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旅と出会いと第一歩

目に差し込んだ光と鳥の小さな鳴き声で目を覚ます。

木にずっともたれ掛かったままだったので首と腰が少し痛いが、あの出来事の次の日とは思えないほどスッキリしていた。

昨日出会った薄緑色の髪の少女は無防備に横になっていた。とりあえず何事もなくて良かったと思う。

俺は少し先にある川に移動し周りを確認して水浴びを始めた。汚れたままでは居心地悪いと思ったからだ。

バシャバシャと全身に水を浴びうがいも済ませ、毛に染みた水を弾いて服を乾かすためになるべく陽の光に当たるように移動する。

少女の様子も見つつ辺りを探索することにしよう。

だが見渡す限りかなり移動しないと手がかりは少なそうだな。少女が起きるのを待つまで俺もゆっくり休もう。

しかし腹が減ったな…。飲み水は川の水を飲むことにしたが、少女からしたらあまり川の水は飲みたくないだろう。

食料などもこれから調達しないといけない、そんなことを考えていると少女がゆっくりと体を起こした。

「…私、生きてる…?」

やや寝ぼけていながらも自分の生存確認を問いかけてくる。

「大丈夫だ。何もしてないし何も起こってない。ぐっすり寝れたようで何よりだ」

「お腹減りました」

少女もまた、昨日の出来事の後だと思わないほど落ち着いている。

「俺も同感だ。もし大丈夫なら朝飯くらい調達してくるが、どうする?」

「その前に、私も水浴びしたいです。いいですか?」

俺が水浴びしてたの知ってたのか。断る理由もないので川へと促す。

「終わるまであの木の下で待ってる。川は浅いが石とか気をつけろよ」

「…マーヤさんは毎日私の体洗ってくれました」

その言葉の意味が一瞬よく分からなかった。が、少しづつ少女の言いたいことを理解する。しかしそれは…。

「えと、マーヤさんじゃなくて悪かったな」

「そゆことじゃないです」

わかっている。けどそれはダメだ。俺はただの野生生物ではなく中身は立派な23歳だ。

「こっちにも色々事情があってな。無理にでも1人で浴びてもらう。何かあったらすぐに駆けつけるからさっさと済ませてこい」

ややムッとしながらも仕方なく川へ向かっていった。

それから水浴びを済ませお互い食料調達へと歩く。

「ここら辺にはどんな食べ物があるか分かるか?」

ここら辺のことは全く知らないのでそう聞いてみる。

「えっと、木の実とか植物とかあんまり詳しくないけど…お魚とかよく食べます」

「魚か。悪くないが今は肉が食べたいな」

普通に言ったつもりだったが少女はちょっとだけ警戒の目を向けてきた。迂闊に口にすることじゃなかったと反省する。

「まさか私を…」

「まだ信じられないか?人は襲わないとここに約束する」

「そうでしたね。念の為の確認でした。ですが私の周りではお肉を調達できる人がいなかったので全然食べたことないんですよね」

確かにそういう問題もあるんだろうな。

「食べてみたいとは思うのか?」

「前にマーヤさんが村を出た時にお土産で買ってきてくれて焼いてくれた事があるのを覚えています。また食べてみたいですが、今は気分が…」

これ以上は申し訳ないのでやはりご飯は魚にするか。

「川に魚はいるのか?どれが食べれるとか分かったりするか?」

「いますよ。よく食べるのは全体的に青色の小さめのお魚です」

ということなので川で魚を見つけることに。

「ですが素早いと思いますし捕まえるのには皆道具を使ってた気がしますよ?どうするんですか?」

「道具があればいいんだがな。ないから素手しかないだろ」

「素手ですか…捕れますかね」

自信はないがとりあえずやってみるしかないだろう。

川の中に目を通すがそんな簡単にはいないようだ。

「ここら辺の川にいるのか?」

「いると思いますよ。そんなたくさんはいないようですが」

なかなか飯を食べるのも難しそうだな…。改めて日本のありがたさを実感する。

っと思った時、少し先に輝いて動いている魚を見つける。

「いたな」

「え?どこです?」

「そっと移動するぞ」

忍び足で近寄り魚の目の前まで来る。

そして─。

「っしゃ」

両手で2匹ずつ捕まえたのを見て、少女は軽く驚きパチパチと軽く拍手をしてくれた。

「多分これ食べれるやつだよな?意外と大きめのゲットしたな」

「そうですね。大きい分にはありがたいです」

「さて、木を集めて火起こすか。少し手伝ってくれ」

そう言い2人で燃えそうな木を集めて1箇所に集める。

「火起こしなんてできるかな…どうやるんだっけか」

「私に任せてください」

知恵があるのか?とにかく任せることにしよう。そう思っていたのだが…

少女が指先で火を灯しそれを集めた木へヒュンっと火をつける。

「…え?」

「…え?」

俺が理解出来ずに思わず声を出すと、少女も何か変なことでもしましたか?という顔で見てくる。

「どんな手品だそれは。いや、まさか魔法だったりするのか?」

異世界転生したともなれば納得はいくが、目の前で見ると非科学的なその魔法を目の当たりにするとやはり不思議だ。

「私にもちょっとしたことは感覚的に使えたりするんですよ。ほら、お魚を焼きましょう」

それはすごくありがたいので細い枝に通した魚を火で焼くことに。

朝ごはん(随分と時間がかかったが)の焼き魚を食べ何とか危機を脱した。

お世辞にも美味しいとは言えなかったが無いよりマシだと思いお互い夢中になって食べる。

満足はしなかったが意外とお腹も落ち着いたのでいよいよ移動し手がかりを探すことにしよう。

「とりあえず腹ごしらえもしたことだし、手がかりになりそうな場所の情報はないか?」

「外のことはあまり詳しくないので…ごめんなさい」

「いや、謝ることじゃない。この先をとにかく歩こうか」

適当に真っ直ぐ進むことにし、お互い話しながら歩いていく。

「そういえばお名前はあるんですか?」

「…名前、か」

そこら辺のことはあまり考えていなかったな。楓とでも名乗ろうかと思ったが、この見た目でそれはちょっと嫌だと思い考える。

見た目的にこの種族は狼やタイガーを人型にしたような見た目。だとするならウルフやタイガーと名乗るか?だがそれだと安直すぎるし、名前として呼ばれるのは避けたい。ならば、タイガーとウルフの間を取って───

「…『ガウル』だ。そう呼んでくれ」

「ガウルさんですね。わかりました」

自分で生み出したとしてはいいセンスだと思い少しかっこいいと思った。

「お前は?名前、なんて言うんだ?」

ここに来るまでずっと聞いてこなかったからな。

「私はエルナです。申し遅れてすみません」

いや、こちらも同じようなものだから謝られると困る。そう思いエルナという名前に納得する。

「エルナか。いい名前だな」

そんな話をしつつ歩いていると遠くの方で小さな集落を見つける。

「とりあえずあそこに訪ねてみるか」

「そうしましょう」

近づくと誰かいるのが分かった。

優しく子供達と話している一匹の大柄な獣。だが毛並みはフサフサでミルクティー色とでも言うのだうか。大きな見た目に反して優しく微笑んでいる。

「優しそうな方そうですね」

「そのようだな」

さらに近づくと相手もこっちの存在に気がつく。それは迎えられていると言うよりか…。

「離れなさい!」

先ほどの表情とは程遠い睨みつけ警戒するような顔を向けてくる。

こうなるだろうことは薄々感じていたが…。

「違うんです!話を聞いてください!」

エルナが訴えかけるように必死に伝える。

「そいつは危ない、何をしている!」

「襲う気は微塵もないんだ。とにかく話を聞いてくれないか?」

「話だと?こんな風に話しかけてくる牙獣は確かに出会ったことは無いが、信じるわけにはいかないな」

そう言い子供たちを守るように構えをとる。

「ガウルさんは特別なんです!お願いします、話だけでも聞いてください」

そんな必死なエルナの表情を見て何かを感じ取ったのだろう。構えを崩し指を指してくる。

「…いいだろう。しかし話をするのは少し離れたあそこでだ。それと少しでも不振な動きを見せたなら容赦はしない」

とりあえず話はしてくれるみたいだ。ここでエルナの存在はでかかったな。

指さした場所に移動し、事情を説明する。

この種族で唯一理性があること。昨日の出来事などを。

「全て今ここで信じ切ることはできないが、やはりエルナ殿の必死な目を見れば信じるしかないと思えてくるのが不思議だ」

「随分子供たちに慕われているんだな」

見た感じ子供たちは人間だった。

「俺も最初はものすごく怖い思いを子供たちにさせた。だが、皆を守り、遊び、日々を過ごしていく内にな。だからお前たちを見てると昔の自分を思い出す」

なるほど。この獣も似たような経験をしてきたのか。

「申し遅れたな。名はスディルと言う。子供たちからはスディと呼ばれているが、好きに呼んでくれて構わない」

そう言ったスディルは右手を差し出してきた。それに応えるように俺とエルナも握手を交わす。

「まずはこの場所に歓迎しよう」

微笑みながら仲間として認識してくれたスディル。

「とりあえず仲間として認識してくれたってことでいいんだな?こちらとしてはすごく助かる」

「そうだな。だが、手を出そうとしたらすぐにでも容赦はしない。そこだけは覚えておいてくれ」

「肝に銘じておく」

「良かったですねガウルさん」

ひとまず手がかりの第一歩を掴んだと見ていいだろう。

まずは情報を交換するために、スディルと俺とエルナでこの集落で1番大きな家に招かれる───

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