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グローサー・マジック  作者: チャラン


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第1話 ねぼすけフラットの日常

「フラット! いつまで寝てるんだい! 朝飯済ませて手伝いな!」


 ほの暖かい朝日が差し込み始めても、少年は小一時間ベッドでまどろみ続けていたが、階段下から肝っ玉母さんの大声に叩き起こされ、慌てて着替えを済ませると、2階の自室を出てドタドタと1階へ降りて行った。


 ねぼすけの少年フラットは、急いで朝飯を食べ、母のフォルテに叱られながら、1階の商品棚スペースになかなかの手際の良さで、野菜や食料雑貨類の商品を次々と並べていく。どうやらフラットの家は住居の1階部分を利用し、食料雑貨店を経営しているようで、見事な仕事ぶりから見るに、母親のフォルテが仕入れから販売までしっかりと切り盛りを担い、店を回していっているのは間違いない。


 一通り商品を並べ終えたフラットが、店の軒先から出て荷箱を抱えようとしていた丁度その時、空からの暖かい朝日が目に差し込んできた。あまりの眩しさに荷箱を一旦下ろしたフラットは、思わず右手で陽光を遮る。フラットは日の光を遮りつつ、右手指の間から、この内陸国家クライムランドの誇りとされている、そびえ立つ大岩壁の威容を遠くに眺めていた。


「あら、フラット。今起きたんでしょ? お寝坊さんね。頭に寝癖がついてるわよ」


 朝日の眩しさにまだ慣れないフラットの寝ぼけ眼を見て、クスクスと笑いながら、栗色セミロングのチャーミングな少女が話しかけてきた。隣家に住むフラットの幼馴染、花屋の娘リースだ。


「相変わらず早起きだなリース。毎朝母さんに起こされて店の手伝いをしてるけど、俺は朝が苦手だよ。どうやってもこれは直らないね」

「ふふっ。フラットらしいけど、あなたはお母さんの跡を継いで食料雑貨店をやっていくんでしょ? 早起きに慣れていかないと駄目よ。いつかはそうなるんだから」


 しっかり者のリースにそう諭されたフラットであったが、まだまだ店の跡継ぎとしての自覚が芽生えてこないようで、寝癖を手ぐしで直しながら、まだ眠たそうにあくびをしていた。


 こんな風に毎日、フラットは店先でのんびりと明るく振る舞い、また、母親のフォルテも気丈に店を切り盛りしているのだが、この母子には、今の明るさからは想像しがたい非常に辛い過去がある。


 元々この住居を兼ねた食料雑貨店を建てたのはフラットの父親で、当時、妻のフォルテと二人三脚で店を経営していた。夫婦の愛想の良さと、ちょっとしたイベントを催したり、おまけをつけてくれるなどのサービスの良さが評判になり、当時から店は繁盛していた。


 フラットの父は商売に関して少々野心家で、食料雑貨店の経営が軌道に乗ると、より手広い仕入れを行っていこうと考え、妻のフォルテに店と幼い一人息子のフラットを任せた(のち)、自身は行商ルートを開設するため、クライムランドの隣国、ウッドランドへ向かった。だが、そこで悲劇が起こった。


 ウッドランドは伝統的に、多様な食料や加工品が市場で取引されている商業国家なのだが、当時、政情が不安定で危険が多い国でもあった。そうした国状とタイミングの不運が重なり、フラットの父が行商で滞在していた時、ウッドランド国内で内戦が勃発した。内戦に巻き込まれたフラットの父は消息不明となり、妻と息子が待つクライムランドの家へ、10年経った今でも帰ることはなかった。


「フラット。眠いんでしょうけど、後ろにお客さんが来てるわよ」


 父を失った辛い過去を引きずることなくフラットが明るく暮らせているのは、幼い頃から遊んでくれているリースとの何気ない毎日の会話や、ひいきのお客さんからのちょっとした励ましといった、支えに依るところが大きい。今、食料雑貨店に来ているクライムランドの兵士も、そういった常連客の一人なのだが、リースに呼びかけられ後ろを振り向いたフラットが、背の高い来客の様子を見てみたところ、どうも今日は顔色がすぐれないようだ。


「フラット君……今日は頼みがあって来たんだが、聞いてくれるか? 明日、クライムランド城で上級兵士への昇格試験があるんだが……」

「うん。顔を見たら分かるよ。その試験が気になって眠れないんでしょ? 今日は非番で休みなんだよね? じゃあ、魔法をかけてあげよう」


 フラットは客のクライムランド兵から事情を少し聞くと、店の軒先に置いてある椅子に座らせ、


「ダ・スリープネス!」


 兵士の頭に両手をかざし、後催眠の魔法をかけた! 両手のひらから発せられた淡い緑色の光が、クライムランド兵の頭をしばらく包み込み、やがて収束していく。


「よし。これで家に帰る頃には眠くなるはずだよ。よく寝て、明日の昇格試験頑張って」

「ありがとう、フラット君! 今日は沢山買って帰るよ。明日は頑張るぞ!」


 後催眠の魔法で安眠が確約されたクライムランド兵は、フラットに深く感謝すると、ジャガイモなどの野菜や、牛肉を煮込んだ缶詰などの食料雑貨を沢山買い込み、真っ直ぐ自宅に帰って行った。


 直系や傍系、家系のどの部分を辿ってみても先祖に魔道士はいないのだが、フラットは、何故か生まれつき精神系魔法を使える天分を持っており、特に催眠や睡眠誘発の魔法に長けていた。先ほどのクライムランド兵のように、何らかの原因で一時的な不眠を訴える客に対し、後催眠の魔法をかけることもしばしばで、魔法をかけた対価として店の食料雑貨類を買ってもらい、売上に貢献するケースも多かった。

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