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スタート地点に向けて

スディル達と別れて2時間ほど歩いた後、エルナがお腹が鳴る。

「そろそろ昼飯の時間にするか」

「そうしましょう」

予めスディル達から昼飯にと焼き魚をくれたので、バッグを開きそれを2人で食べることに。

食べたあとは腹休めも兼ねて少し休憩を摂る。

「このペースだと3日ほど歩きっぱなしになりますね」

「かなりキツいが行くしかないだろうな」

そしてまた歩く。今後はこれを繰り返すと思うとなかなかなものだな。

さらに1時間ほど歩いた時、後ろから猛スピードでこちらに向かってくる気配を感じた。

「エルナ!俺の後ろに回れ!」

何者かがこちらに向かってきているのにエルナも気づき、すぐ後ろに身を隠す。

「俺の獲物だ!!!!!」

そう言いなりふり構わず殴りかかってきたのは、濃い茶色の毛を身にまとい鋭い立派な牙を生やした獣人。

その伸ばした腕を即掴みエルナから距離を離すように突き放す。

「あぁ?邪魔すんじゃねぇよ」

「いきなり飛びかかってきて何もしないわけにはいかないからな」

エルナは怯え震え出している。あまりいい状況じゃないな。

「悪いが俺は今ものすごく腹が減っててよ、もう何日も喰ってねぇんだ。力ずくでも奪い取ってやる!!!」

もはや話の通じるヤツじゃないと判断し、乱暴だが殴り合うしかなさそうだな。

「こっちにも守るべきものがある。ここで体力を消費するのは嫌だが、全力で相手するしかないな」

そして地を蹴り思い切りこちらに近づき右拳をぶつけてくる。それを左手で掴み捻り、少し姿勢を低くした相手の腹に容赦なく右膝を打ち込む。

「グェェ!ってぇぇなこのやろー!!!」

少し怯んだが余計暴れるので突っかかってくる相手の体を正面から受け力ずくで持ち上げ前方にぶん投げる。その起き上がろうとする相手の体を利用しまた腹に1発ぶち込む。

「ヵハッ!」

かすれた声を最後に完全に意識を失う獣人。

…やはりこの体はこういう戦いに極めて向いていると確信する。何よりエネルギーがどんどん湧き出てくる感覚がずっと体を巡っているからな。

あとは相手の行動をよく見て臨機応変に対応すれば良いだけのこと。

「さて、このまま放っておくのもまずいよな」

近くにある木にもたれ掛けさせ、気を戻すまで待つことにする。

泣きそうになっているエルナを安心させるためここは大丈夫だと伝えた方がいいと判断する。

「もう大丈夫だ。あとから追いかけられても面倒だからここで様子を見る」

「…また襲ってくる前に先へ急いだ方がいいんじゃないですか?」

「それも思ったんだが、変に体力を回復させるより気を戻した直後の方が徹底的に潰せると判断した。襲いかかってくるようならまたやり返せばいいしな」

この世界に来てから随分と考え方が変わったなと自分でも思う。おそらくはこの種族の性格がだいぶ関わっているのだろう。モロに影響を受けていると見るべきか。

「ガウルさんがそういうなら…」

「うぅ、ッてて」

気を戻したのか痛みを抑えながら体を起こす獣人。

「…!くそっ、腹は減るし痛てーし最悪だぜ、ったくよぉ」

「悪いがこれ以上暴れないでくれ」

「お前、どうしてそんなに強い。お前の種族とは何度か戦ったことがあるが、こんなにあっさり気絶させられたのは初めてだ」

コイツはやはり血の気の多い種族なんだろう。こうやって飛びかかってくるのも毎回のことなのか。

「それに関しては説明がつかないな。俺たちは先を急ぐ、まだ狙うならここで済ませるぞ」

「もうお前を相手にするのはやめた。勝てない相手に飛びかかるほどバカじゃねぇしな」

それはこちらとしてもありがたい。

「わかったならいい。じゃあな」

もう行こうとしたその時。

「あぁ待ってくれ!とにかく腹が減ったんだ。それに強いお前に興味が湧いた!そっちのちっこいのはもう襲わないからよ、俺もついて行っていいか?頼む!」

勢いよく頼みこまれ困惑する。

そんなこと言われても獣人とこれ以上行動をするのはハリビア大国に行くにあたり避けたいし、何よりエルナがものすごく怖がっている。

「どうするエルナ。コイツは多分諦めないぞ」

「もちろん諦めるつもりは無ぇ!俺とお前ならどんなヤツらも怖くねぇしよ!な?な!」

さっきまでとはまるで別人格のように笑顔を向け、仲間にしてくれと頼んでくる。

「…まぁ襲いかかってくる可能性もあるが、その時は止めればいいしな、根気負けだ。エルナ、こいつも共に行動させてやろう」

嫌そうにしながらも頷いてくれる。これ以上は時間が惜しいので歩きながら話すことにしよう。

「よっしゃ!ところでよ、そんな急いで行きたい場所ってのはどこなんだよ」

「ハリビア大国という場所です。ここからは距離もありますし少しでも近づいておきたいんです」

「ハリビアの国に行きたいのか!だがあそこは危険だぜ?見つかり次第容赦なく大勢で殺しにかかってくるからよ!」

「…もしかして行ったのか?」

「前に出会った獣達がハリビアには美味いもんが山ほどあるって話してたのを耳にしたんだ。手当り次第に移動してようやく着いたってのに近づくや否や問答無用で返り討ちにされそうになったぜ」

当時のことを思い出したのかブルブルと体を震わせる。

「近づくことすら許されないのか。想像以上だな」

「ハリビアは諦めるべきだな」

ハリビア大国が見えてきたら改めて策を立てるつもりだったが、そこまでとは。

「…あの。私、ずっと考えてたことがあるんです。成功率は低いと思いますしそもそも私に出来るかどうか分かりませんが…」

「どんなだ?」

「私にも感覚的には魔法が使えると言いましたよね?」

前に火を起こした時のことだと軽く頷く。

「お前ちっこいのに魔法なんて使えんのかよ!スゲェ!」

「そのちっこいのって言うのやめてください。私の名前はエルナです」

「おぉエルナか!!俺はイノガだ!よろしくな!」

エルナの話が気になるが確かに名前くらいはお互い知っておくべきだろう。

「俺はガウルだ。よろしくな」

「ガウルにエルナ。よし、もう覚えたぜ!」

「では話を戻します。私の扱える魔法は私自身よくわかっていないのですが、感覚的になら何となく扱える魔法の区別がついているんです。その感覚の中には『変身』の魔法も感じられます」

エルナ本人にしか分からないことだが、今の話を聞くにその『変身』という魔法は今回の話に最も役立つ可能性がある。

「つまりこの見た目を変えられるってことか?」

「まだ可能性があるというだけです。ですが、試す価値は十分あると思うんです」

それが可能なら随分助かるが、疑問もいくつか残る。

「だが色々考えることは多い。まずどんな見た目に変身できるのか。もし仮に人のような見た目に変身できるのだとしていつまで持つのか。完璧に体の全てを変身させられるのかどうか」

「おぉ、なんか色々大変そうだな…」

「その疑問を一つ一つ解決させるために、時間をいただきたいんです」

今は確かめることしか解決する方法はない。ならばその可能性を活用するために使わない手はないな。

「わかった。だが今からできるのか?」

「朝からイメージはずっとしていて、今なら試せそうな気がします」

ならば早速やってもらおう。

「では、まずはガウルさんから」

エルナは手をこちらに向け意識を集中させる。そしておまじないをかけるかのようにどんどん俺へと魔力がかけられていく。

そして───

俺は光に包まれ体全体が変わっていくのを感じていく。

「おいおい!まさかほんとにできてんじゃねぇのか!?」

目を見開きワクワクするイノガ。

「ッ!」

魔法をかけ終えて疲れるエルナだが、手応えがあったのか少し希望を宿している。

「どうですか!ガウルさん!」

「…これは…!」

俺を見つめる2人は嬉しそうに、そして驚いたように顔を見合わせる。

「お前!ほんとにガウルなのか!!まるでホントの人間みたいになったぞ!!」

イノガの報告を聞きまずは魔法の成功を確認する。

しかしほんとに成功するとは…。俺自身久しぶりの人間の体に喜びと安心を感じていた。

転生前の体とは少し違うかもしれないが、似たような感覚に嬉しくなる。

「やりましたねガウルさん。見た目は、子どもみたいに幼い感じですが完全に人間ですし、私の魔力は永続的にガウルさんに流れていますが、この程度ならイノガさん2人分を丸1日返信させられると思います!」

それは願ったり叶ったりだ。見た目が幼くなったのは恐らくエルナの魔力の容量の調節によるもの。だがこれはこれで動きやすく落ち着く感じがするのでむしろ良し。

「容姿に関しては人間になったガウルさんのイメージをしたんです」

それがこの見た目に繋がったと説明するエルナ。

近くに流れる川で自分の姿を確認する。

…なるほど、これがエルナが人間になった俺を想像した姿なのか。

髪はほんのり灰色がかった白色でそれほど長くなく、幼めの顔立ちで中性寄りだ。

顔や体つきは転生前に近くこれもまた気に入った。

「これが人間になった俺なのか…」

独り言のようにつぶやくとある異変に気づく。

「ガウルさん、声…!」

そう、俺の声も変わり、この姿に違和感がない声になっていた。

「…エルナ、お前の魔法はどうなってるんだ…?」

凄すぎてそう言わずにはいられなくなる。

「私も今びっくりしています。感覚的に魔法を使っただけなのでほんとに知りませんでしたから…」

本人が1番驚くのも無理はない。

「とにかく俺の分も大丈夫なんだろ?!早く試して見てくれよ!」

そうワクワクした感じで頼み込み、イノガへ魔法をかける。

イノガは──

「どうだ!どんな見た目だよ!!声は確かにガキっぽくなっちまったが、どんな姿になった!?」

イノガも似たようなもので、髪の毛は茶色く短髪で、幼い見た目になったが、中性と言うよりは明るく元気な男の子っぽくなっていた。

川で自身の姿を確認したイノガはその完成度に喜んでいた。

「これで襲われることはなくなったな。エルナには感謝してもしきれない」

「私も役に立てて良かったです!まさかこんなにピッタリな魔法が使えるとは今も驚いていますが…」

確かに少々出来すぎなくらい今の状況にピッタリな魔法だな。今日はそれを試せただけでも大きすぎる収穫なので、魔法を解きエルナの負担を軽くする。

辺りも暗くなってきたので今日はこの辺で休むとしよう──────

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