波乱万丈ハリビア大国
予想通り3日の夜を経てついにハリビア大国と思われる場所を目撃する。昨日、一昨日と連続で変身魔法をかけ続けたが全く解けることはなく、エルナが寝ている間も魔力を消費し続ければ問題なくこの姿でいられた。ただこれで安心し切るのはできないな。突然のトラブルなども考えられるし、問題ないとは言ってもエルナへの負担はやはりかかっているため無理をさせることには違いない。
大国の外は意外と森になっており大国の周りにはガッツリ…でもなく普通の囲いで覆われているため、ここでもまた異世界要素を感じる。
「ようやく辿り着けたな。なんだか変に緊張してきたぜ」
「そうだな。俺も初めてこういうところに来るだけあってかなり緊張してる」
「私もです。ですが魔法ならお任せ下さい」
ここに来て変身が解けて打首なんて展開になったら笑えないな。
「頼んだぞエルナ」
バレないギリギリまで近づき魔法をかけ人間の姿へと変身を済ませる。
「じゃあ、行くぞ」
森を抜けハリビア大国入口付近まで接近する。
見た限りでもかなりの人が出入りしているのが確認できる。
そして門番であろう厳しい顔をした男が2人ほど見張りをしている。一人一人厳しくチェックしているというより、不審な者がいないか目で念入りにチェックしている様子だ。
「これならあっさりいけそうだな」
何食わぬ顔でその門をくぐる。
「ほ、ほんとに入れたな…しかもこんなあっさりと」
「私の時は審査があったはずなんですが…随分と前のことなので変わったのかもしれませんね」
それはそれでありがたい。何よりここに入れたのはエルナのお陰に他ならないので改めて感謝を伝える。
「入れたのは良かったですがここじゃ人が多くて満足に話せませんし少し歩いてみませんか?」
確かにさっきまでとは比べ物にならないほど賑やかなのでそうしよう。
俺たちは入ってすぐ右側の階段を上りその先にあるちょっとした休憩所でこの先のことを話し合うことに。
「ひとまずイノガが暴れなくて一安心だ」
「ここまで来て人襲ってさよならじゃたまったもんじゃないからな。当たり前だぜ」
意外と状況は冷静に見れているようだな。
「それではこの先はどうしますか?ここでは通貨として金、銀、銅のコインが使えるのは変わってませんでした。ですが私たちは通貨も何も持っていませんのでどこかに泊まるというのは難しくなりますね」
なるほど、分かりやすい通貨設定だ。この国の価値を見る限り大金コインは1万円相当、小金コインは5000円相当、大銀コインは1000円相当、小銀コインは500円相当、銅コインは大小がなく10円相当なのだろう。
変に文化が複雑よりこういう方が理解できやすいので助かる。
ただ確かに俺たちは銅コインすら持っていないのも事実。
「おいどうすんだよ」
「宿で寝ることはできないが何とかこの大国の情報を集められるまでは適当に休憩所で朝が来るのを待つしかないだろうな」
エルナもイノガも不服そうな顔をしたがそうするしかないので渋々受け入れる。
「とりあえず夜も近づいてきてる。情報集めはまた明日にしよう。夜飯は今日の朝焼いておいた魚を食べることで納得してもらうしかないな」
この焼き魚には飽きてきたが、今朝準備しておいて正解だったな。
「くそー、そこら中に美味そうなもんがあんのに食えねぇのはモヤモヤすんなー」
「仕方ありませんよ」
大国と言うだけあって食べ物も武器屋もほとんどが充実していて、ほんとに賑やかだ。
飯も食べこの狭い休憩所で各々朝まで過ごすことに。
本当は持ち物を盗まれたりするリスクがあるだろうが、このバッグの中身は空っぽで盗むものもないのでその心配はないだろう。そもそもここはあまり人通りが少ない通りだ。
「まだ寝れそうにないしよ、ちょっと散歩してくるわ」
「俺たちはここにいる、そんなに遠くに行って迷うなよ」
「おう」
寝るにはまだ早いしな。散歩するのも悪くなさそうなので止めることなく承諾する。
「私としては水浴びをしたいところですが…外には出ない方が良さそうですよね」
「今は我慢してもらうしかないな。俺も風呂にゆっくり浸かりたい気分だ」
そんな会話をしていて時間があっという間に過ぎてゆく。
しかし、イノガの帰りが遅い。様子が気になるのでエルナも連れてイノガが散歩へ向かった方へ歩くことに。
そしてイノガと子供数名が話しているのを見つける。だが見た感じ普通に話し合っているというより絡まれているといった感じだ。
エルナが近づこうとするのを物陰から止め、様子を見ることにした。
「どうして止めるんですか?明らかによろしくない状況かと思います」
「それはそうだろうな。だが相手の様子が普通じゃない。ここで俺らも絡みに行くと状況は悪化する恐れがある。イノガの出方を見てからの方がいいだろう」
そう思っていた矢先、相手側の子どもがイノガにと詰め寄り、ポケットから刃物を取り出す。
「これはさすがに止めた方が良いのでは…!」
明らかに普通じゃない空気を感じるも、まだ行動を起こすわけにはいかない。
するとその子どもが他の子に指示を出し何かを始める。すると───
パチン。という感覚が脳を刺激しエルナも頭を抑え膝をつく。
なんだ…?理解出来ずにいるとエルナがブツブツと何かを訴えかける。
「まずいですガウルさん…今の衝撃は恐らく近くの魔法を遮断するちょっとした魔法です。それを私たちも受けてしまったようです…!」
それが意味すること。それはエルナの変身魔法も解けてしまうということ。
「魔力が上手くコントロールできません…どうしましょう…どうすれば…」
まさしく大ピンチに襲われる。ここで変身が切れれば俺もタダでは済まない。
イノガの方を見ると、困惑したように変身が今にも解けかかった状態になっていた。
相手側の子ども達も想定していなかった状況のようで怯えつつ騒ぎ立てる。
「クソ!!どうなってんだこれは!」
大慌てになるイノガだが、こうなってしまった以上俺もエルナもむやみに絡みに行けなくなる。
すると騒ぎを聞きつけた周りの目撃者の報告により、討伐班とは別の大柄な男たち2人が駆けつけてきた。
「な、なんだ貴様は!どこから入り込んだ!!大人しくしなさい!!」
「別に暴れようとしてるわけじゃねぇんだよ!!」
「抵抗はやめろ!!大人しく捕まれ化け物め!」
イノガは少し抵抗を見せるが暴れる素振りは見せず拘束される。
ここで乱闘を繰り広げるのは相手側も望まないのだろう。
「あとは任せた!!!俺なら大丈夫だ!!!」
「うるさいぞ静かにしろ!」
恐らく俺たちに向けた精一杯の一言を残し、大人しく外へと繋がる道へ連れていかれるイノガを物陰から見守ることしか出来なかった。
「こんな…こんなことになるなんて…ごめんなさい、ごめんなさい…」
「せっかくイノガとこの場所へ来れたというのに…くそっ、まさかこんなことで…」
これは決してエルナのせいではない。警戒心が足らなかった俺の問題だ。
「…ガウルさん…?」
そう、ここにきて別の問題が明らかになる。
「…なぜ俺は変身が解けていない?」
「私の魔法は完全にコントロールを失っています…どうしてでしょう?」
今考えても仕方がないのでこのうちに外へ出ることに。人目につかない森へととにかく走る。
「私のかけた魔術を受け、ガウルさん自身の魔力で補っている…ということでしょうか?」
「そんなこと可能なのか?俺自身魔力を消費している感覚はないぞ」
「真相は分かりませんが、私の魔術を解けば恐らく元のガウルさんに戻ります。試してみるのが1番良いかと思います。私の不注意でイノガさんも連れていかれてしまったことですし…」
もしエルナの仮説が正しければそれは大きな収穫だからな。すぐに試すことに。
「では、1度解きますね」
そうして元の獣の姿に戻る。
「もう一度変身魔法をかけますが、かけたあと私は魔力を一切注ぎ込みません」
「わかった。頼む」
そう言いまた魔法をかけてもらう。
そしてしばらく様子を見てみるが…。
「…やはり、ガウルさんは自分の魔力で私の魔術を補っていると見るべきですね」
「そんなことできることなのか?」
「不可能ではない話です。ガウルさんにその感覚がないのは少し不可解ではありますが」
とにかくこれを利用しない手はないので今後はこの手法で進めることに。
まだまだ理解出来ない世界だな…知らないことだらけだ。
「イノガの件は今となってはもうどうしようもない…。また出会えると信じることしかできない。だが今日はとりあえずハリビアに着いたんだ。それで満足しよう」
割り切ることを伝え、エルナと森で朝を待つことにした。
ほんとに色々あった1日だったな。明日から情報集めはどうするか、それを考えながら眠りにつく──────




