ直角に掘られた、巣穴のL字カーブ部分を曲がるとき、カンテラの明かりしか暗闇を照らす頼りがなくなり、歩を進めながらも随分な量の冷や汗を(にじ)ませている。




 結果として、モールベアの生態に基づいて先程語った、ワイズの推測は正しかったようだ。通路より一回り広く掘られた巣穴の最深部に2人は到達したのだが、そこにモールベアの姿は見当たらない。


「ふーむ、やはりそうそう上手く話は終わらないもんだな。フラット、これを見てみろ」


 そう呼びかけ、カンテラの明かりをかざし、最深部の暗闇の中でワイズが指し示したのは、枯れ果てて茶色くなった太い棒状の植物だった。


 フラットは茶色に枯れたその植物を見ながら、少しの間、考えていたが、


「どう見ても枯れてるけど……もしかして、これがサッキン草なのか?」


 自分の見解が合っているのかどうか、ワイズに尋ねる。


「自然薯の仲間のように見えるかもしれないが、そうだ。これがサッキン草だ。見た通り茶色に枯れている。これでは薬草としての効能はないな。新鮮なサッキン草が手に入れば、ここで話は済んでいたんだが……しょうがない。一旦、外に出るぞ」


 フラットの問いかけにそう答えたワイズは、同時に巣穴から出ることを即断即決し、出口へ向けて(きびす)を返した。元よりここは巨大動物モールベアの巣の最深部である。決して長居できる場所ではない。現時点でサッキン草を入手できていない焦りはあるが、


(まだ何か、ワイズは考えてくれているはずだ)


 と、フラットは自分を納得させた(のち)、出口に向かって先を行くワイズを、足早に追って行った。




 成人のワイズはどうか分からないが、フラットは年端もいかない少年である。リースを救うために勇気を振り絞っているとはいえ、凶暴なモールベアの巣穴の中にいる今、尋常な精神状態を保ち続けるのにも限界がある。


(早く外に出たい)


 その押し迫る恐怖感からか、背負った木箱の重さも忘れたフラットは、先を行くワイズを急かしながら巣穴のL字カーブを曲がり、出口の差し掛かりまで戻って来た。


 しかしながら、イレギュラーというものは()()()()というときに発生する。


 丸い頭のつぶらな目でこちらを見る、巨大動物モールベアが、腕にサッキン草を抱え、月明かりを背に大きな影を落とし、出口付近に立っているではないか!

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