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グローサー・マジック  作者: チャラン


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第5話 思念波

「なんだよこれ!? 紙にフェイクの魔法を放っても、普通は人の姿なんか写らないぞ!? 何が起こったんだ!?」


 考えに全く無いことが起こり、フラットは多少混乱しながらトーンを上げてワイズにまくし立てる。なぜこうなったのか、その説明を強く求められている当のワイズはというと、実験結果に満足がいった様子で、フラットの姿が写った縦長の紙を見ながら一人うなずいていた。


「ジャガイモを持ってきてくれたんだな。ちょうど腹が減ってたんだ。貰うぞ」


 実験結果の説明の求めをスカした形で、ワイズはフラットのリュックから玉太りの良い数個のジャガイモを取り出し、ナイフで器用に皮を剥き始めた。ジャガイモを煮て食べる用意をしながら、そこでようやく独り言を呟くかの如く、先ほどの実験で何が起こったのか、学者らしい専門用語を並べて説明する。


「フラット、お前は精神系魔法を使うのが得意だよな? さっき放ったフェイクも精神系魔法の一種だが、その系統の魔法というのは思念波……つまり術者の念により相手の精神へ何らかの作用を起こす波のことだ。波には位相というものがある。思念波の位相を揃えることにより、魔法の威力が増幅され……」


 ジャガイモを剥き終えたワイズは話の調子が乗ってきたのか、水を張った鍋で芋をコトコトと煮ながら、自分の学説による説明を続けていたが、


「??? 思念波は分かる。魔法の威力が増幅されたっていうのも何となく分かる。でも位相って何だよ、もうちょっと分かるように言ってくれよ」


 と、途中でフラットにツッコまれ、語りをピタッと止めてしまった。付き合いが古い2人のこうしたやり取りは今に始まったことではなく、ワイズが専門用語を並べて自分の怪しげな学説を語るとき、フラットが『それ分からないから』という風に、厳しいツッコミ役に回るケースがしばしばだった。


「ふむ。じゃあ平たく言い直そう。フェイクの思念波の光が黒鏡で反射して強くなった。強められた魔法光があの白い紙に照射されて、フラットの姿を写し出したんだよ」


 簡単に短く話をまとめ、フラットにも合点がいく説明ができたところで、鍋にかけていたジャガイモが煮上がったようだ。ワイズは夜中まで食事も忘れて、妙な研究に没頭していたのだろう。鍋の湯を流してジャガイモをザルに上げると、そのまま塩を振りかけてパクパクと食べ始めた。


「この黒鏡はそんな凄い物なのか……。信じられないが、実際に見ちまったからな。俺の姿が紙に写るのを……」


 シンプルな説明で納得がいったフラットは、茫洋(ぼうよう)とした目で自分の前にある漆黒の鏡面を眺めていたのだが、


「ところで、お前用があってこんな夜中にここへ来たんだろ。聞くだけ聞いてやるから話してみろ」


 と、つっけんどんなワイズが、いつもにない意外な親切さで用件を聞いてきたことで、フラットはハッと我に返り、胸斑病に(かか)ったリースのこと、幼馴染のリースを何とか助けたいことを自分の言葉で懸命に伝えた。


 誠意を込め、訴えるかのように状況と経緯を話した(のち)


「何でもいい! 何とか力を貸してくれ!」


 フラットは半ば拝みながら、変人学者ワイズに助力を頼み込んだ。




 経緯の一部始終を聞いたワイズの反応はフラットにとって意外なもので、この変人学者は話を聞き終えるなり、開口一番こんなことを言っている。


「やれやれ。あらかじめ俺が忠告しておいたのに、クライムランドの国民は全く聞く耳を持たなかったんだな」


 思いも寄らない言葉を聞き、意味が理解できずキョトンとしているフラットを見たワイズは、少しだけ笑い、


「まあいい。それはそれとしてお前との仲だ。胸斑病について教えてやろう」


 と、クライムランドの風土病的感染症であり、今、リースの命を奪おうとしている胸斑病について、詳しく語り始めた。

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