第6話 保菌動物
胸斑病は致死率が高いものの、人から人へは感染しない特殊な性質を持つ感染症であるため、クライムランドで古くから恐れられる風土病でありながら、累計の感染者数は現在に至るまで少なかった。その理由として、ワイズは今、保菌動物の特殊性を語っている。
「俺が住んでいる丘から見て少々西に行った所になだらかな山があるよな? そこにモールベアが生息しているのはお前も知っているだろう、フラット。モールベアは、昔から標高の高い内陸国家クライムランドに生息している巨大動物で、胸斑病の保菌動物でもある」
ワイズは塩をつけた残りの茹でジャガイモをパクつきながら、巨大動物モールベアについて、そう解説した。当てずっぽうでモールベアが胸斑病の保菌動物であると、言っているわけではなさそうだ。ワイズがフラットに講釈を垂れるときは、いつも丁寧な独自調査を根拠としており、今話している説も確度的に見て間違いないのだろう。
また、この変人学者は滑らかな口調で、次のような推論を続けている。
胸斑病に罹ったリースは花屋であり、度々、野花の採取に行っている。リースは花を採取する際、周囲の心配を他所に少々危険を冒し、クライムランドのモールベア生息域まで足を伸ばすことが多いのだが、それには理由がある。モールベア生息域には、ニードルローズというトゲが多い品種でありながら商品価値が高い、希少なバラが群生しているからだ。リースは店の売り物にするため、ニードルローズの採取を行っていた際、触り方を誤り、手に軽い怪我を負った可能性が高い。
「つまり、わずかにニードルローズの鋭いトゲについていたモールベアの血が、手の怪我を通して体に入り込んだことによる血液感染というわけだ。リースが胸斑病を発症するまでの経緯は、そんなところだろう」
ワイズは学者らしい客観性で淡々と自説を述べた後、そう結論づけた。
一時の沈黙が流れ、あまりに淡々と話したワイズに対し、フラットは怒りに近い苛立ちを感じている。
(胸斑病の感染経路っていうのは分かった……。でも、そこまで分かっていてどうして!)
昏々と眠るリースの命が風前の灯であることへの想いも募り、フラットは自身の血が沸き立ってくるのを感じたが、ぐっとこらえ、
「じゃあそれをどう治せばいいんだ! 教えてくれ!」
遣る方無い怒りの拳を握りしめながら、ワイズに強く問いかけると共に、助力を求めた。
ワイズはフラットの怒りを察したのか、すぐに返答をせず、少し間を置いていたのだが、
「手は貸してやる。まあちょっと落ち着け。そんなにいきり立っていたのでは、話の続きもできん」
年長者としての冷静さで年が離れた友人を宥め、気を鎮めさせる。
少し経ち、フラットが冷静さを取り戻してきたのを見計らうと、ワイズは安堵のため息を吐き、妙な切り口から次の話を始めた。




