最高な展開へと
「おい!見つけたぞ!」
男の大きな声が聞こえ、俺もエルナも目を覚ます。いつもより早い時間なのでやや眠たいが男の声に続いてもう2人ほどこちらに向かってくる。
「君たち、昨日ハリビアお嬢様を救ってくれた方たちだね?」
大きな体の少しイカつい見た目の男が話しかけてくる。
もしかして俺たちを探し回ってたのか?誤魔化す理由もないのでエルナもその問いかけに頷く。
「もし昨日の出来事を言っているのなら、救うなんて大したことはしていませんよ」
「謙遜はやめてほしい。実は今日の朝早くから君たちの存在を見つけるようにハリビア王女から命令を出されているんだ」
「ガウルさん。無視するのは相手方にも迷惑だと思います。ここは素直に出向くのが良いのでは…?」
怪しい人達ではないだろうが、一体何が目的なのか。
「お礼ならこんな大層な捜索はしないはずでは?」
「私たちを警戒しているなら誤解は避けたい。何せハリビア王女から君たちに会って直接お礼を伝えたいと強く懇願されていてな。俺たちからもぜひお礼をさせてほしい」
いくらハリビア家のお嬢様の誘拐を止めたとはいえ、少々やりすぎな気もするが…。
「わかりました。お礼を言われるのは嫌な気はしないのでついて行きます。入口にでもいるんですか?」
「何を言っている。直接会うことを希望しているのだぞ?ハリビア家に直接赴く他ないだろう」
やはり会ってすぐさよならとはならないようだ。
「もしかして怒られるんじゃないでしょうか。俺たちと少し話したことも原因の1つだと思うので」
もしすぐに家に帰るよう促せていれば少しくらい襲われる可能性は低く…なっていただろう、多分。
「経緯はどうであれそのような可能性は排除してもらって構わない。ここで話を長引かせるのはしたくないのだが…」
「では案内をお願いします。エルナも大丈夫か?」
「私は問題ありません!」
ハリビア家に招待されたのが少し嬉しいかのような顔だな。
「遊びに行くわけじゃないからな」
「わ、わかってますよ!」
ちょっとワクワクしてるな。
「そのくらいの心意気の方がこちらとしても歓迎しやすい」
笑いながら案内をする男について行く。
入口から中へ入り、少し特殊な通路へと導かれる。
「ここ、普段は通れない道ですよね?いいんですか?」
今通っている道は普段扉にロックがかかっていて通れない場所だ。
「この道はハリビア家、及び最高階級の者たちとその付き人にしか通れない仕組みになっているからな。君たちは今特別な体験をしてることになるぞ」
ほへぇ。なんだかすごい経験をしているようで、逆に不安になってくる。
するとある張り紙に目を奪われる。
「すみません。少し待っていてくれませんか?すぐに戻ります」
許可を貰いその張り紙に目を通す。ほどなくして男の方へと戻ってくる。
そこから階段を登り見えてきたハリビア大国の中央付近に建てられているすごく立派な建物を捉える。
「さすがというか…緊張してきたな」
「私、水浴びして来てませんよ…?大丈夫でしょうか…」
特別汚れているわけでもないが、こんな神聖な場所に来ていい格好ではないのも事実。
すると家の入口と思われる場所になんともお嬢様らしい格好をしたエイリスの姿が見えた。それに気づいたエイリスがこちらに軽く手を振って出迎えてくれる。
「見つかったのですね…!もう離れてしまったかと心配していたんです!」
そう言いエルナと俺の手を軽く握って笑顔で振舞ってくれる。
「あぁ、突然失礼いたしましたっ。この先でお母様もお待ちです。一緒に行きましょうか」
らしいので素直について行く。内装はやはり壮大なもので、The・王女様の家、みたいな作りだ。
「な、なぁ。俺たちこんな身なりだが失礼過ぎないか…?作法とか礼儀正しさとか正直あまり期待してほしくはないんだが…」
「心配ご無用ですよ。必要なら浴場も用意できます。あなた様方には本当に感謝してもしきれないのですから…!」
やはりオーバー過ぎる展開だが、そんなに感謝されているのなら、まぁわざわざ指摘するのは今更無意味だろう。
「ささ、このドアの先ですよ。一緒に入りましょうか」
ここに来てかなり緊張してきたがここで引き返すことなどできないので中へと入っていく。
「し、失礼しま〜す…」
俺もエルナもやや遠慮気味に室内へと足を踏み入れる。そこには長テーブルに高価そうな椅子が並べられていて、奥にはハリビア王女が座って待っていた。
「お母様。昨日の出来事から助けていただいたお2人をお連れいたしました」
「まずはそこへ腰をおかけくださいませ」
そう促されなるべく丁寧に座らせてもらう。
「まずは改めて感謝の意をお伝えさせてください。あなた方があの場にいなければ、エイリスは今ここにいなかったかもしれないのです。本当にありがとうございました」
「いや、助けられたのは結果的に良かったですがわざわざこのような場を設けてまでお礼を言われるようなことでは…」
「ガウルさんと言いましたね。それからエルナさん。そんなに遠慮することはないですよ。助けられた私自身なんとしてでもお礼を伝えたかったのです。元々は私の不注意によるもの。それは恥ずべきことなのは重々承知しているおつもりですが、お母様のお気持ちも私のお気持ちも汲んでいただけないでしょうか」
優しく微笑みかけるエイリスと王女に、これ以上謙遜的態度をとっていると逆に失礼な気もしてきたので素直に話を進めることにしよう。
「俺たちに向けてくださる感謝は十分と言うほど伝わりましたよ。それで、これから俺たちはどうすれば良いのでしょうか?」
「そう急がないでくださいませ。それともご予定があるのでしょうか…?」
「全くありませんが、やはり落ち着かなくて…」
慣れない場所でこの2人と共に居るのはあまりしたくないと思ってしまった。
「お時間があるのでしたら、どうぞくつろいで行ってくださいませ。なにかお礼として見合うものを渡せれば良いのですが…大金貨ならいくらでもご用意できますが、お金で済ませるようではこちらとしても満足いきませんし…」
言葉だけではなく物理的なお礼もしたいと言う王女。
さすがこのハリビアの国最大の王女だな…どれだけの大金でもお礼の範疇に入らないと言う。
ここで俺はこの場を利用する形で少し頼み事をしてみることにした。もちろん見返りなど求めていなかったのだがこれは最大のチャンスだと思ったからだ。
「あの、もしよろしければ頼み事のようなものを話だけでも聞いていただけませんか?」
「もちろんです。どんな事でも仰ってください」
ここで俺たちの事情を2人に話すことにした。もちろん変身していることなどは一切伝えず、ここに来た経緯など話せる部分を伝える。多少都合のいいように作り話も混ぜたがエルナも話を合わせてくれる。
「そうだったのですね。確かに頼れる大人がいなければ何をするにも手が打てませんよね」
「エイリスの言う通り何も行動に移せない状況なんです」
「ちょ、ちょっとガウルさん…!」
エルナがびっくりした様子で俺の服を軽く引っ張る。
「エイリスさん…を呼び捨てにしては…!」
そういう事か。確かに無意識とはいえこの場で、しかも実の王女様の前でお嬢様のことを呼び捨てにするのは間違いだな。
「ウフフ、良いのですよ。どうぞお2人には好きなようにお呼びください」
ニコニコとそれを許してくれるエイリスと王女様。
「えと、ではお言葉に甘えて。そう、なので行動を移せるようにぜひ王女様のお力を貸してほしいんです」
まさかの提案にエルナもやや驚く。
「具体的にはどのような場面でどのようなことをすれば良いのですか…?」
「このハリビア大国にはかなり大きな『魔法学校』のような存在があることを知りました。そこでは保護者と学校側の契約をすれば寮のようなところを借りられるとも先ほど来る途中で見た張り紙で見ました。ですがやはり保護者のような存在がなければ入ることすらできません。なので王女様がその保護者による契約を結んでくれるとこちらとしては理想なのですが」
俺は魔力はあるだろうが魔法などは一切使えないので、下級生として入学するには見た目も相まって理想的な展開と言える。
今の話を聞きエルナは口には出さないが無理なお願いだと不安にしているが、王女様とエイリスは考え込むように頷いた。
「確かにお母様が契約するとなれば契約はできるでしょう。理由もいくつか作れますし、多少不自然さは残りますが決してできないことはないと思います」
それに2人が納得し、すぐにでも契約できると話を進めてくれる。
「入学に必要な資金もこちら側で用意いたします。私はすぐに色々な準備をしてきます。状況もその都度ガウルさん達に伝えますね。それまでどうぞこの家でゆっくり泊まっていってください。部屋も全てこちら側で手配いたしますので」
何から何まで願った叶ったりな状況を作ってくれることに。
「これ以上ないほどの見返りをありがとうございます。俺の方こそ感謝してもしきれないですよ」
それから少し話をし、この室内を後にして、この家での少しの間の生活がスタートする。
「ほんとにすごい展開ですね…夢を見ているようです」
「それで納得してくれるならこちらとしても嬉しい限りですよ。改めてよろしくお願いしますね、ガウルさんとエルナさん」
「あぁ、お世話になります」
「そう遠慮なさらなくて結構ですのに」
そうは言ってくれるが、世話になる以上それなりの態度を示さないと失礼だと思ってしまう。
さて、これから俺たちの部屋だと言う場所へエイリスから案内される。俺とエルナ2人でも十分スペースが空くほど広い部屋だ。必要最低限の生活用品なども揃っており、さすがだと感心する。
それから軽く広い家の案内もしてもらい、だいたい把握してきた。軽くとはいえあまりにも広いためそれなりの時間がかかり夕方になる。
そして俺たちの部屋に戻ってくる。
「では、軽く案内もしたことですし、後はお2人ご自由になさってください。残念ですが私は今から用事がありますので」
「お嬢様だからな。むしろ案内までありがとうな」
ぺこりと頭を一度下げ、エイリスは去ってゆく。




