新たなる旅路へと
招かれた少し大きな家。やはりここはスディルの家らしい。
「さて、まだまだ色々聞きたいことはあるが…まずはこの先どうしていくか方針を決めた方が良さそうだと思う」
確かに行くあてもないのでここで情報を聞き出したいところだ。
「このままこの周辺で生活も出来なくはないが、不便だしな。それはエルナも嫌だろうし」
「ひとまず目的が定まるまでここで泊まってくれて構わない」
思わぬ発言にエルナと目を合わせる。
「いいのか?まだ出会ったばかりの俺たちを泊めても」
「お前たちを放っておくのはあまりよろしくないからな」
「ならせめて食料調達とかは俺にやらせてくれ。手伝ってほしいこととかがあるなら言ってくれ」
泊めてもらえるならそれくらいのことはしないとな。
「別に見返りは求めていかなったんだが…。そうだな、その方が助かる。ありがとな」
「お礼を言うのはこっちの方だ」
エルナも軽く頭を下げる。
「だがずっとここにいるのもあまり望んでいないのだろう?」
泊めてくれるのはありがたいが情報は入りにくいのも確かだからな。
「あぁ。なにかこの周辺に町みたいなところはないか?」
「あるにはあるんだけどな。なにせ歩いていくにはキツい道のりになる」
「もしかしてハリビア大国のことですか…?」
「よく知っているな」
ハリビア大国?聞く分には大国と付くだけあってでかそうだな。
「私の元々居た場所なんです」
そう聞いて俺もスディルも少し驚きを見せた。
「ハリビア大国からここに…?」
「はい。もうずっと前のことですが、元々は本当の母と父とそこで暮らしていました」
「まさかそこでも襲撃に?」
やや無意識に言葉を選ばずに発してしまったが、エルナは首を振る。
「いえ、ハリビア大国は名前の通り大きな場所です。中には腕の利く討伐班など色々な人がいるので、襲撃に会うことはまずありません。その分踏み入れるのに厳しい審査がありますが」
なるほど、話を聞く分には1番行ってみたい場所だな。
「だが遠いのもそうだが、お前たちが入国できるとは思えない。ましてガウルは見つかり次第すぐ討伐対象となるだろうな」
やはり一筋縄ではいかないことがたくさんありそうだな。
別の案を出すかしばらく考えてみたが、やはり大きな手がかりはそのハリビア大国になることを含めると、その方針で進めるしかないだろう。
「準備が整うまでここでお世話になることになるが、やはりハリビア大国に行くのが望ましい。方法は上手く見つけるとして、それまで準備を進めたい。エルナもそれでいいか?」
「私は大丈夫です。難しい道のりですが行動を起こさないことには前に進めませんからね」
エルナは意外としっかりしているようで、とても幼い少女とは思えないな。
「俺にできることはするつもりだ。改めて歓迎するぞ、ガウル殿、エルナ殿」
「これから少しの間お世話になります」
「世話になる」
方針も少しづつ定まりつつあるので、とにかく今日はここで休もう。
「この場所の案内を軽くしようと思う。いいか?」
「助かる」
そしてスディルについていくように案内をされる。
決して広いとは言えないが周りは草の輝く心地いい景色に、綺麗な川。やはり日本とは全く違うな。
「そしてここは子供たちの家だ。人数は7人だがみんな元気のいい子達ばかりだ。近いうちにあいさつできるとこちらとしても助かるんだがな」
「怖がらせることはしないから安心してくれ。少しづつ慣れてほしいな」
「エルナ殿はすぐ打ち解けあえそうだ」
そういう話をしばらくし俺たちは何とか今日を乗り越える。
次の日の朝、子供たちの元気のいい声が聞こえ目を覚ます。
ほんとに元気がいいな…そう思っていると腹に衝撃が走る。
「うぐっ!」
思わず悶えてしまった。体を起こし状況を理解しようとすると──
「ねぇねぇ!あなたはスディのお友達なの?遊ぼ遊ぼ!!」
「ねぇスディのお友達のモサモサさん!こっちでかけっこしよ!」
子供たちに腕やら毛やら引っ張られて少し痛い。
「やめなさいベーネ、ハウト。ガウルは遊びに来たわけではない」
子供たちが多いと大変だな…。スディルの性格の良さと器用さに尊敬する。
「いや、むしろ子供たちの方から心を打ち解けてくれるならありがたい。器用にできないかもしれないが遊ぶのは嫌いじゃない」
そう言い申し訳なさそうにするスディルに断りを入れ外でベーネとハウトと呼ばれた子達と遊ぶことに。
エルナはというと他の女の子と近くのお花みたいなものを集め繋ぎ合わせ頭に乗せて話し合っていた。
エルナに関してもまだまだ知らないことはたくさんあるな…。ああいう風に笑顔を見せるのか。大人びた言葉使いや意外と感情を出すこと。昨日今日でも色々な部分を垣間見る。
そんな姿を遠目から見ていると、ベーネが手を引き提案をする。
「あのね、ここら辺にある石を1番遠くに飛ばした方の勝ち!」
そんな遊びでいいのかと思いつつ素直に従う。
まずはベーネ、次にハウト、最後に俺だ。
飛ばす方向は川に向かって危なくないように投げる。
ベーネは力いっぱい投げたが数メートルほどで、ハウトはその先を少し超えた辺り。
悔しがるベーネと喜ぶハウトを見て、俺も少し微笑ましい気持ちになる。
「次、ガウの番!」
そう言われたが本気で投げても大人気ないよな…。ここは接戦と思わせる方が得策だ。
「待て、俺も参加しよう」
スディルがそう声をかけてきた。
「丁度子供たちの朝ご飯の片付けも済んだところだ。子供相手では本気は出せないだろ?」
薄く笑いながら勝負を挑んでくるスディル。そういうことなら遠慮はいらなそうだ。
気づけばエルナも子供たち全員もこちらを見ていて、手は抜けない。
「お互い本気でな」
「わかった、それじゃまずはお手並み拝見といこう。スディルから頼む」
頷き思い切り石を投げるスディル。っとこれは。
思っていた以上に飛ばし、川を超えもはや明確な着地点は見えないほどに。
「まぁこんなもんだな」
ニヤリと笑うスディルに少し対抗心を燃やし、石を握る手にグッと力を入れる。
そして俺も構え、思い切り投げる。
すると、思っていた以上に力が加わり豪速球で弾丸のように真っ直ぐ飛んでゆく石。
「…やりすぎた」
スディルを含め子供たちみんなが軽く驚いている。
「すごいすごい!スディに勝ったー!」
「ガウすごい!」
「すごかったですねガウルさん」
子供たちとエルナにやや大袈裟に褒められ少し照れくさくなる。
「…俺もかなり本気で投げたんだがな…挑む相手を見誤ったようだ」
自分の敵う相手じゃないと悟りやや呆れ気味につぶやく。
「いや、俺もびっくりしてるんだが…なんか、ごめんな」
「遊びの石飛ばしだ。本気で悔しがっているわけではない。ただ、素直にすごいと思っただけだ」
そんなこんなで石飛ばし遊びも終わり、子供たちも家へと入っていった時、俺はスディルに別れを切り出す。
「なぁスディル。しばらくここにお世話になろうと思っていたんだが、今日出発しようと思う。急で悪いな」
「そうか。俺はいつでも構わない。好きな時に出発するといい。いつでも寄ってくれていいしな。」
スディル達との別れはちょっとばかり寂しいが、仕方ない。
エルナもみんなと別れるのが寂しいのか少ししょんぼりしているが、割り切ったようだ。
「その言葉は嬉しいが、ハリビア大国は遠いんだろ?そんな行き来するのは勘弁だ」
俺とスディルは軽く話し込み、子供たちみんなにも出発することを伝える。
スディルと子供たちみんなが俺たちを見送ろうと集落の入口まで来てくれる。
「少しの間だったが世話になったな。急で申し訳ない」
「ガウ達もう行っちゃうの?もう来ないの?」
「私たちはしばらくここに来ないかもしれません。ですがまた用があれば立ち寄らせていただきます。スディルさんもみなさんもありがとうございました」
そう感謝を述べ頭を下げるエルナ。
「もし良かったらこれを持っていってくれ。これは俺からの、なんていうか友の証みたいなものだ」
少し照れくさそうにそう言い小さな宝石のようなものを渡される。
「これは宝物だな。大切にもっておくことにする」
そして俺とスディルは握手を交わしエルナもみんなと握手をした。
「では、行ってくる」
「気をつけな」
「バイバイ!ガウ!エルナー!」
温かい見送りを受け取り歩みを進める。
エルナは少し目を赤くし嬉しそうにしていた。
「みなさん、ほんとに良い方でしたね」
「すぐ出発するのは名残惜しいくらいにな」
「ですが早い段階から移動するのは私も賛成ですし、お気になさらず」
私は大丈夫ですと言ってくれるのはこちらとしてもスムーズで助かる。
この先にあるハリビア大国へと、スディルの助言とエルナの情報で向かうことに。
入国する方法やその後のことをエルナと考え、とにかく歩くことになりそうだ。